【記憶の味】
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どうして──この人のことが気になるのだろうか?
何処かほかの人とは違う──
少し幼稚な容姿。
ほんの小さなものを守るために世界を守るというその男は──
今まで、父親に連れられて見てきたどんなミュージカルよりも。
その男の演技はとっても美しく見えた。
そんな彼の隣で──ぼくはどんな役を演じられるのだろうか。
* * *
「大罪人──か」
ぼくがこの人の戦場に居続けることは難しい。
こことは、別の異次元空間。
この世界を形作るための魔力というものが集まる場所。
彼はもともとそこに居続けるために作られた実験体。
何やら液体の入ったカプセルのような中に入れられ眠り続けている。
生きるためだけの最低限の栄養を体内に送り込まれている。
あっちの世界で──世界を守る大罪人。
父を騙し、研究に興味を持ったふりをして──
この人の監視を任された。
そして──実験体ではないぼくには一日、数十分が限度のこの人の世界に入ることがぼくの今のすべてだった。
そして、数年の年月が過ぎてもまだ──
ぼくの在り方は変わらない。
ぼくは大罪人を救う。
ぼくはこの人と共に居たい。
その矛盾だけを繰り返す。
「この人を──あんたがその名で呼ぶな」
大罪人と──彼を呼ぶ男。
催稀カイドウとかいう男の息子だっただろうか。
いつも、気味の悪いゴーグルをつけている。
確か、名前は催稀クウド──
年齢はぼくよりも少し上──
この男の父親同様に──この男も、
研究に熱心で──特にこの男の目的がわからず気味が悪いものだった。
「ここに何の用だ──」
「助言さ──救いたいんだろ?」
「お前に、演技指導など頼まない──」
「なぁ、煩理リエン──正義に必要なものはなんだ?」
「──黙れ」
「“悪”だよ──正義を成すのに必要なものは、力でも勇気でもない、裁くべき対象さ」
「だったらなんだ──」
「結代──この実験体をずっとここに居続ける“理由”が必要だろ?」
「だから、何が言いたい」
「そう凄むな──その男が戦っているのは、人間の負の感情が魔力化しそして具現した化物、それを永遠に送り続ければいい」
「───」
「簡単だ──この世界にはそんな感情が壊れるほど理不尽な目に合ってるにんげんなんてごまんといる、そんな人間をあんたは助ける──“表向き”はな、得意だろ、演技は?」
「表では哀れな奴を救う正義を演じ、裏ではそんな負の感情を糧にその男を束縛する──」
「でも──それでは、この人は永遠に救われない──そんなことしたって彼は永遠に手に入らない」
わかっている──わかっている──
ぼくはそれらを演じているだけだ。
それらを手にした人間ではない。
─────
「恐れている──ぼくが?こんなぼくを?」
そんなユイに見せられた自分という悪夢に。
「ぼくはどんなぼくでも演じて見せる──望まない自分でも必要ならね」
「それで──リエン、私を殺せばそれが手に入るのか?その悪役を演じればほしいものが手に入るのか?」
その赤い刀の刃を受け、冷や汗を流しながらも母さんはそんな煩理リエンの顔を無理やり笑みを作り見上げる。
「──カイナさん、黙れよ──初めてなんだ、感情が、ぼく自身の感情が演技できないのがね」
「その罪を背負え──」
「ぐっ──なんのつもりだ」
引き抜こうとした赤い刀の刃に母さんは手を添え──
その刀を抜かせない。
「うらぁーーーっ」
シュウが刀を引き抜くのに手間取る彼女の体に拳を振るう。
「ちっ──」
青い刀がシュウを狙う。
「水蛇ッ」
ナギサの水蛇が左腕に絡まる。
「ぐっ──」
煩理リエンが二つの攻撃手段を失う。
「ん──なっ?」
武器を一度、手放し後ろに距離を取ろうとした彼女の体は──
後ろに張った、俺の透明な結界板がその場へ拘束する。
「ぐぅっ──」
容赦のないシュウの漆黒の手甲の拳が──彼女を捉え、俺の結界壁に背中から叩きつけられ、その勢いで結界を破壊し後ろへと吹き飛ぶ。
「──矛盾しているのさ」
そう、煩理リエンは──立ち上がる。
「ぼくが欲するモノは手には入らない──ぼくはぼくを見ないほかの誰かを愛する彼の演技そのものを愛しているのだから──」
その感情の消化の仕方がわからないと──その憎しみの先を求めるように瞳を順番に向けている。
「リエン──あんたにこんなことを言っては、さらに憎まれるかもしれないけどね──対して覚えちゃいないのさ」
行き場を求めていた瞳が母さんに向く。
「一緒に居た時間なんて一瞬──トウカを私に孕ませて、子の顔も見ずにいなくなったのだからね──」
「そんなはず──」
リエンは少し戸惑い──目線がミリスに向かう。
「がおーーー、そんな顔で見ないでくれたまえ」
ミリスが可愛らしくどこか寂しそうに笑う。
「そうさ──僕はいつだって腹ペコだよ」
「もちろん、トウカ、そして母君様のを直接食べた訳じゃない、でも──父君様の記憶を消化するということは──そういうことなのさ」
「──ミリス、何を言って──」
「──トウカ、そして母君様との日々はさぞ楽しかったのだろうね──それはとても美味だったよ」
寂しそうにミリスが──にししと笑う。




