【正義の遺影】
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気が付けば“存在”していた。
僕は女の子に化けている、小竜なのか。
僕は小竜に化けている、人間なのか。
たぶん、どっちでもない。
きょろきょろと──僕は女の子の方の姿でその意識を持った、そのくらい部屋の中を眺めている。
「君は誰だい?」
僕と同じくらいの背丈の黒く長い髪の男の子。
それは、男の子なのか黒い小竜なのか。
たぶん、僕と同じ。
僕とその黒い髪の男の子は、現れた──男の人に。
『ミリス』と『カオス』の名前が与えられた。
その人は『ユイシロ』と名乗っていた。
僕とカオスはその人に連れられ、そのユイシロという男は何やら装置を使い、
僕たちだけが向かうことのできる空間へと移動していた。
地面だけある真っ暗な世界。
そこで、僕とカオスは世界を創る。
─────
黒いスーツ姿の母さんに連れられて学園の制服を着て、その会場を訪れている。
──その事実を受け止め、悲しむには俺には少し出会いが遅く、そして余りにも早すぎる別れだった。
その人の正義はいつも強引で──乱暴で、それで、誰よりも正しかった。
ただ──実感などできない。
あの、凶悪なまでに強くて、すべてを正す。
真解ユズル。
そんな──男の白黒写真がその広い会場の中央に飾られている。
「ねぇ──、あの人はどうして、あの箱の中で眠っているんだい?誰かに記憶が食べられてしまったのかい?」
ただ、本当に不思議そうに──ミリスが母さんと手を繋ぎその棺を眺めている。
「──ミリスッ」
たぶん、悪気はない。
それは、俺も理解している。
それでも、この場でその疑問を口にするのは余りにも──
俺は──一人の女性に目を向ける。
引乃キズナさん。
母さんの義理の妹。
母さんはそんな妹、キズナさんを黙って見つめている。
キズナさんの光のない瞳。
誰よりもその事実を受け止めていないかのように。
「どこ行くつもりだ、キズナ──」
「離して、お姉ちゃん──」
誰よりも悲しむべき人間が悲しんでいない様子が不信のように。
母さんはその腕を掴む。
「──あいつ、あいつから──先輩を」
「犯人を知っているのか?」
工場跡地の事故死──
そう聞かされている。
「離してっ──」
そんな光のない瞳が母さんを睨みつける。
「──復讐をするつもりか?」
「──離して、私にはそれが“正しい”こと」
「そんなことしても、ユズルは戻らない」
「だったら──なんだ、私は先輩をこんな目に合わせたやつを知っているのに、これは不幸な事故でしたでかたずけられるのを黙って見てろと言うのかッ」
「落ち着け、キズナッ」
「離せっ──そう言ってる、あんたは何もしてくれなかった、私を見つけてくれたのは先輩だっ」
「そうだ、キズナ──私は何もできなかった、お前を見つけ助けてくれたのはユズルだよ」
「だから、知ってる、私がそう言ってるんだろッ──だから、私が」
「キズナ、あんたが何ができる──ユズルに守られて今いるあんたが、ユズルのために何ができるっ」
「だから、私はそんな先輩のために──例え力が無くったって私ができること」
「キズナ、冷静になれ──あんたが今すべきこと、復讐ができるできないじゃない──ユズルが命がけで守った、あんたの命、そんな使い方をするなと言っている」
「だって──だって──」
「──怒ってもいい、婦警失格だが、復讐がダメだというつもりもない──きちんと事実を受け入れろ、まずはしっかりと泣け──強がるのはそれからでいい」
「お姉ちゃん──お姉ちゃん──私──私──先輩がこんな目に合うのが怖かったから距離を取ったのに──」
「あぁ──」
母さんがキズナさんの体を強く抱きしめる。
子供のように泣きじゃくるキズナさんを。
「そんな先輩が私を見つけてくれたときはすごくすごく嬉しかった──」
「うん」
黙って話を聞き、相槌だけを返す。
「お姉ちゃん──先輩──死んじゃった──」
キズナさんはようやくその事実を受け入れて──
母さんに体を預けるように泣き崩れる。
母さんたちを会場に残し──ミリスを連れ会場の外へと出る。
ザーーーーといつの間にか振り出した大雨が地面を叩いていた。
「くそっ──」
俺は一人、屋根のある会場の入り口の──柱の一本を右手の拳で八つ当たりするように叩く。
「トウカも悲しいのかい?」
「あの人の正義はどこか押しつけがましくて、乱暴で──好きじゃなかった、でも──俺はあの人の正義にたぶん、憧れていた」
「なんで、そんなトウカはその柱を殴るんだい?」
「──思い出せ──俺はたぶん、その犯人を知っているんだ」
「記憶を食らう、僕以外にそれをする者が居るとは疑わしいことだけどね」
「トウカ──ここ最近で、自分の記憶に不自然に思えたところはないかい?」
「──不自然?」
「──担任教師──莉絶カナ──いや、でも」
「莉絶カナ、あの男の先生のことかい?おや──僕は以前にトウカから違う名前で聞いた気がするけどね」
「──違うなまえ?」
「サイ──なんだっけな?」
「にしし、ボクは食うのは得意でも覚えるのは苦手みたいだね」
そんな俺たちをザーーーーという雨の音だけが包み込んでいる。




