【選択】
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「せっかく、外の世界に出られたというのに、僕とカオスはここに居ないとならないのかい?」
何処かの廃工場。
そこに、ミリスとカオスを連れてきたユイシロ。
ミリスもカオスも人の姿でその暗い工場内をキョロキョロと歩き回る。
「──ミリス、僕もこの世界の仕組みをまだきちんと把握しきれていないのだけどね、どうにも僕は大罪というものを犯したことで、警察って組織が僕を狙っている、二人は大丈夫のようだけどね」
「大罪?お父様は悪いことしたの?」
カオスが不思議そうにユイシロの顔を見ている。
「──どうだろうね、どっちが世界のためなのか、僕には見当もつかない」
「どっちにしても、僕たちの役目は変わらない、希望も混沌も均等に──だ」
「安心したまえ、父君様──こっちの世界でも僕のカオスの頭を齧るスキルは健在だよ」
「出てこいッ──此処に居るのはわかってるッ」
若い女性の声。
何やら身分書のような手帳を右手に持ちこちらにかざすように突き出している。
入口の光が女性を黒いシルエットのように写し、その顔や表情は確認できない。
「大罪──あんたにはその容疑がかかっている」
まるで、説得しているかのように──ただ相手もわからぬ誰かに話しかけ続ける。
「お父様──捕まる、悪い奴か?」
カオスが少しだけ──女性を睨むように見る。
「ダメだ──一般人に危害は加えないこと」
「それじゃ、僕が齧ればいいのかい?」
「それも危害だね」
「ボクはいつも、ミリスから危害を受けているよ?」
「聞こえているのか──私は一人だ、正直──あんたの容疑の内容も何も聞かされていない、できれば話し合いで解決したい」
「ミリス、カオス──ここでお留守番できる?」
「──父君様、あの人に何かされるのかい?」
「──多分、大丈夫──そんな気がするよ」
ユイシロは両手をあげながら──光のある工場の入り口の方へと歩いていく。
それが──ユイシロという男と、カイナという女性の出会いだった。
─────
「トウカ──どこに向かっている?」
学校の帰り、俺は母さんの義理の妹──キズナさんが言っていただろう、工場跡へと向かってみることにする。
お前ひとりでは心配だと付いてきたリヴィは帰り道の商店街を歩いていると、今更そう尋ねる。
「この先の町はずれにある工場跡──手掛かりは残ってなくても何か記憶に残ってなくても俺たちの消された記憶の手掛かりがあるんじゃないかと思って」
「なるほど──気合を見つけに行くのだな」
「あぁ、記憶な」
肯定しながら修正する。
「どうした──リヴィ?」
そんな俺の修正の言葉を聞かずにリヴィは立ち止まると、店のウィンドガラスの中を覗いている。
「その服が欲しいのか?」
「ち、違うッ──今どきの服はどんなものか、ちょっと気になっただけだ、あたしは動きやすい服の方が落ち着くからな」
「──リヴィはハーフだし、容姿は整ってるし、何着ても似合うと思うけどな」
「ば、馬鹿者──あ、あたしがこんなヒラヒラした服を──」
「リヴィア──男とデートか、随分と女らしいな」
「あんたは確か──」
黒とところどころ黄色の髪。
左の横髪を刈り上げている。
兵隊のようなズボン、迷彩服なんて呼ばれてもいるがこんな場所では返って目立つ服装だ。
「エルジナ──」
「構えなくていい──今は敵対する理由がない、ちょっと気になる顔が思いがけない店の前で見かけたものだから冷やかしたくなっただけだ」
「馬鹿者──ただ通りかかっただけだ、ここで足を止めたのもトウカだ」
なんか──俺のせいにされているが、ここは黙っておく。
「なるほどね──そうか、君が結城トウカか」
「エルジナさん──でいいんですか?」
リヴィが呼んでいた名前だ──俺は恐る恐る尋ねる。
「あぁ──どこに向かっていた?」
「──?」
「まさか、本当にデート中だったと言うわけではないよな」
* * *
「ここだな──トウカ」
廃工場へと辿り着く。
「──結代、こんな場所で本当に何かが見つかるのか?」
一度、拳を交えた同士だからだろうか──
互いにどこか信頼を置いているリヴィとエルジナさん。
「いや──正直、わかりません、ただ──可能性があるならと」
「──リエン様の邸を出入りしていた、ゴーグルの男ね、確かに見た気がするよ──そして、確かに方法はわからないが俺の記憶まで丁寧にいじっているようだ」
工場内へと入ってみる。
積み重なっていただろう鉄骨や機材が散らばったままになっている。
工場内はもちろん暗い。
電機も通っていない。
俺は持っていたスマホのライト機能で周囲を照らしながら歩く。
「ゲヒッゲヒッゲヒッ」
「馬鹿者──トウカ、暗闇にあたしを連れ込んでそんな下品な笑い方をするなど、貴様、死ぬ覚悟はできているのだろうなッ」
「バカ──俺じゃねーよ」
俺がその笑い声をした方へライトを向ける。
腕だけが化け物のような男。
腕からはかぎ爪のような鋭い刃が伸びている。
ギンッ
容赦なくその爪でリヴィに殴りかかるように切りかかった攻撃を俺の結界が防ぐ。
「ゲヒッ」
男が不快そうに俺に目を向けると──
標的を俺に変えるように飛び掛かってくる。
暗闇のせいか、リヴィはその動きに後れをとるように──
俺の体にその右腕が伸びてくる。
「ギッ──」
男の右腕に両手両足にしがみ付くように、エルジナさんがその腕を強く締め上げ関節技を決めるように地面へと叩き伏せる。
さらに、手にしていたサバイバルナイフのようなものでその腕を突き刺す。
一つ一つの行動に迷いが無い。
「狂人化──吹き飛べッ」
その化け物の腕の男をリヴィの狂人の拳が叩き込まれる。
「ゲヒッ──ギギ──」
確実にダメージを与えている。
だが、痛覚が無いかのように平然と立ち上がる。
「本気で殺す覚悟が無いと──あれは止められないぞ」
「馬鹿者──覚悟などできている」
「──おい、リヴィ」
さすがに仲間を──人殺しにはしたくない。
「ギィーーーッ」
「くっ」
とっさに俺が結界を両手に巻き付け、その攻撃を受け止める。
「選択しろ──結代、お前が仲間を助けるというのなら──その覚悟の弱さは決断を鈍らせる」
エルジナさんはそう俺がそのかぎ爪を受け止めている化け物と、距離を詰める。
かなりの至近距離だが、逆にその化け物は攻撃を仕掛けにくい距離──
そんな距離感をこの人は把握しているのだろう。
両足を再び腕に絡ませ、その体を旋回させるように床にねじ伏せる。
「──少し目を伏せている」
エルジナがそう言うと──
手にしたサバイバルナイフでその首を切り払う。
ブシャーと魔力が血のように首から飛び散る。
いくら、魔力が──そのダメージを肩代わりするとはいえ、ただでは済まない──動くことなど──
「ぐぅ──」
苦しそうな表情をするのは──エルジナさん。
首を掻っ切られながらも、化け物の男のかぎ爪がエルジナさんの体を突き刺している。




