【崩壊の序曲】
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人の姿に化けた時の容姿こそ、15歳前後の姿とはいえ──
産まれたての僕らには少し難しい話をしていた。
「人間の欲だね──この研究に携わっている者、そしてその代表である煩理家の夫妻は、ミリスとカオス、君たちをこの世界を創り出している場所のシステムとして完成させて、世界を裏から自由に操ろうとしているのさ」
「──それは、悪いモノなのかい?カオスがガブッと噛みつけばいいのかな?」
「ミリスはどうして、噛みつくことですべて解決できると思うのさ」
「違うのかい?」
「欲で欲を支配しようなど──間違っているのさ、それは確実に世界を“崩壊”させる」
「その、悪モノたちは、世界をホウカイさせたいのかい?」
「──崩壊させずにそれが成せると思っているのさ、愚かだろ、人間ってのは」
「───」
僕と多分カオスもその父君様の話をなんとなくでしか理解できず──カオスと理由もなく顔を見つめあう。
「で、ボクとミリスはどうすればいいの?」
「──この場所から君たちを逃がす」
「ここから?それは──どういうことだい?」
「言葉通り──ここではないミリスとカオスが創り上げていた世界に行くのさ」
「なるほどね──」
僕はそう理解できずに頭を右に軽く傾けて言った。
「それで、お父様はどうするんだ?」
カオスが父君様の顔を見る。
「僕も行くよ──いきなり、ミリスとカオスだけじゃ不安だからね──」
「父君様と僕たちはそこで暮らすのかい?」
「そうだね──結局、ミリスとカオスにはこっちでやってもらうことは変わらないんだけどね」
「カオスが不味いご飯を食べて、僕がカオスの頭を齧るんだね?」
「まぁ──そうかな」
「お父様は何をするの?」
「──とくには決めてない、でも僕も外の世界には少し興味があったのさ」
僕はその時、父君様のそんな無邪気な顔を初めて見た気がした。
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「薄情とは思わないでくれ──もし、トウカくん、君たちがそんな危険な奴に、ぼくの忠告を聞かずに立ち向かうとするのなら、無価値のぼくができることはない、無価値にこの部屋で震えて後悔するくらいさ」
「それだけで、十分です──俺だって無視できるのなら無視したいです」
「それが、トウカのアイデンティティだしな、まぁ──その、私はかっけぇって──思ってるけどな」
そう、言ってナギサが思いっきり俺とノウムさんから目線を反らす。
「どうした──急に?」
「なんだよ、いつもトウカにばっか可愛いって言わせてるから、たまには私も言ってあげようと思っただけだろ」
「──羨ましいね、トウカくん」
「べ、別に俺とナギサはそんなんじゃ──」
「可愛いとは言ってるだろ」
「おや、そこは否定しないのかいトウカくん」
「否定すると余計なアイテムを取り出すんですよ──こいつ」
* * *
「これ──ミリスちゃんに」
そう、単行本を何冊か受け取ったナギサの隣に立つ俺に、ノウムさんがプリンの入った袋を俺に持たせてくれる。
「──ぼくができることは、これくらい──ごめんね、全く役に立たな無価値な大人で──」
「そんなことないぞ──おっちゃん」
ナギサが頭の上で単行本を掲げながら言う。
「なんか、手土産程度でその価値を繋ぎとめるような真似して、かっこ悪いけど──これからも友達と呼んでくれるかい?」
「「あったりまえ です」
だ」
「ありがと──」
ノウムさんは少し寂しそうな顔で、嬉しそうにほほ笑む。
そして、そのまなざしは何か覚悟を決めたようにも見えた──。
* * *
「こら、トウカ──僕を置いて、どこへ行っていたんだい、僕に隠れてひとりで美味しいものでも食べてたんじゃないだろうね」
玄関でぷりぷりとご立腹のミリスが腰に手を当て、眉を吊り上げ俺をお出迎えしている。
「おや、ナギサちゃんも一緒だったのかい?」
別にそうしなくても見えているナギサを大きく体を左に傾け覗き込むようにしている。
「ほら、ミリス──お土産、ノウムさんから、一緒にたべようぜ」
「なんだい、もしかして──トウカが持っているのは、あのプリンという伝説の食べ物なんじゃないのかい?」
ミリスのピンク色の瞳の中に黄色い星が輝きだす。
「ほら、何をしているんだい──そうだ、ナギサちゃん、君も“僕の部屋”へお招きするよ」
俺もナギサも半ば強引にミリスの部屋へと招かれる。
「お──ミリスちゃんのお部屋、可愛いな」
「そうだろ、ナギサちゃん──なんたってお母さんが僕のために用意してくれた部屋だからね」
「へぇ──よかったじゃん」
ミリスの部屋の少し小さなテーブルを三人で取り囲むように座る。
並べ封を開けたプリンをミリスがスプーンを片手に涎を垂れているんじゃないかという表情で眺めている。
「うまいなっ──トウカ、ミリスちゃん」
嬉しそうにプリンを食べるミリス。
「うんまっ」
「あぁ──美味しいな」
──ノウムさん。
──やっぱ、俺は──“今”を守りたい。
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煩理リエン邸の遥か地下。
「サイカ──このような真似、ぼくは許可していない」
リエンはサイカの肩を借りるように歩きながら──
催稀クウドはその後ろを歩いている。
「黙れ、リエン──お前はさっさと案内を続けろ」
サイカは──少しだけ苦悩しながらも、最後の扉を自分のカードキーを使い開く。
真っ暗な部屋。
モニターが沢山あり、中央には透明な緑色の液体の入ったカプセル。
その中に──気を失ったような黒竜の姿がある。
「こんな場所に隠していたか──鎖で繋いでいたはずが見つからない訳だ」
「──クウド、お前、その能力やはり」
一瞬、クウドと黒竜を繋ぐ鎖のようなものがリエンの瞳にも見える。
「あの大罪人から聞いてるんだろ──そいつはもっともっと、負の魔力を食らう使命がある」
「──今はぼくが管理しているそう言ったはずだ、クウド」
「黙れよ──もっと、もっとこいつには力をつけてもらわないとならない」
「そのためには、もっと負の魔力が必要だ──そんな負の魔力を制御している大罪人にはそろそろあの場所から退場してもらわねばな」
「クウド──貴様が何を企んでいるか知らないが──今はあの場所に行く手段がない──」
「──こっちの世界で眠り続けている大罪人は実在しているのだろ──リエン」
「演じろ──それは“名声”」
「ぐっ──がっ」
今までないくらい、誰かを憎むような瞳をクウドに向けるリエン。
手にしたレイピアが黒竜の捉えられているカプセルにクウドの体を叩きつける。
「くく、あははは──いいぞ、リエン、その憎しみもまた、黒竜の魔力だ」
黒竜の入ったカプセルを背に座り込みながら、クウドが右の手のひらで両目が隠れるように顔を覆い──
「ふはははっ──あはははははっ」
ひとり、楽しそうに大笑いしている。




