【悪を演じる理由】
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自分に価値が無いのは嫌だった。
でも──その本物はなんだろうか?
だから、嘘でもいい、私は誰かが私に求める、
本物だけを見せていた。
だから──私が偽物だ。
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「へぇ、楽しいね──ナギサ」
「私はなんも楽しくないって──」
「さっさと──その紐手放せよ、また投げ飛ばされたい?」
言われたとおりに、一瞬、タツキは紐を手放しそうな素振りをした後、不敵に笑みだけを浮かべて、ナギサ同様に自分側の水蛇化した糸を掴む。
「逆さどれ──その冷たき水は高温となる」
水蛇が蒸気を上げ──消滅する。
「な──蒸発?」
ナギサはびゅんびゅんと床を暴れまわるコマを眺め、その攻撃を回避する。
「私ってさ、絶対──彼氏ができたら、口では放任主義を名乗りながら、実際はめちゃくちゃ束縛するタイプなんだけどさ」
ナギサはその未だ拘束される自分の左腕の紐を見る。
「案外、拘束されるのってストレスなのな──」
「ナギサちゃん、それは僕も同感だね、そこでなんだがナギサちゃん──ここはひとつ、ナギサちゃんの能力でナイフでも作って僕を助けてはみないかい?」
ミリスがぶらぶらと天井からぶら下げられるかのように吊るされたまま、ナギサに可愛らしい笑顔を送りながら言う。
「悪いけど、もう少しだけブラブラと空中遊泳を楽しんでくれるか、ミリスちゃん」
「おや、ナギサちゃん、ここ数日で随分と僕への扱いが悪くなったんじゃないのかい?」
「──私だって、できるならそうしたいよ、でも──意外とこれ頑丈だし、左手を拘束されたまま能力を形にするのって難しいんだよ」
「なるほど──それじゃ、僕はナギサちゃんを信用しているよ」
そう言いながらブラブラと体を上下に振ったり回転させたりしている。
「あば、あばばばばばばっ」
一人、空中で暴れすぎたせいか、ミリスを拘束していた紐が回転を繰り返し何重にも捩じれていたものが一気に元に戻り──ミリスの体が高速回転し、両目を渦巻きにしている。
「もうちょっと──静かに信じて待っててくれよ、ミリスちゃん」
「どいつもこいつも気に入らないな──」
そんなやり取りを黙ってみていたタツキ。
「ん──別に悪ふざけしてるつもりはないさ、彼女だってきっと本気だよ多分」
目をまわしぐったりしているミリスをナギサが見る。
「ねぇ──ナギサ、ナギサは彼女のどこまでが本物だと思う?」
「──どういう意味だよ?」
「ナギサが見ているあの子は本物なのかな?と聞いている」
「本物も嘘もねぇし──私が知っているミリスちゃんは彼女だ──そんな彼女が本物だし、あとからどうこう言われたって、私にはそれが偽物だよ」
「あの子は“嘘”を着飾るから美しい──本物だけが美しいなんてそれこそ嘘だとは思わない?」
「わかんないって──んなもんの答えを私に求めるな」
「人間ってのは完璧より欠陥があった方が魅力的んだよ」
「わかんないって、なに──欲しいものが欲しくてモヤモヤしていたころの方がなんだかんだで楽しくて、手にはいたら冷めちゃう的な事言ってる?」
「よくわからないけど──それはナギサらしいね」
「逆さになれ──」
タツキが再び、天井──高級そうなシャンデリアの上に逆さで立っている。
ナギサはそんなタツキから未だ自分を定期的に襲ってきているコマを見る。
「やっぱ──“こっち”は本物ってことだよな」
ナギサは何かを理解したように面倒くさそうに言葉にする。
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客間───
跪け──その一言で王を演じる彼女の前で俺たちは膝から崩れるように──彼女に頭を下げている。
「権力、富、名誉──その煩悩をまとめ上げ、その理を演じる」
「リエン、それは──強欲だ」
「強欲なくして、王も富豪も英雄も語れないな、カイナさん」
「いったい──リエンさん、あんたは何が狙いなんだ」
「トウカくん、ぼくも人間なんだよ──お腹が空けば飯を食う、眠くなれば布団にもぐる──」
膝をつく母の前に立ち、母を睨んでいた瞳を俺に向ける。
「──敬意ある人には恋もする、人間だ」
彼女が空の右手を母さんへと向ける。
「王として──裁きを与える」
無駄に豪華な剣が現れその右手に握られる。
武器としての価値は、あの大盗賊程に感じられない。
その王としての能力の高さは王子ほど感じられない。
だが、その権力の前に──なんの抵抗を持てない俺と母さん。
重圧──金縛りにでもあっているかの身体。
懸命に右手に力をいれる。
その権力に逆らうために多くの魔力が失われるかのように──
右腕をもちあげるだけでも、ミシミシと体が悲鳴をあげる。
「へぇ──美しい親子愛のつもりかな、トウカくん」
彼女が刃を向けた先に透明な壁を作り上げる。
「ぐぁっ」
「トウカッ──リエンッ!!」
ゆっくりと歩いてきたリエンが剣を持つ左手に拳をつくると、裏拳で俺の頬を殴り飛ばす。
「悪役でもぼくは演じよう──そう言ったはずだ」
「だから──それはなんのためにッ」
「ずっと、ぼくだけが見てきた──いつかあの人の隣に立てる日を──そのためにぼくはぼくの演技を磨いてきたんだ──いきなり現れたお前たちが、あんたがその役を奪うなよッ」
「ぐっ──」
「かぁさんっ」
さっきの一撃で俺の結界は解け、身動きの取れない母さんに彼女がその剣を振り下ろす。
「随分と──醜い演技じゃないか、リエン──」
魔力でその斬撃は衝撃に変換される。
王の持つ武器は、身体能力は火力としては低い。
それでも、無防備な体にその一撃を叩き込まれれば──
それでも母さんはいつもの表情で彼女を見上げる。
「あなたに理解されようなど思わない、ぼくの演技はあの人のために、その舞台で演じるためのものだ」
「だから──リエンさん、あなたは何のためにこんなことをっ」
「世界はあの人を“大罪人”と呼ぶ──だったらぼくはそれに相応しい女を演じるだけだ」
「ぼくの演じる世界に相応しいのはあの人だけだ」




