【無価値な大人】
─────
「がっおーーーっ」
僕の放つ白いブレスがカオスの前に黒い瘴気の障壁がかき消す。
「ガァーーーーッ」
いつもと様子の違うカオスが逆に僕へと黒いブレスを吐きつける。
「大丈夫かい、ミリス」
父君様が僕の周囲に丸いシャボン玉のような結界を造る。
「がおー、カオスはいったいどうしてしまったのだい、父君様」
「──恐らく、取り込んだ瘴気、負の感情がカオスが今、許容できる範囲を超えてしまっているんだ」
「カオスはあの不味い記憶をお腹いっぱい食べさせられて不機嫌ってことかい?」
「まぁ──違うけど、ニュアンスは間違っていないのかな」
「カオスの機嫌を戻すにはどうすればいいんだい?」
「──可哀そうだけど、少しだけ魔力を消耗させるためカオスと戦わないとならないかな」
「僕にカオスに齧りつけということだね」
「ミリス、迂闊に近づくんじゃない、魔力の食事量はカオスの方が遥かに多い、いつもみたいに簡単に噛みつくことすらできない」
そう父君様は言い──カオスを僕の時どうようにシャボン玉の結界の中に封じ込める。
その結界の中でカオスがブレスを吐いたり体当たりしたりと暴れるが、一切その攻撃を許さない。
そして──
「ごめん──」
「ギャフッ」
父君様は一言謝罪すると──そのシャボン玉を地面へとたたきつけるように落下させる。
「ガァブーーーーッ」
軽く目を回しているカオスの頭に僕は齧りつ。
「相変わらず、カオス──君の食べるご飯は美味しくないね」
─────
「トウカくんはブラックでいいよね──ナギサちゃんはどうする」
「んじゃ、私もブラックで──」
「無理するなよ、飲めるのか?」
「馬鹿にすんな、いいだろ──ブラックってなんか響きかっけぇし」
ノウムさんのマンションの部屋。
俺とナギサはお邪魔している。
「トウカくん──ぼくは偉そうにアドバイスするほど、経験も扱いが上手いわけでもないけどね、苦労するよ──喜ばせることは」
コトンとコーヒーカップを俺とナギサの前に置く。
「どういうことですか?」
「──まぁ、ぼくには無価値な話だけどね、どれだけ男が我慢して、それを女性に平等と見せるのか、そういうところが男としての価値なんだとぼくごときは考えるわけだ」
「だってよ、トウカ──うげっ、にがっ」
「──あれ?」
苦そうにブラックのコーヒーを飲むナギサの横で俺もコーヒーに口をつける。
そして、何やらノウムさんが両手の人差し指を立て指の位置を入れ替えるように何度も動かし俺の目を見て何かを訴える。
「こっち──飲めナギサ」
予めノウムさんが俺のコーヒーに砂糖を入れていたようだ。
「ノウムさん──自分で無能って言うならそういう気遣い──俺の中のノウムさんの価値観が変わっちゃいますよ」
「トウカくん、ぼくだって無駄に30年近く生きているのさ、できたお友達くらいにはいい恰好したいと思うよ」
「だってよ──トウカ、“そーゆーとこだぞっ”」
「ナギサ、おまえ──その言葉使いたかっただけだろ」
「まぁ、私の人生で一度は使いたい言葉ランキングに入ってたのは否定しない」
「ナギサちゃん──コーヒーに入れる用のバニラがあったと思うよ」
「──おう、おっちゃん、貰う」
* * *
「──なるほどね、何者かが君たちの担任に成り代わっていたのではないかということだよね」
ここへ来た目的、本題をノウムさんへ切り出す。
「その担任と同一人物──かはわからない、ただ──煩理家がぼくなんかを引き取っていた時──なんかいつも顔にゴーグルをつけた男が時折、邸を出入りしていてね──そいつはリエンちゃんほどの脅威はなかったが、それ以上に、目的も能力も不気味だった」
「ゴーグルの男──」
ナギサもどこか気になるように記憶でも眺めるように瞳を上に向けている。
「しかし──そんな男のことを調べてどうするんだい?」
ノウムさんの表情が少し真剣になる。
「俺の知り合い──知り合いと言っていいほど親しい間柄じゃないんですけど、その男に命まで奪われた、そして能力者を陰で操ろうとしている」
「で──それをぼくから聞き出してどうするつもりなんだい?」
まるで、怒っているかのような圧のある返しの言葉。
「守る──俺は、それがまた誰かを傷つけるのなら」
「トウカくん、ぼくには今の君はそれを“倒す”と言っているように聞こえるけどね」
「でも──危険だ、またそんな奴が俺たちの周りに紛れ込んで──」
「トウカくん、君は学生だ──正義を演じる英雄でもなければ、世界の治安を守る警察でもない、そんなものは──リエンちゃんや君のお母さんに任せるべきだ」
「──でも、おっちゃん──私たちはそんなリエン様とやらを破り、トウカの母さんを守った」
「そうだね──ナギサちゃん、ぼくが君たちをあの時──先に行かせたくなかったもう一つの理由を伝えておくよ」
俺たちを──危険な能力者と合わせたくなかった。
あの日、ノウムさんが俺たちの前に立ち憚った理由。
「──もし、あのリエンちゃんにまで君たちが勝ったら──君たちは自分たちの能力を過信し、より危険な場所に身を置くかもしれない」
「それでも──もし、俺の周りでそんな危険な奴がいるなら、それを知っている俺たちが無視していい理由にはならない」
「その通り、ぼくの君たちへの心配など、世界の危険を守る君たちからしてみればあまりにも無価値──でも、その男は君の知る人の命を平気で奪ってしまう危険な相手なんだろ?ぼくがそんな無価値に友達をくれた君たちを心配くらいさせてくれるかい」




