【矛盾する願い】
─────
それは矛盾なのだろうか──
「えっ──この戦いに終わりがあるのかって?」
今更のそんなぼくの疑問に、彼はいつものように大げさに反応する。
「そうだね──無いだろうね、だからこそ守り続けないとならない、負けてはならないんだ」
「でも──もし、もし終わりが来たら?」
そのためにぼくは、何ができる?
ぼくは、何を演じられる?
「そうだね──もし、記憶の中の“二人に”会えたのなら、頑張った僕を褒めてもらうよ」
「──そんな願いのために」
きっと、叶えられない願いがそんなもので──
「ねぇ、リエンちゃんは──もし世界が平和になったらどうしたい?」
「──もし、平和になったらあなたは、二人のもとに──行くの?」
ここから──
ぼくの前から──
「──だったらいらない──そんな平和な世界はぼくの“敵”」
あなたを救いたい──
でも──あなたを失いたくない──
そんなぼくは──矛盾していますか?
「次会うときは、ぼくの話だけだと言った──」
「──また、リエンちゃんを怒らせちゃったかな」
「──うん、今日のあなたは大嫌いだ」
「あらら、それは困ったなぁー」
彼は両手を使って大げさに表現する。
「嘘──嫌いなわけない」
ぼくは──黙って彼の袖を掴む。
演じよう──
ぼくは、彼を──救う英雄を。
演じよう──
ぼくは、彼を──拘束する悪役を。
ねぇ──ぼくは矛盾していますか?
─────
「リエンさん──あなたが本当に救いたいものはなんですか──」
俺はそんな恐れがないと“演技をしている”ようにユイを見る彼女に言う。
「神は人を救いなどしない──だからぼくがそれを演じるだけだ、神じゃないさ」
「どういう意味でしょうか──」
お互いに顔を向けあうユイが俺の代わりに言葉にする。
「ぼくは──それらを得られない者たちのために、その何かを演じる──英雄が必要ならそれを演じよう、お金が欲しいのならぼくがそれを得た人間を演じよう、支配する人間が必要ならばそれを演じよう」
「なんだよ──すげぇ奴の考える事は、ほんと理解不能だな」
シュウがそんな煩理リエンを見つめる。
「ぼくは矛盾をしていると思うかい──トウカくん」
「あなたの救いの外で──不幸になっている人は少なくとも居ると思うけど」
「──ならば、君たちが得る幸福になる外で不幸な人間は居ないのだろうか?」
「わからない──俺はその手元を守るだけでも手いっぱいだ」
「さて──身勝手なのはぼくだけなのか、トウカくん」
「リエン──守りたいものが、演じたいものが一番見えていないのはあんたじゃないのか?」
そんな母さんの言葉に──
「黙れよ──見えていないだと?見えているさ──あんたと違ってね、守り方がわからないだけさ、演じ方がわからないだけさ──どうしたら手に入る?なんであんただった?なんでぼくじゃダメなんだ?」
「どうしてくれる──演じきれない、こんな事は初めてだ──感情が邪魔をする、物欲しそうなぼくをあざ笑っているのかッ」
振り向きざまに右手の赤い刀を母さんに振るう。
俺の透明な結界が食い止める。
「──邪魔をするなっ」
左手の青い刀が俺を襲う。
「トウカッ!」
シュウがその間に割って入り、その拳で青い刀に立ち向かうが──
「ぐっ」
「てぇ」
俺とシュウの身体がその刀身に捉えられ、壁際まで叩き飛ばされる。
「あぁ──憎い、憎い─憎い、憎いッ──初めてだよ、こんな心地の良い感情は──演じよう──“ありのままのぼく”を──」
赤い刀が再び母さんを狙う。
「水蛇──」
ナギサの水蛇が赤い刀に巻き付こうと伸びるが──
ザンッ──
と、俺とシュウを斬り飛ばした青い刀がその水蛇を横に両断する──切り払われる。
「ぐっ──」
両腕でガードするも母さんも斬撃が衝撃に変換され──その体が壁際に吹っ飛ばされている。
「やっと──人間らしくなったじゃないか、リエン」
母さんが苦笑いしながらそんな煩理リエンを見る。
「あぁ、感謝しよう──カイナさん、ぼくはようやく、自分を演じられそうだ」
黒い霧が──彼女の何かの悪夢を形どる。
が──、生み出される数々の幻影が即座に赤と青の刃が切り刻む。
「なぁ──トウカ、マジでこの人の攻略法、見えないって──」
ナギサがペットボトルの水を片手にいろいろと思考をめぐらせているようだが──その突破口が見えてこないようだ。
「でも──まだ、“負けてない”」
俺は負け惜しみのようにその言葉を繰り返す。
「あの人を救いたい──それは希望」
ゆっくりと──煩理リエンが母さんの方へと歩いていく。
「あの人を──手に入れたいそれも欲望」
母さんの前で赤い刀を刃を下に振り上げる。
「矛盾しているのか──ぼくは」
冷たい瞳で母さんを見下ろす。
「憎い──あの人の救いたいものをぼくは壊したい──ぼくは矛盾しているのか?」
それは俺たちに向けて言っているのか。
自問自答を繰り返しているのか──
「ぐっあーーーっ」
結界を張ろうと振り上げた俺の右手が彼女が投げ飛ばした青い刀が手のひらと壁に突き刺さり拘束される。
赤い刀が母さんの腹部を貫く。
一瞬、戸惑った顔を煩理リエンはするが、すぐに狂気に満ちた満足げな笑みへと変わる。
「憎い──憎い──憎いッ」
そこで、我に返る様に周囲を見渡す。
「“そんな自分”を演じる事が“怖い”のですか?」
我に返ったリエンが俺の透明な結界板に映るユイの瞳に見つめられている。




