第24話:見果てぬ夢
「直衛……。わたし、わたし……」
裏路地。
へたり込むトーコ。
そこは夕日に照らされるよりも赤く染まっていた。血溜まり。彼女の眼の前には何かが転がっていた。
直視するなと本能が告げている。
それでも、オレは見てしまう。
それがなにかすぐにはわからなかった。
何かの塊。……段々と理解していく。理解してしまう。
それは下半身だった。上半身はどこにいったのか。臓の一部がこぼれ落ちていた。接続先はその下半身。つまりは上半身はどこかへと消えてしまった。目が離せない。その断面は鋭利なものでの切断ではない。まるで何かにかじり取られたか、引きちぎられたか。
「ああ……」
オレは理解してしまった。
結人。いや、結人だったものが誰にやられたのか。どうしてトーコがへたりこんでいるのか。
「そうですか。強い魂は強い魂に引かれるとも聞きますが、あなたの強さに合点がいきました。
神が定めた存在であればこそ、その魂は強い。
あなたはその魂のご友人なのですね」
振り返る。
いや、振り返るよりも先にオレの体は何かにすり潰されていた。
一瞬見えた姿は殆ど炭化した姿の片良瀬。瞳だけは爛々と輝いている。
「あなたも、獲得させていただきましょう」
「いや、直衛……いやあああああーーーっ!!!」
もはや殆どの意識はない。ただ、トーコの悲痛な叫び声だけがやけに鮮明に聞こえていた。
✘✘✘
あの『部屋』で目を覚ます。
……死んだ。
だが、この部屋にいるということには一つの、かすかな安堵を覚える。
やはりオレは死んで終わりになるってことはないらしい。
だが、安堵の気持ちはかすかなものに過ぎない。
イスに座る。
机の上にノート。
だが、手が動かなかった。動かせはする。気力がどうしてか湧いてこない。
理由はわかっている。
オレが体験したイベントが、オレの知らないものだったからだ。
納得して頷いていたはずだった。これがオレにとっての現実であることを。
予想できない先の状況。
何を書けばいい? 何を失敗だったとすればいい?
恐れていた。ゴールが見えない中で死ぬことを。
……。
いや。
恐れてなどいられない。オレの耳にはトーコの悲鳴がまだ耳の中で響いていた。
へたり込むのはオレがやれることをやりきってからだ。
ノートに向かい、あったことを纏める。
✘✘✘
扉を開いた先は、二人が来なくて迎えに行くかと決めた時間だった。
走る。
あの場で何があったのかまではわからない。わかることはあそこで結人が死にトーコが絶望したことだけ。
片良瀬が何かしたことはわかるが、問題はそこではない。
走る。
オレはひたすらに走る。
見えてきた。だが、すでに状況は……。
「おや、二人のお知り合いですかな」
不意に聞こえてきた声。オレの体は不意に何かに──恐らくはあの隼に貫かれていた。
「余計な横槍は困りますので先んじてご挨拶をさせていただきました。それでは、やることもありますので失礼」
膝をつく。
トーコの悲鳴が聞こえる。オレはまた守れなかった。
意識が拡散し、次に目を覚ましたときにはまたあの部屋にいた。
次も、次も次も、守れなかった。
時間を逆ましに戻して、場面ごとやり直すこともできない。融通の効かないセーブデータのように。
「トーコ、大丈夫……か?」
何度目か。
片良瀬を倒し、止めもしっかりと確認し、それからへたり込む彼女に向かう。
その瞳は正気のものではなかった。
「直衛……」
小さく彼女は呟く。
「こんなの、嘘だよね? 夢なんだよね?」
言葉もない。返せる言葉など、持ち合わせていなかった。
「夢。夢。夢だよね……。夢で、あってよ……」
周囲の空間が捩れ、変質していく。オレはこれを体験として知っている。詩織が行った──到達したと言うべきかもしれないが──バッドエンドの終点。フラグの終わり。つまりは、
「みんな、夢、なんだよね? 悪い夢なんだ……。 だったら──」
溶けていく。全てが。現実が侵食され、夢であれという彼女の悲痛な願いが世界を犯していく。
オレの指先が水に溶けゆく絵の具のようにして消えていく。オレや世界だけではない。結人の欠片も、トーコ自身すら。
「もっと、幸せな夢を、見ないと……。もっと、深く、深く……眠らないと──」
やがて、全ての色が混ざり、黒へと染まり、全てを消し去った。無音。今までの歴史の全てが誤れる夢であったと伝えるように。必要な真実、あるいは残酷な現実など存在する必要がないと否定するように。その世界には二度と現実と呼べるものが現れることはなかった。
『闇堕ちルート/観戦モード
トーコ編END No.7:見果てぬ夢』
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