【悪役の終幕】
「──ぼくは演じる、悪役を、せめてそこに相応しい舞台を理由を演じて見せろっ」
「もう、言ったよ──ちっぽけだと言われようが、俺が守れるのは──母さんや、ミリス──そして、ナギサ達と一緒にここから帰る、その役目を果たすことだ」
「トウカくん、あの人は──その白竜を逃がしたせいで、大罪人となった、そんな自分の親を救うための存在を庇うというのか?」
「あの人の事は、知らない──でも、ミリスをその罪を背負ってまで逃がしたっていうのなら──俺ができるのはそんなミリスを守ることだ」
「あの人はそんな大罪を背負い、妻と子を守るため──世界を覆う闇と戦い続ける」
ゆっくりと──ぼろぼろの身体を起こし、煩理リエンは俺を見る。
「君はそんなあの人が託した白竜を守るために、悪役と戦う──だから、ぼくは──あの人が戦う世界の悪、同等の悪を演じなければならない──君たちに──君に立ち憚らないとならない」
少し膝にきているように煩理リエンは少し股を開くように左のてのひらを左ひざに乗せ──肩で息をしながら、それでも赤い刀を抜く。
「もう──いいだろ、あんたがそこまでする理由ではない、リエン」
母さんもいい加減、見かねるようにリエンへ言う。
「もう、喋るな──そう言っている、正直──期待していたのさ、あの人が大罪を背負い、そして──世界を戦う使命を背負ってまで、その後ろにあるあの人が本当に守りたいものが──それがどんなに綺麗なものなのか──」
「あんたに、その価値が伝わらなくても──あの人の守りたいものをあんたが否定するものじゃないし、私もトウカもあんたに否定される理由にならない」
「今日、この日まで──あの人を犠牲に生きてきた言葉がそれかッ」
「誰もが愛する者を守りたいだけさ──それが万人に綺麗に見えるとは限らない」
「愛する者を守る──か、それこそ万人受けする綺麗ごとだ、それが言えて満足か?」
「無論、言って満足はしない、せめて──息子と一緒に守ってみせる」
「だったら、ぼくも演じよう、世界たちが嫌う悪役を──“愛する者”のためにっ」
赤い刃を母さんに振るう。
それは俺の結界に防がれる。
「実体化しろッ」
カリンが自分の透明な刀を実体化させると、煩理リエンへと斬りかかる。
その一撃を煩理リエンが刃をぶつけるように受け止める。
「狂人化ッ──」
ドンッと側部からリヴィの重い一撃が入る。
まだ──煩理リエンは起き上がる。
今にも崩れそうな膝で両手を支えている。
「こんなちっぽけなモノを守るために、神はあの人に、残酷な使命を与えたのか──つくづく、ぼくは神というものに嫌悪する──だったら“演じて”みせよう」
その瞳は何を睨んでいるのか──
「権力も富も名声も、その全てを覆す、なんの救いもない最悪の神を──ぼくがっ」
数々の武器が周辺から現れる。
「“神”の前だ──跪けッ」
その場の全員がその場に床にその身体を拘束されるように──
権力、富、名声──その全ての演技を一度に全て解放する。
現れた武器に魔力を送る。
すべての矛先を自分へと向ける。
「その状況で、まだ──神に逆らうのか」
そもそも、彼女が万全じゃない。
それに、その能力を全て解放する、よほど彼女に負担がかかっているのだろう。
そこに居る誰よりも彼女が一番辛そうな顔をしている。
俺は右手を差し出し、目の前に結界を作ると──
それらを自分に飛ばす──が──
「ぐっ──」
ガシャンッ──と透明なガラスの破片のようなものが目の前に散らばる。
彼女が呼び出した武器が俺に飛び交う中で──彼女は俺の方へと歩いてくると、持っていた赤い刀の刃で俺の結界を叩き割る。
「トウカッ」
「ぐあっ」
