【託された正義】
─────
廃工場。
「ミリスッ──カオスッ──ミリス無事かいっ、返事をしろっ」
ユイシロが叫ぶように、二人を探す様に工場を見渡す。
白や黒の炎が所々にあがっている。
魔力の炎、人の目には映らない。
だから、そんな災害も人々には急な建物の劣化としか映らない。
「ミリスッ!!」
何が起こっているのかを把握するように、ユイシロはその白い方を心配するように叫ぶ。
「ガァブゥ──ッ」
白い小竜が建物の奥で、黒い小竜の頭に齧り付いている。
二匹の小竜はユイシロを見つけると──
その姿を白い髪の少女と黒い髪の少年へと姿を変える。
「カオスの暴走、ミリス──君一人で止めてくれたのかい?」
「どうだい、父君様──僕のカオスの頭を噛みつくのが得意と言っただろ──」
「痛い──人間の姿でまで嚙まないでよ」
「よかった──本当に助かったよ」
ユイシロが二人の姿を見て本当に安心するように言う。
「ところで、父君様は──あの人にどこに連れていかれていたんだい?」
「何か、された?お父様?」
「大丈夫だよ──しばらくはカイナの監視下にあることが条件だけどね、僕の事を匿ってくれるって言うんだ」
「カクマウ?よかったのか──父君様?」
ミリスがその意味がわからないというように首を傾げている。
「しかし、まいったな──思ったよりも瘴気──それを取り込むペースが速い、今はミリスが何とかしてくれているが──」
立場を逆転する日が近いかもしれない。
「にしし、安心したまえ父君様、カオスが悪さをしたら僕がカオスの頭をガブリだよ」
─────
「エルジナッ──」
かぎ爪のついた化け物の腕──
血の抜けたような青白い肌。
エルジナに掻っ切られた首から流れる魔力を手で押さえようともせずに、
そのかぎ爪をエルジナの背中へと突き刺している。
「トウカ──これはあたしの選択だ──誰かを守る、あたしはトウカと違いそれができるのは拳だけだ──それがあたしが誰かを守るための戦い方だ──」
ブンッとリヴィがその拳を振るう──
ほぼ、ノーガードの化け物の男の体が壁に叩きつけられる。
「だけど──あの制服は、元──お前の学校の──」
「たとえ、リヴィ──お前のおかげでその化け物を止めた、殺したとして──そのあと──」
お前は記憶を背負って生きていくのか。
リヴィとカリンが通っていた学園の制服。
同じ学園だった生徒。たとえその姿が化け物になっていたから──と。
「だからと──トウカ、それを守らず、人は殺しませんでしたと、それを誇り生きて行けというのか」
「リヴィ──」
「狂人化──誇りはしない、罪から逃れるつもりもない──ただ、後悔する選択はしない」
リヴィの金髪の髪が真っ赤に燃え上がるように染まり──
その瞳の色も真っ赤の染まる。
ドンッと──壁に叩きつけられていた化け物の体をさらに殴りつけると──
工場の壁を破壊し体が壁に埋め込まれる。
「ガッ──」
青白い顔の化け物の男の目が白目をむく。
「ゲヒッ」
「くっ」
化け物の目に黒色が戻ると──リヴィの左腕をつかみ、右腕のかぎ爪を振り上げる。
「結代──これはリヴィアの選択だ、君のためにリヴィアが決めた答えだ、結代、あんたの選択でその決断を鈍らせるな」
エルジナさんは先ほど受けたダメージを感じさせず──化け物の男がその爪を振り下ろす前に低い体勢で化け物へ側面からタックルするようにその腹回りを両腕で抱き着きそのまま床へと叩き伏せる。
「選択しろ──このまま、もう一度首を掻っ切られたか、それとも命乞いをし逃げるのか──」
エルジナさんはそんな化け物に体を密着させ顔を至近距離に近づけながら、右腕でその体を動けないように拘束し、左手に持ったサバイバルナイフを首元に突きつける
「ギヒーーーッ」
化け物はそんな言葉も通じないように、その右腕を振りほどくが──
振り下ろされるより先に、その首を再び切り払う。
「ギッ──」
そんな傷を負いながらも、再び痛みを知らぬ化け物がかぎ爪の腕を振り上げる。
「狂人化、根性か気合か──貴様に足りないものを選択しろっ」
バキッとその首がへし折れたかのように頭が後ろにまわる。
「ゲヒッゲヒッ──」
やはり、この化け物は死なない限り──
