【家族という役】
─────
世界は魔力によって創造されている。
もちろん、最初はそんな親の研究など理解できなかった。
でも、そんな物語をこの人は本気で演じ切っている。
大罪を背負い、そんな白竜と黒竜を逃がし、
今日も世界を救うこの人の演技を──ぼくはその隣でずっと見ていたい。
そんな小さな愛しい妻と子のために、そんな矛盾を背負う彼の演技を。
だから、ぼくは彼を救う悪になる。
彼を救い、ぼくは彼が演技を続けるための悪を送り続ける。
* * *
また、数年の年月が過ぎる。
ぼくは親の研究を継ぐために、そこに席を置く。
彼が逃がした白竜と黒竜は今日も──この世界のどこかで喧嘩をしているのだろう。
白竜は希望を食らい、黒竜は欲望を食らう。
だが、人という生き物は後者に偏る。
だから──あの人は今もあの場所で戦い続けている。
あんな機械の中でずっと拘束され眠り続け──
実態を魔力化した体をあの世界に転送されている。
そんなスリープ状態のせいか、実験体という特異体質なのか、
その体は老いるスピードが遅く、その姿にぼくもまもなく追いつき、
追い越すのだろうか──
あと、どれくらい──彼はその大罪を全うできるのだろうか。
「えっ──えっ?なにを言い出すんだい、リエンちゃん」
「もう、ちゃん付けはやめてくれと、何度も言った──それに見た目はもうあなたとそう変わらない」
普通の人間が魔力化し、彼と同じ世界にいられるのは数十分。
「だ、だからって──いきなり抱いてくれって、ぼ、僕をからかっているのかい?」
「ぼくは、本気だ──ぼくも将来はここを継ぐ、そしてあなたの跡継ぎも必要だと思った」
「もちろん、ぼくの跡継ぎもね──現実の人間の演技が理解できない──それらを考えたときに相応しいのはやはりあなたしかいない」
「まぁ──落ち着いてよ、リエンちゃん──君は魅力的な女性だよ、君を想う素敵な男性はこれからたくさん現れるさ」
「──リエンちゃん、唇を尖らせて何思いつめたような顔をしているんだい?」
「やっぱり、現実で眠っているあなたを──」
「リエンちゃん?現実世界の僕に何かしようとか思っていないよね?」
「用事を思い出した──今日はもう帰る」
「リエンちゃん、今日はもう少しだけお話しよう──ね?ね?」
─────
「記憶を食べた?やっぱり──さっきタツキが急に戦意を喪失したのって──」
「それが──僕の役目だからね」
寂しそうに──俺を見ていた瞳を床に反らす。
「腹ペコなのさ──トウカ、君と居ると僕はいつでも涎が止まらなかったよ」
「──ミリス」
「がおーーー、どうだい僕のことが少しは怖くなったかい」
可愛らしく吠えるミリスが俺を見る。
「でも──お前はそれを食べないでいてくれたんだろ?」
「──トウカ?僕が恐ろしくないのかい?君を騙し、僕は君の記憶をいつでも食らうつもりだったんだよ?」
「そのつもりだったら、俺の記憶はとっくにない──お前はいつだって腹ペコだった──それって、お前がその役目を果たせず、誰の記憶も食べてなかったからだろ」
「──トウカ──僕はね──」
なぜか、俺に嫌われようと言葉を探すようにピンク色の瞳を泳がせている。
「いいんだ、ミリス──お前はそのままで、これからもいつも腹ペコで、俺の隣で一緒に美味しいものを食べてればいい」
「トウカ──僕は──僕には役目が」
「──出会った時に言っただろ」
「出会った時に?」
「あぁ──食わずにいてくれたこの記憶を、俺に“守ら”せろッ」
俺はそう右手を伸ばすと煩理リエンがミリスに振るった刃を結界壁で食い止める。
「ふははははっ──いいね、トウカくん──中々に酔いしれるような演技だったよ──」
「手になど入らない──知っているさ、ぼくは──あの人が永遠にその姿を演じる舞台を作り続けるだけ──ぼくはそんな悪を演じるだけさ」
「リエン──よくは知らないけどさ、あんたは、そんな報われない自分を演じることに固執しているだけじゃないのか」
起き上がった母さんが、煩理リエンの背からそう告げる。
「だったらなんだ?そこまでされてまだ、ぼくの演技を邪魔するのか?」
「そうだな、私も案外親バカだな──息子の演技に感化されてね、本気であんたを止めてやるよリエン」
「母君様──」
拳銃を向ける母さんに、どこか不安そうな瞳をミリスが向ける。
「ミリス──今度からは私のことをお母さんって呼ぶ練習をしておくんだ」
「──?」
「家族──子供は母親をそう呼ぶものだ」
「お─か─あ─さ─ん」
「あら、よかったですね、ミリスちゃん」
ユイがそんなミリスにやさしく微笑む。
「腹立たしい──憎い──」
煩理リエンが──苛立つように左のてのひらで左目とその前髪を掴みながら震えるように声を漏らす。
「いいだろう──ぼくが言ったことだ、臨んだことだ、演じよう──ここまで醜い自分を演じるのは屈辱だがね──それがあの人のための悪役だというのなら」
煩理リエンは赤色と青色の刀を抜き、両手に持つと──
俺たちに包囲されるように、その中心で不快そうに笑う。




