第12話:チャート確認
思い出せる限りの既存チャートを書き記しているオレ。
本来持つべき知識や思い出の全てをMQLに捧げてきた自信も自覚もあるが、それでも脳みそには限界がある。
直衛ではないオレの残滓を手繰れば『配信する攻略Wiki』、『攻略本に手足がついたような男』、『大丈夫? 廃人の攻略法だよ?』と唄われた記憶はある。
だが、それが維持され続けるとは限らない。
共存、とは聞こえはいいがオレからしてみれば別の容量が詰まった箱とスペースを分け合っているようなものではなかろうか。
だとしたなら、何かの拍子に分け合っているスペースが崩れて、諸々の知識がこぼれ落ちていく可能性もある。
だから、チャートを記述している。
私室で願えばふわりと現れるペンとノート。
書こうと思えば無限にページがめくれる心地だ。逆に書いたものは何だっけと思いながらめくればそこに辿り着ける。
ハチャメチャに便利だ。
まずはトーコや結人との今後のことを考える。
目下、目指すべき点は満島戦での勝利。
ルナティックモードであることを考えると満島戦の難易度はハチャメチャだ。
通常の進行で進むと満島を正攻法で倒すには運ゲーを叩きつけ続けなければならない。
突破率は3%以下。セーブ&ロードができるゲームならまだしも、死んで戻ることに対しての確約はないオレの命。その不安定性を加味して3%を狙うのは流石に恐ろしい。
となれば、正攻法以外を考えねばならない。
満島との遭遇前に結人が覚醒するチャートも一応は存在する。
メリットはわかりやすい。ゲーム的に言えば経験値を前々から積むことができる。デメリットはイベントを幾つかスキップしてしまう。
使用するキャラクターが決まっていれば問題ないが、決まっていないのであればこのスキップにより本来の仲間が加入しなくなることそのものはデメリットだ。
通常であれば当然、仲間は多いほうがいいのだが、オレが生きているこの世界に与えられた難易度はルナティック。
仲間の数より単体の性能がものをいう、いや、数がいくらいても無意味なモード。
しかもこの時点では結人もトーコも詩織のように満島との戦いでプレイヤーサイドの敵になるルートがないため、詩織のようにルナティックブーストを受けることができない制約がある。
単純なパワーで押し通せるほどルナティックは甘くないが、それでも積めるだけ経験値を積んで満島戦を迎えるべきであろう。強くなれば手札は増える。手札が増えるってことは可能性と選択肢を広げられるってことだ。
仲間が増えないルートになるのは後々の負債になりそうで怖いものの、やはり事前覚醒チャートを狙うしかない。
で、その事前覚醒をさせるには満島戦前に仕込みをする必要がある。
結人の同級生、本来の仲間候補との接触も必要になるし、忙しくしなければならない。
具体的には──。
✘✘✘
綱木学園。
改めて、イイ。学び舎。愛する学び舎。この質感。最高だ。
こんなにも学校に来るだけで興奮するヤツはオレ以外にいまい。
具体的にやるべきは、そう、登校だ。同年代多きこの場所こそが仲間集めに適している。
……まあ、オレにそれができるかどうかはさておきと言わざるを得ないのだが。
「おはよう、直衛。校門で顔を赤くしてどうしたの」
興奮していたら後ろから声。
「不審者だよ、直衛。……おはよ」
結人。それに不審者呼びしてくれるトーコ。
「結人、トーコ。おはよう。学校が好きすぎてね」
「変わってるね」「変わってるかも」
「……まあ、嫌いよりはいいだろ?」
それはそうだねと同時に頷かれる。
二人から血よりも濃い兄妹の絆のようなものを感じる。いいね。
さて、今日の目的は結人の同級生との接触がメインになるわけだけど……どうやって切り出すべきか。いきなり結人にクラスメイト紹介してよ、とかはわけわからんしな。
結人を少し観察して、対象者とつるんでいるところに入り込むのが自然だろうか。
となれば今日のところは結人を追いかけ回す感じでいこう。
そう決めていたのに。
「というわけで、悪いんだけど頼めないかな」
──結人に相談を受けることになっていた。
なぜそうなっているかを説明しよう。
付け回そうと休み時間に彼の教室へと足を向けるとちょうど目当ての人間と会話をしているのを発見。こりゃあいいと声を掛けたところ、
「彼が噂の人相悪男くんだな」
「確かに個性的な顔つきだね」
言葉を濁しての評価ありがとう。
いや、人相悪男はギリギリ悪口じゃないのか?