「選択しろ──結代、お前が守るのは今も立ち上がるこの不死身のような化け物か、それとも──そんなあんたのできない選択をするリヴィアか──」
「そんなのは当然──」
答えは決まっている、ただ──
「ゲヒッ」
腕を振り上げリヴィアたちの方へと向かう化け物。
俺は右手に魔力を集めると右の手でてっぽうの形を作る。
ダンッ
と緑色の魔力の銃弾が化け物を貫く。
「いずれにしても、貴様は選択を間違えた」
エルジナさんはそう化け物へ告げる。
俺の銃弾と同時に──どこからか飛んできた銃弾が、化け物の額を貫いている。
死んだのかはわからない。
ただ、化け物は動かなくなる。
「ぐ──うわっ」
「トウカッ!!」
それに安心したせいか、足場の悪い場所に立っていた俺の床が崩れ──その工場の地下へと落下する。
「いててて──大丈夫だ、問題ない」
結界で受け身は取った。
俺は天井の穴を眺めそう二人に聞こえるように叫ぶ。
地下を歩き──先の階段を目指す。
同じように──床が落下しただろう瓦礫の山、鉄骨が転がっている。
「──血?」
その一つの掘り起こされたような瓦礫。
そこには──誰かがそこに背を預け、長い時間座っていたような跡が残っている。
俺はその場所に気が付けば立っている。
『正せ──クソガキ』
「ユズルさん?」
俺は振り返るが当然その姿があるわけがない。
不自然な瓦礫の山。
まるで、何かを隠しているかのような──
自分の体と一緒にそれを発見されるのを誰かが拒んだような──
「正せ──」
俺は結界弾でその不自然な瓦礫を崩す。
「スマホ──ユズルさんのものか?」
手に取る──
電源を押すと──ロックは一切されていなく──
動画を再生画面で停止されている。
再生ボタンに右の人差し指を乗せる。
『あー、あー、これで──撮れてるのか、たく──なんで俺がこんなメッセージを残してるんだ、おぃ、これを聞いているのは、結代トウカ──てめぇだろ?』
「──ユズルさん」
ユズルさんはテーブルにスマホを固定し、ソファに座る自分の姿を調整するように、右手でスマホを弄りながら語り始める。
『それ以外のやつだったらさっさと消せ、ぶっ殺す──おい、結代トウカ──これをお前が聞いているとき俺はどうしてる?──まぁいいさ、そういうことなんだよな』
『どうだ──結代トウカ、お前はまだ、守るなんて言葉で世界を救うとしているのか?』
『一度しか言わねぇぞ──俺はてめぇのその正義を否定するつもりだった、俺のやり方で世界を正そうと思った─』
『だがな──結代トウカ、俺はそれを否定したかったのはお前が間違っていたからじゃねぇ、お前の理想が俺の正義より奇麗だったからだ』
『いいか──てめぇはクソガキの分際で俺よりも正しいことをしようとしたんだ──全部、正せ──クソガキ、てめぇならできる』
「──ユズルさん」
気が付くと俺の頬には涙が伝っていて──
『たく──事件の真相でも期待していたか、甘ったれるな、全部自分で正せよ、“期待”してるぜ──結代トウカ』
『あと──結代カイナに言っておけ──酒とタバコはほどほどにしろ、そしてキズナの事をよろしく頼む──』
『──あと、今まで──有難うございました』
『あぁ──やめだ、やめっ取り直し、最後のいらねぇだろクソがッ』
そうユズルさんが髪を搔きむしりながら動画が停止する。
「──ありがとうございます──全部、俺が守って──正して見せます」
* * *
商店街に戻ると──
何やら、店の中に入り戻ってきたエルジナさんに別れの挨拶をする。
「──プレゼントだ、あそこは金の使い方を知らない俺に払いが良すぎてな」
「馬鹿者、何の真似だエルジナッ」
高級そうな紙袋をエルジナがリヴィアの胸へと押し付ける。
「次はそれ着て、結代の隣を歩いてみろ」
「リヴィア、お前はまだ若い、そんな生き方も選択のひとつだ」
「──エ、エルジナ、貴様に贈る言葉はただ一つだ」
背を向けすでに歩き始めるエルジナの背に。
「──気合、根性、──そして有難うっ」
リヴィアが珍しく頭を下げる。
「ありがとう──守る、俺は──“今を”──」
俺が憧れたあんたが認めてくれた正義を──
俺はユズルさんのスマホをお守りのようにぎゅっとポケットの中で握りしめる。




