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第14話:都市伝説とオレ

 一般人の視野では何も見えないが、オレはデバッグのアレのお陰で元一般人という扱いで見えざるものを看破できるようになっている。


 かつてのゲームが敵を示すアイコンに触れれば戦闘となる、いわゆるシンボルエンカウント式。現実で戦闘画面に遷移するわけもないだろうが。

 アイコン(シンボル)がうろつきやすい場所も決まっている。ひと気の少ない場所がそこだ。度々通り魔だとか行方不明者が出るだとかと言われている場所は大抵、怪異の手にかかった被害者のことを指している。


「ぎぎぃ」


 犬や猫、ネズミの声や発する音ではないもの。

 ゴミ箱の影に人間の顔めいた部位を持つ犬がゆると現れる。

 人面犬って奴だ。ただ、顔面が人間の普通の犬、というわけではなく──


「ぷふあ」


 鼻先からべりりと花弁が開くようにして広がる。内側には牙がびっしりと生えていた。

 画面で見るよりよっぽどグロい!


 犬に顔がついている人面犬、というのは一般的な都市伝説(クリーピーパスタ)だが、怪異ってのは人間に害を成すことを主軸にでも置いているようで(本来は襲ってくる敵なわけだから害があって当然なんだが)、この人面犬は『都市伝説を知っている人間が見て、興味を引かせて近づかせて捕食する怪物』として、害意のあり方が一歩前に進んでいる。


 これが『噂によってフラグを立てることで現れる怪異』ってやつだ。

 こいつは稼ぎとして相当優秀で、資金以外はこの時点で稼げる中ではパーフェクトと言ってもいい効率を稼ぎ出せる。


 なんて思っていたら相手が顔を開き、捕食体勢を取る。

 オレも手を開き、紙片の到来を念じる。

 ぶぅんと自然では聞き慣れないような音をかすかに立てながら手のひらに一枚のカードが現れる。


「Aaaahhgggiiihhhllllll!!!」


 人面犬の絶叫に応じるように、


「スパルタクスッ!!」


 オレは力あるものの名を呼ぶ。紙片が光の粒子として消え、オレの横に立つようにして剣闘士の剣(グラディウス)を構える女として再構成されていく。

 燃える陽光のような赤いブロンドが召喚によって巻き起こった風にたなびいた。


 迫る牙は片手に備えられた長方形の盾を構え防ぐ、ではなく弾いて逸らす。パリィってヤツだ。

 呼び出したとはいえ、彼女はただの操り人形ってわけじゃない。歴戦の経験ってやつがある程度が迫る脅威に自ずと行動してくれる。

 ただ、オレの意志はその上位にある。この手を横に振れば応じるようにしてスパルタクスが剣を横薙ぎにした。

 爆発的な一撃に人面犬は粉砕機(カーカスシュレッダー)に巻き込まれたかのようにして折り曲げられながら人面犬だったものに変わった。


「強ぇー……」


 心髄外科によって切り出した精神の破片とも言うべきものは、このようにして再利用できる。

 一瞬だけではあるが、こうして顕現させて紙片が持つ力を解放することが可能だ。


 倒された人面犬は赤黒い光の粒子に変わり、それはオレの体へと吸い込まれていく。

 ゲーム的に言えば経験値とゲーム内通貨を兼ねたものだ。こいつで自分や仲間を強化したり、装備品や消耗品を購入したりする……のだが、それは主人公の話。

 オレは吸うだけ吸うが使う場所がない。まあ、いつか役に立つかもしれない。


「ドロップ無し、と」


 無意味なポイント獲得とストレス発散のために人面犬をふっとばしたわけではない。

 大目的は一つ。二次目的は三つ。


 二次目的その一はドロップ狙い。

 怪異を倒すと心髄外科で切り離したときに得られる紙片(カード)のようなものが手に入る。

 スパルタクスと比べて価値は大いに薄いものだが、利用価値は大いにある。とにかくカードが欲しい。


 その二がスパルタクスとオレの同調率を高める作業。まあ、平たく言えばレベル上げだ。

 先程の赤い光とは別に、スパルタクスに戦わせることを使役と呼ぶ。

 この使役は対象を使えば使うほど対象、ここで言えばスパルタクスが強化されていく。


 で、二次から語ったが、大目的はそもそも『ここは現実ではあるが、そうした仕様はゲームと同様なのか』だ。

 この辺りの調査作業はそれこそハイテンションになって獲得しにいき、手に入れることができた心髄外科等等の実存によってある程度は済んではいるが、では全ての仕様が同様なのかってのは判断できない。

 だからこそ地道に地道に調査をせねばならない。



 ✘✘✘



 単体でも美味しいっちゃ美味しい人面犬だが、これじゃあ稼ぎとは呼べない。

 本来の想定を大きく上回る効率を出してこその稼ぎだ。

 そのためには何度も人面犬に挑む必要がある。が、倒してしまったのにどうやってまた探すのか。


 簡単だ。

 また出てきて貰えばいい。単純な答えだろ?


