【視えていた者】
「いい加減──決着つけようか」
床に残っていたアルコールの液体がナイフに形を変える。
「くっ──また……」
水のナイフが次々と棚のガラス、液体の入った瓶を破壊していく。
「この液体、なんだろ?──まぁいいか」
ヨウ素液、黒紫色の水の塊がナギサの魔力によりてのひらで球体を作る。
「形どれ──黒蛇ッ」
黒紫色の液体が複数の黒蛇が形どり、自我を持つように床を這いめぐる。
「ひっ」
まるで、本物の黒蛇が床を這いめぐり、アゲハに狙いを定めるように──
「フザケルナッ」
黒い粘液が分裂するようにその黒蛇の上から閉じ込めていく。
黒蛇は腐敗するように液体は分解され吸収される。
「無駄、無駄──水無瀬ぇ、あんたに勝ち目はないんだ、いい加減、壊れろよっ」
「だから、興味ないって──別にせっかく見つけた同趣味の友達に裏切られたとか、悪いけどこれっぽっちも感情にない──だからさ、勝手に私の物語に入ろうとしないでくれる?」
ナギサはちらりと薬品の棚を眺めながら──
「形どれ──化け物を解剖する数多のメス」
過酸化水素水と書かれた札のある棚。
そこから零れ落ちる液体をメスに変え──
一直線にメスがアゲハ目掛け飛ぶ。
「今更──そんなものでッ!!」
黒い粘液──その中にメスは吸収される。
「昔、読んだ漫画でさ見たことあるんだけど──オキシドールって消毒効果あるらしいんだよね」
「あんたの能力……相性悪いでしょ?」
「な──っ」
じわりと黒い液体が浄化されるように──
その様子にアゲハも一瞬目を見開くが──
「あははっ──さっきまでならもしかしたらやばかったかもな」
そうアゲハが笑うと……浄化されかけた粘液は、アゲハからの魔力が送られ、再びその黒色と毒を巻き散らす力が増加される。
「くっ──」
その策も潰され、ナギサ自身もその強い毒に犯されはじめその場に片膝をつく。
「コワレロよ、ほら、ほら──」
もう策はない──そんなナギサを蔑む目で見つめ……
「馬鹿じゃん──私を壊して何が楽しいんだよ、私にもあんたにも得なんてない──」
「そういう問題じゃないんだよっ……ここまで来たらさっ、もう──」
「だったら、なおさらだよ──よく考えればわかるじゃん、私なんて“最初っから”壊れてるだろ?まぢ、意味ねーってのッ」
一瞬、その言葉にアゲハは戸惑うが──
「もっと、もっとなんだよ──でなきゃワタシはッ!!」
「しつこいなっ──だから、いちいちあんたと私を結び付けるなッて」
「水無瀬ーーーッ」
黒い粘液が暴走するようにさらに毒を巻き散らそうとするが──
「ねぇ……あんたの能力──私の能力どれだけ吸い込んだ?」
「なに──言って?」
それに何の意味が──
「形どれ──」
「なに──言って?」
「大蛇──」
片膝を突き俯いていた顔をアゲハへ向けると睨みつけるように瞳を向ける。
「そんなことが──?」
アゲハの能力の黒い粘液がナギサの言葉で形を変えていく。
「もう──それ私のだから」
今までの攻撃がただ──無駄に攻撃していたのではないと──
「嘘だ──そんなことがッ」
「私は私はコワレタのに──水無瀬ぇ水無瀬ぇーーお前もッ」
「いいよ──それじゃ、あんたの言葉を借りて終わらせてあげるッ」
片膝を突いていた姿勢で100メートル走のスタートを決めるかのように身体を前に倒すと──一気に加速する。
高く飛び上り──自ら身体を作り上げた大蛇に飛び込むように……
「壊れろッ」
ナギサがそう命令すると──
過酸化水素を含んだ中央部分が泡立つように──
その黒い粘液で創り出された大蛇の身体が崩壊する。
前に突き出したナギサの上履きの裏がアゲハの胸板に叩き込まれ──
壁にぶちあたり、壁を背に座り込むように限界を迎える。
─────
「ほら──トウカ、右手に魔力込めて──ちょっと貸して」
ナギサがほとんど、意識の無い俺の右手を両手で掴み、俺の右手のてのひらの裏側でアゲハの頬を叩く。
「え──あれ──どうなってるの?」
頭を振る──アゲハが能力を解除したからだろうか、徐々に体内から毒が消えていく。
意識も回復してくる。
だが、能力が解放されていないクラスメイトはまだ意識を失っているようだ。
「全く、どうなってるの──」
夢咲ユイ──委員長が俺と同じように、頭を左右に振りながら歩いてくる。
「生きてる感覚、無くなってんだけど」
シュウが集まってくる。
「まぁ──毒島、答えはわかってるんだけどさ……俺たちを襲ったのって誰かに言われなかったか?」
「ん──?トウカぁ、私のこの不幸をそれで許さないでよぉ」
「気にしてないんじゃないのかよ──」
俺はそうナギサに返すが──。
「気にはしてないし、この因縁はここで終わり──めんどくさいだけだしね、でも──私はあんたを許してはやらない、私とあんたの関係なんてそれくらいが丁度いい」
「……ほんと変わらないね──そういうところが大っ嫌い──」
「上等──」
─────
「あぁ……確かに、誰かに──ちっ、誰だっけ──」
「……どうなってんだよ、俺も、水無瀬も、委員長も、毒島も……覚えてねぇとか」
「整理すると、共通してるのは……なんらかの能力に覚醒していた──誰かとその能力の話をした──そして軽く感情を支配されたように、私たちは敵対させられた」
委員長がそうまとめる。
「まぁ──そうだけど、それだけだな」
シュウがお手上げというようなポーズをとる。
「待ってよ──あなたたちは最初からこの能力を知っていたの?」
毒島がそう割って入る。
「ん──そうだろ、でなきゃ、その誰かとそんな会話になんねーよ」
「まって──私は知らなかった、そいつから初めて自分にも能力があると聞かされた──そして、あなたたちの能力もその対策も──」
「どういうことだ……俺たちのことを能力までも詳しく知っている──本人も知らない能力を知っていた?」
俺はその事実に──
「お──おまえたち、なんだ……今のは……水無瀬、毒島、お前ら今──何をしていたんだっ」
いったい何処から見られていた?
担任の催稀先生だけがいつの間にか目を覚ましこちらを見ていた。
「今の不思議な力はなんだっ」
「やっばっ……見られてた、トウカぁどうする?トウカが殴ったら都合よく記憶飛ばない?」
「それなら、俺の方が得意そうだ」
シュウが一歩前に出るが──
委員長だけが冷静に催稀先生を見つめている。
「まじめに考えろよ──」
俺は少し呆れるように言う。
「何とか説得するしかないか──」
「必要ないと思います」
委員長がそう一言ぽつりと漏らす。
その次の言葉で済むと。
「先生、どうして──彼女たちが何かしているとわかったんですか?」
「──確かにそうだ、俺たちすら、意識を保つのがやっとだった」
俺はその言葉で委員長の違和感に気づく。
「いえ──それ以前に、確か“能力は能力者同士にしか見えない”そうだったはずですよね?」
確かにミリスもそう言っていた。
それに──俺とシュウが初めて戦ったあの日、先輩には俺たちが何をしているのかわかっていなかった。
「わかった、わかった白状する──その俺も能力者なんだ──」




