【負けない理由】
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親の死を聞かされた時も──特別な感情は無かった。
ひとつ、後悔したのは、それくらいの演技は練習しておくんだったと思ったくらいだ。
催稀クウドの父──同じくその事件で亡くなった。
催稀カイドウ、あの男が──熱心に研究していた負、欲望から生まれる魔力。
そんな魔力で──第二に産まれた黒竜。
その暴走で施設のほとんどは壊れた。
あの人は無事だろうか。
あの人の眠るカプセルは──まだそこにある。
でも──彼に会いに行く手段を失った。
もちろん、親の研究日誌をあさり、その修復を一日でも早く実現するつもりだ。
そして、それも、そう難しくない段階まで来ている。
だから、ぼくは今まで通りに──
彼がぼくではない、者を愛し守るための舞台を──
彼を守り、彼にその悪を送り続ける。
* * *
そんなぼくの記憶の時間は──数日前のものまで遡る。
「リエン様──どうして、あのようなものを招き入れたのです」
「ノア──のことを言っているのかな、サイカ?」
「はい──ノアの思想はどこか不気味です、リエン様の理想の邪魔になるそんな気がいたします」
「サイカ──ぼくの正義は、ノアのような報われない者のためにある」
「神はノアを救わない、世界というのはそういう風に作られているのさ」
「しかし、だからこそ──そんな正義にリエン様が相応しいと私は」
「サイカ──神も正義も、人間の都合が作り出した空想だよ──どんなに正しい正義だって、人間に都合の悪いものはただの悪だ──だからぼくは、そんな正義を演じる」
「はい──私はそんなリエン様だけを──」
「まったく──サイカ、可愛いな君は」
「リ──リエン様──」
ぼくがサイカの顎を少し持ち上げ顔を覗き込むと彼女は顔を真っ赤に目を反らす。
「だから──演じようぼくは──だから、君もボクのために演じ続けてくれ」
「──はい」
そんな、君のあこがれる正義を。
そんな、君たちを利用する正義を。
──演じよう。
君たちから産まれる欲望が世界を、あの人の戦場をつくりあげるのだから。
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「演じよう──トウカくん、その演技──このぼくが否定するっ」
「演技じゃないっ──俺は、守るって言ってるんだっ」
「知らずに──その愛を一人占めしているような君が、あの人の苦しみも理解せずに簡単に言葉にするなと言っているんだよ、ぼくはッ」
伸ばした右手の結界を自分の前に張る。
その透明の結界壁に煩理リエンは赤い刃を叩きつける。
その刃を俺の結界が食い止めるが、その重い一撃の衝撃は俺の体に伝わってくる。
「──水蛇ッ」
ぐるりと次の一手が繰り出せないよう、ナギサの水蛇が煩理リエンの左腕に絡まる。
「その罪を背負え──」
母さんがその赤い刀に触れる。
「うらぁーーーっ」
その漆黒の手甲に全力を注ぐようにシュウが構える。
俺の結界が彼女の背後を覆う。
冷静に煩理リエンの瞳がそれらのすべてを見ている。
「演じよう──それは“権力”」
迫るシュウを睨むように瞳を向ける。
「“権力”の前だ、跪けッ」
「ん──なぁ」
地面を蹴りあげ、低く飛び上がっていたシュウの体が床に落下するように、煩理リエンの前に強制的に膝をつき、悔しそうに顔を見上げている。
「くっ──」
俺の能力を封じるためか俺の体もその言葉で──地面に膝をつかされている。
「──権力の前にはトウカくん、君の守るは無力だよ」
作りだされる豪華な剣。
それをシュウに振るおうとゆっくりと歩き出す。
「水無瀬ナギサ、結代カイナ──10秒間、権力の前での能力の使用を禁止する」
王という能力を使いこなす。
能力にはそれぞれ限度があるのだろう。
跪けの能力は俺とシュウに。
そしてその言葉で縛り切れなかった母さんとナギサをその言葉で能力を封じる。
「──なるほど、守る──か」
いつの間にか俺の結界に囲われていた煩理リエンはその目の前の透明な壁に左手を添え──
「確かに──この“権力”では対応できない──なるほど、頭のいい子は嫌いじゃないよ、トウカくん」
「演じよう──それは“名声”」
消滅せず残っていた赤い刃の刀を突きささっていた床から引き抜く。
「ぐっ」
素早い斬撃──
王子はその周囲の結界を何重にわたる斬撃を加えると──
結界の破片が地面へと落ちていく。
「切り裂くナイフッ」
自由になったナギサが水で作ったナイフを飛ばすが──
煩理リエンはそれを見もせず、赤い刃でそれを弾き。
「がはっ」
迫った母さんを刃に触れる前に右足で蹴り飛ばす。
「うらぁーーーっ」
起き上がったシュウの拳が煩理リエンを狙うが──
その赤い刀を体の前に構え──
その一撃を刃で止める。
刃を横に弾くと、シュウの拳も一緒に横に弾かれる。
「ぐっ」
シュウの頬を彼女の左手で作った拳の裏で殴り飛ばされる。
「こんじょーーーーっ」
ドンッと──客間のドアが吹っ飛ぶ。
「どうした、シュウ──気合が足りていないぞ」
リヴィがドアを蹴破り現れる。
「リヴィア──後から弁償することになったら、私は知らないからな」
右の人差し指で眼鏡を軽く持ち上げ──リヴィの方を見ずにカリンが冷たく突き放している。
「なぜ、カリンが先行してドアを開けろとあたしに言っただろ」
「そうだな──開けろとは言ったな」
「なるほど──狂人に言語──だったかな」
「同情するよ、守るものが増えて、大変だな──トウカくん」
そんな加わったリヴィとカリンからすぐに俺へと興味、会話の対象を変える。
「演じよう──それは、“富”──そのぼくの宝を見せつけよう」
部屋全体──現れる剣や槍の矛先が──それぞれ一人一人に照準をあわせるように現れる。
「君に──そんな富による強欲の刃から全員を守ることができるのか?」
全員に──結界を張るなんてことは確かにできない。
「さて、君の正義はだれ“だけ”を守るんだ?神など誰も守りはしない、そんな言葉はトウカくん、君の“エゴ”だよ」
俺は黙って右手を前に向ける。
自分の前だけに透明な結界の壁を作る。
「──まさか、それはさすがにぼくもがっかりだな」
そんな自分の身をまもるための結界を見て煩理リエンが言う。
「──できる、できないじゃない、やるんだ──守るんだ」
俺はそんな彼女の言葉を無視するように──
そんな自分の可能性を信じる。
「な──んだ?」
パリパリと彼女の呼び出した武器の周りに青白い火花が散り始める。
「そんな能力は聞いてないな──トウカくん、ここに来て能力を覚醒させるとでも言うつもりか?」
まるで、作り出した結界に磁力があり、それにひきつけられるように、
そのすべての武器の矛先が俺の方に向く。
「仲間を──母さんを、ミリスを皆を連れて帰る──“負けられ”ないのなら、せめて俺のできることは守ることだ」
部屋中の武器が俺に向かい一斉に飛ぶ。