 人面犬の出現(ポップ)方法は確立されている。

 まずは生ゴミを特定の蓋付きのポリバケツに突っ込んでおく。今回は自宅から持参した。終わったらちゃんと持ち帰りなおすから安心してくれ。


 で、突っ込んだら次は方角で見て南の道から進んでポリバケツの位置に進む。

 そうすると確定で人面犬と遭遇できる。


 乱数調整だとかそういうのではなく、この作品がMQLであるからこその方法である。

 殆どの都市伝説(クリピーパスタ)系の怪異は目撃例などをベースとした『召喚方法』が存在するように設計されている。


「生ゴミ、OK。南側の進入路確認、OK。それじゃ調査開始」


 口にわざわざ出しているのは記憶の名残。ショボいヘマとミスで手順がおじゃんになってまる一日抜け殻になったトラウマからこういうときの指差し確認はオレにとってのデフォルト挙動になっている。


 南から入る。


「Houuuu……」


 ポリバケツを漁ろうとしているところに遭遇。

 調査完了。怪異は任意の手順で出現させることができる。


 ──さあ、狩りの時間だ。



 ✘✘✘



 TIPS

 同調率:対象のカードのレベル(使用している人間以外が使った場合でもある程度保持される)。

 上がれば性能が高まるだけでなく、新たな能力を得るチャンスも。

 レベルが足りずとも同調率が高ければ反抗・反逆などはされない。


 使役レベル:使役している当人のレベル。使用しているカードのレベル以上であれば使役物の性能をいかんなく発揮できる。レベルが足りなくても使役は可能だが性能が大いに低下し、場合によっては反逆される。



 ✘✘✘



 私──草紋 詩織のスマホが鳴ることはほとんどない。

 クラスの連絡網か、親か。

 どちらにせよある程度決まった時間に来るもので、不意打ち的な連絡というのは珍しい。


 ◆直衛:元気?


 予習のために入ったルーンバックス。


 いつものルーティーン。それを破ったのはあの人の0874によるメッセージだった。


 夢だとは流石に思っていなかったけれど、彼が何かしら物語に出てくるヒーロー的な存在なら私を助けたのは大勢の一人に過ぎないのだろうと、そう思っていた。


 だから、必死に日常に戻った。


 ルーンバックスでの行う授業の予習は非日常から日常に戻してくれるリハビリのようなものだったし、それは効果が強く出た。


 ようやく彼が夢に出てきて、あられもない内容に顔を赤くしながら起きる朝から脱することができたというのに。


 そのメッセージ一つで、心臓が早鐘のように鳴り響く。


 幾つかのやり取りをした。

 取るに足らないと言ってしまえばそのとおりの話題。


 ◆詩織:はい。変わらず健康です。

 ◆詩織:直衛さんはどうですか?


 ◆直衛:忙しさにかまけて牛乳を腐らせかけたよ。

 ◆詩織:……飲んだのですか?

 ◆直衛:腐ってないから!

 ◆直衛:賞味期限だか消費期限だかは見忘れたけど、お腹は壊してないし!

 ◆詩織:……。


 疑うような間を作ってしまう。


 ◆直衛:すみません……。気をつけます……。


 妙なところで冒険心のある人というか、放っておけないというか。


 ◆詩織:雑談だけでも嬉しいですけど。

 ◆詩織:何かご用件があるんですよね?


 緊張しすぎて機械的になってしまっているような気がしたけれど、これまでの人生で可愛らしい女の子の文面なんて意識したこともない。

 人面犬の噂だのなんだのを話したあと、彼は何気ない様子で言葉を投げてきた。


 ◆直衛:人面犬探索デートを計画したりも考えたけど、流石にそれをデートと言い張るのは色気がないなと思ってさ。

 ◆直衛:人面犬探索も、デートも、どっちもするつもりだからさ。

 ◆直衛:むやみに探しに行ったりしないでほしいって言いたかったんだ。


 で、デート!?

 デート……デート? デートって……あの、あれ? 男の子と女の子がその、何か楽しそうにすること? 貧弱な私の想像力ではそれ以上のことは何も想定できない。

 けれど、夢ではない。

 これは確かに今、現実としてそこにあるメッセージだった。


 あの日から自分で行動しなかった。

 どうやって行動すればいいのかもわからなかった。


 でも、わかっていることもある。

 このメッセージの応答をミスしてしまえば、きっともうチャンスは来ない。そんな気がしている。

 乗るべき列車は一度しか来ないと誰かが言っていた。

 時刻表を確認し、行き先を指差ししている暇なんてないのだ。


 ◆詩織:わかりました。

 ◆詩織:人面犬は探しに行ったりしません。


 それだけじゃだめだ。

 だから、


 ◆詩織:でも、デートは。

 ◆詩織:誘ってくださらないとこちらから誘いますから。

 ◆詩織:では、塾が始まりますから、失礼します。


 塾なんてまだまだ始まらない。

 けれど、これが精一杯だった。

 カフェラテを飲み、何とか自分の発言を薄めようとする。

 けれど、

 最後の彼の返信が、今日一日……ううん。きっとこれから一週間は私の心を奪い去るに充分な一撃があった。


 ◆直衛:誘ってくれるのもドキドキする。

 ◆直衛:オレから誘うつもりだけど、そっちからのお誘いも期待しちゃいそうだ。


 ◆直衛:楽しみにしてる。楽しみにしていて。

 毎日一話ずつ更新させていただきます!


 お楽しみいただけましたら是非、評価やお気に入り登録などしていただけますと人生の喜びになります!


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