第13話:明日も世界が続くように
別日。
静間兄妹との関係性を深めることも楽しいが、本来設定した目標もある。そいつはオレにとって大切なものだ。
つまりは、取得不可能とまで言われているトロフィーを獲得すること。ゲームではないから画面の端っこにピロン。
『なんかすんごい実績』
みたいな感じで出てくることはないだろう。
だから実績を取るという理由と結果については心の持ちようになるのかもしれないが、それはそれで構わない。
達成のためにはオレの預かり知らないところで世界が滅んでしまうことを回避する必要がある。
つまりは、目に見ているメインイベントを攻略不能な状態で迎えることが最悪のケースだってことだ。コントロールできるうちに『詰み』ってやつを回避せにゃならない。
そして、しっかりとした準備をせずに状況に向かっていけば、一般人であるオレの手札などあっさり尽きて八方塞がりになるのが目に見える。
どうして詰むのか。本来は大人気ゲームなんだからそんな派手な難易度にするものか、ってのは前もちらっと言ったと思うがルナティックモードってのが問題になっている。
今回はそいつの仕様の一部をチラっと話そう。
ルナティックモードでは敵が強い。ただ、全ての敵が強いわけではない。
どの敵が強いのかってのはゲームの上ではわかりやすく設定されている。
一目瞭然なのは、ステータス画面や図鑑といったもので固有の説明を与えられた対象であること。
つまり、
たとえば、ノームって敵がいるとしよう。
この世界において、以下が一般的なノームの説明になる。
怪異:ノーム
庭に置いてある、赤い三角帽を被ったノーム人形に、地の精霊ノームの霊魂が乗り移ったもの。
……うん。普通だよな。
で、次が『そうじゃない』ノームだ。
怪異:〝悪しきノーム〟アースロック
人間の魂を捕食し続けた結果、自我を得たノーム。
悪人の魂を喰らい続け、その悪の色に染まったアースロックという自我を持ったノームは、
生前の魂たちがそうしたように自分よりも力のない弱者たちを文字通りの食い物にしている。
物騒。書いていることが物騒。
とにかく、こういう感じで同じノームでも説明が違ったりする。
ルナティックではボスや名持ち以外に、この説明違いの相手──『ユニーク』というカテゴリで語られる敵を強化している。
強い敵は強い。
頭の悪い結論ではあるが、それが全てとも言える。
厄介なのはその『強さ』は世界そのものに影響を与え、本来イベントとして進行する戦闘で自動的に勝利できるイベントすら敗北に変える可能性もあること。
ボス戦の前にふらっと現れる、本来ならボス前にちょっとした経験値稼ぎができるように配置されたご褒美が確定殺傷地雷になっていることもしばしば。
そのうえでボスもルナティック仕様で超強い。
あちらこちらに丁寧に置かれたゲームオーバー画面特急券持ちにどうやって勝てってんだよ、ということに対する策もある。
が、それを取るにしても何はなくとも経験値を積む。そしてそれ自体はルナティックでも制限はされていない。つまり稼ぎと呼ばれる行為自体はある程度許容されているわけだ。
作り手もクリアされたくないわけじゃない。
もっとも、稼ぎすぎるとユニークが襲ってきたり、ランダムイベントでネームドが襲ってきたりするような罠は仕込まれているので最大限の注意が必要なのことには変わりないが。
さて、ではその稼ぎとはなにか、というと種類は大体三つ。
一つ目が経験値稼ぎ。
二つ目が資金稼ぎ。
三つ目が資材稼ぎ。
最高なのは全てを兼ね備えている稼ぎと狩り場であることだが、流石にしっかりと調整されている本作にそんなものは用意されていない(正確にはかつてはぶっ壊れ狩場が存在したがアプデでしっかり潰されている。発売後もちゃんとアプデしてくれるのってありがたいよな)。
そこらに現れる通常エンカウントよりも、イベントによって誘発する怪異を倒すほうが効率がいい。ただ、イベントはそもそもフラグを踏まないと発火しない。つまりは『ボタンを押して敵を呼ぶ必要があるよ』ってわけだ。
そのボタンが何かについては……、
「ええと。──あったあった」
ソーシャルネットワークアプリ、0874。
登録されているのはクラスメイトや教師、学校関係の各機関。つまりは学校側で登録しようと呼びかけられている相手しかいない。
ただ、一つだけオレが自主的に登録した相手がいる。
詩織だ。
別れ際にちゃんとしたお礼を言いたいからと彼女に登録を求められた。
女の子と0874登録するって緊張するなと想いつつも態度は変えずに求めに応じていた。
が、オレにはその登録には意図があった。桃色の学園生活を送るためだけではない。
◆直衛:元気?
なんて送ればいいかわかんない。ので、無難な一言。
◆詩織:直衛さん。ご連絡ありがとうございます。はい、元気です。
ぎこちなーい返事。
電話じゃないなら相手の感情もわからない以上は仕方もないことだが。
◆直衛:詩織が遭っちゃった件以外でも夜の街は危険が一杯だから気を付けてね。
◆直衛:不審者以外も色々噂あるでしょ。
『詩織が入力中』という表示したり消えたり。しばらくしてから、
◆詩織:はい、聞いたことがあります。
◆詩織:裏路地に人面犬がいるとか、そういう話ですよね。少し前までは取るに足らない、くだらない話だと思っていましたけど、今はそういう話題に敏感になってしまっています。
また少し入力中。
◆詩織:もしかして、その人面犬というのは本当に存在しているのですか?
そう。この言葉を待っていた。
人面犬と戦うためのフラグ。特定の怪異は遭遇する人間が自らで情報を取りに行く必要がある。
特に都市伝説系の怪異は0874による会話がフラグだったりすることがほとんどだ。
ただ、これで条件を満たしたからそれじゃあバイバイ、は流石に冷血すぎる。オレだって詩織には思い入れはあるのだ。
◆直衛:存在している、と言いたいけど、流石に人面犬探索デートは色気がなさすぎるから、そういうお誘いはするつもりはないし、詩織も探しに行ったりしないでね。
ゲーム中の話で恐縮だが、詩織のデート用コーデは普段のおカタい感じとは違うものだったりするので是非見たい。
……が、青春にかまけて状況と世界が詰むのは困る。
なのでとりあえず好意を持っていることはストレートに伝えておく。一人ではないことを伝えることはどんな状況でも重要なことだろう。
とくに目覚めて日も浅い彼女にとってはなおさら。
◆詩織:わかりました。
そうして暫く入力アイコンが出たり消えたり。
◆詩織:誘ってくださらないとこちらから誘いますから。
◆詩織:では、塾が始まりますから、失礼します。
と、会話は終わりそうになったのでオレも一言だけ返信した。
それにしても『こちらから誘う?』……詩織ってこんなに積極的な子だったのか?
いや、考えても仕方ない。ドキドキはしたが、初志貫徹。まずは稼ぎだ。
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