ナギサが心配をする中で、自分に向けた彼女の武器の数々が俺の身体を貫くように飛んでくる。
そして、彼女は俺を貫くために飛んできた剣のグリップを掴み取り──
「ナギサッ!」
その握った剣でナギサの身体を叩き斬る。
そして、その剣をその場に投げ捨てる。
彼女は合えて俺が請け負うはずのその武器を空中で掴み取っては、
それらをシュウやカリン、リヴィ、母さんの身体を次々と斬っていく。
俺の守るという行為を否定するように──
そして、そんな彼女の前に──俺たちはその権力の能力なしで──膝をつく形になっている。
「がっ──」
だが、そんなことを成し遂げた彼女が、一番辛そうに地面に膝をつく。
「せめて──演じきるさ」
漆黒の刀──
彼女の右手にいつの間にか握られている。
その刀の刃を地面に刺し──身体を支えながら、その刃に左手を添え、強く握る。
そのてのひらから、血の代わりに魔力がその刀に流れ込むように──
「今のぼくに、君の結界を打ち破る魔力はほとんど残っていない──だが、この魔力は所有者の魔力を吸い上げる呪いの刀だ──演じきるさ──跪けッ、神だって命がけなんだよ、トウカくんっ」
「悪いけど──相手が富豪だろうが、英雄だろうが、王だろうが──神だろうが、俺が負けていい理由じゃない、守れない理由じゃないっ」
結界の魔力を体内に巡らせる。
その権力の魔力に抗うように俺が立ち上がる。
俺はゆっくりと歩き、皆を背後に煩理リエンの前に立ち右手を突き出す。
「俺ができるのは──“これだけだ”」
多分──魔力を吸い上げるその刀。
彼女もそれが最後の一撃なのだろう。
彼女のありったけの魔力を蓄えるように──黒い刃に赤い線が模様を描いていく。
その刃が漆黒の魔力のオーラを纏い──俺たち全員をその一撃で巻き込むように。
「勝負だ──リエンさん」
俺は透明な結界板を目の前に作りあげる。
「演者だな、トウカくん──君も最後までそれを演じるか」
煩理リエンは立ち上がり、地面から刀を引き抜くと、左手に現れた鞘に一度その刀を納める。
両足を少し広げ、刀を納めた鞘を持った左手を左腰にあて、グリップを右手で握る。
両脚は正面に向けたまま、上半身を左に旋回させ、右肩を下げ、左肩を上に持ち上げるように構える。
居合抜き──
冗談抜きで彼女は俺たちを真っ二つにするつもりなのかもしれない。
「さぁ──演じようっ──」
「はあぁーーーーーッ」
「あーーーーーッ」
互いにありったけの魔力を──
彼女は漆黒の刀に。
俺は結界に──
疾風が漆黒の色をした魔力を形どり──俺の結界にぶつかる。
今までにないほどの衝撃が俺の身体に伝わる。
壊される訳にはいかない──俺は結界に魔力を送り続ける。
「トウカ──」
「トウカッ」
左右からナギサとシュウがただ、俺の突き出した右手に手のひらを乗せる。
二人の魔力が送られてくる。
「卑怯だなんて考えるなよ、トウカ──私たちは仲間だからな」
「あぁ、ありがとう──ナギサ、シュウ」
「うん──」
「あぁ」
彼女の魔力と俺の魔力が激しい衝突を繰り返し──
その衝突の終わりに──部屋全体が真っ白に輝く。
パラパラパラッと──
透明なガラスのような破片が地へと落下していく。
その後ろで俺は右手を突き出し──
ナギサが左手をシュウが右手を俺の腕に乗せている。
煩理リエンが向き直した上半身の漆黒の刀を持った右手を右方向に突き出したまま──
時が止まったように互いに制止している。
「──認めない──ぼくは演じ続ける──あなたのように──孤独に──見て──くれていますか──褒めて──くれますか?──あの日のように頭を優しく撫でてください、ぼくはそれだけで満足です」
そのままリエンが崩れるように地面へと倒れた。