と……まあ、目当ての人はそういう意味では裏表のない口の悪めの人であるのはわかっていたので構わない。
「結人先輩、彼らは──」
そう聞こうとしたときに、
「でもタイミングはバッチリなんだよね」
「やっぱ運命ってあるんじゃないの」
そう結人の学友二人が言う。こっちの視点からでは何が何やら。
「確かに、そうなるみたいだね」
「じゃ、運命に従いなって」
「渡しとくわ」
と結人に何かが渡される。封筒。手紙か何かか?
「悪いんだけど、直衛。ちょっと付き合ってよ」
「いいっすけど」
その前に学友を紹介してくれ、と言いたかったが、ここで聞くのもやっぱり妙。
まあ、ここは顔見せだけってことにしておくべきか……。
そうしてオレは屋上まで行って結人に顔を貸すことに。
「頼み事があるんだけど、いいかな」
「結人の頼み事なら保証人のハンコ以外ならいいけど」
「流石に学生身分でそういう契約はできないから」
「そりゃそうか。じゃあ、何?」
「実は、これなんだけど」
と、先程渡されていた封筒を渡してくる。
「これは?」
開けていいのか、といった具合に視線を向ければ頷かれる。
ぺらりと中身を見ると入っていたのはチケットが二枚。
「綱木遊園地御招待券?」
遊園地の入場無料パス、当日のファストチケットの回数券、それにお食事代が一万円分チャージされた園内専用ICが一枚。
相当の内容だ。
「これは?」
「じつは友達が懸賞で当てちゃってさ」
「さっきの二人のどっちか?」
「そうそう。片方がべらぼうに運が良くってね。ただ、」
「ただ?」
ひっくり返してみて、とジェスチャー。
そうしてみると注意書き。
どうやらこのチケットはカップルのペアチケット。御招待と言いつつ、施設の利用に関してのカップルのモニターとしての御招待、ということらしい。
ただ、あのときの三人はいずれも決まった相手がいない。
となれば、結人とトーコの二人で行くのはどうかとなる。
が、せっかく知り合った後輩であり、新たな友として迎えられている(と思っていいだろう、自惚れている気もするが)オレとの距離を縮めるためにトーコと二人ではどうかと、そういう話題になったらしい。
先日の友情を育むって話題になったのも影響してそうではある。
オレ個人としても、今後のチャート的にはトーコとの関係値は高いほうがよさそうでもある。
チャート抜きにしても美少女と一緒にいれるのは最高にハッピーなことだ。
「結人はいいの? いいんすか?」
「いい加減半端な言葉遣い諦めなって、直衛」
苦笑しながら彼が言う。
「……そんじゃあ、先輩に敬意ない口ぶりになるけど。いいの?」
「いいって、何が?」
「いや、ほら、一応オレもその」
「育むのは友情。いいね?」
「う、うっす」
兄らしさに溢れている釘の刺し方。
「まあ、今は友情で。ね」
いきなり踏み込むな、ってことだよな。
わかってるって。やっぱ初手でオッドアイに見入っちまったのはいいのか悪いのか。今となっても判断はついていない。
が、とりあえず今後のイベントの目処が一つ立ったってのは良しとしておこう。
「それじゃあ、トーコは直衛から誘ってあげてね」
そういうことになった。
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