【跪け】
煩理家にあるいろんな場所を繋ぐ扉のある大広間。
その天井を歩く、白い髪を黒に染めたような女性。
逆上タツキ。
その彼女が手にする糸。
その糸にナギサの左腕とミリスの身体が完全に拘束されている。
「ねぇ、ナギサ──手品ってのは“嘘”があるから面白いと思わない?」
「どうなってんだよ──全部手品だというつもりか?」
「そんな“嘘”を全部、実力で“本当”にやって見せた所で、それは手品として、成立しない──そんな真実は嘘のままにした方が美しいんだってさ──」
「それを普通にやってる方が私はすげぇと思うけどな」
「本物をただ──本物として見せるより、本物を“嘘”のように見せる方が美しいのだ」
「私にはよくわかんねーよ」
「友達になろうか──ナギサ」
「こんな状況で、どういう会話デッキを持ち合わせてんだよ」
「私も最近、よく見てるんだけどさ──二次元の皮かぶった人の動画、あれさ──よく流行りになったゲームとか、一斉に初見ですみたいに動画流し始めるじゃん、あれって──本当なの?」
「そういうのは──黙って信じるんだよっ」
「そう、“嘘”を“本当”として見る──だからそれは真実だよ、ナギサ」
「あんたの会話はなんか上下が反転している感じがして──気持ちが悪いな」
「まぁ──どういう手品か知らないけど、まずはそっから降りろ、話はそれからだ」
天井に張り付くタツキの身体をその巻き付けられ拘束された腕を逆手にとるように腕を引き寄せ──タツキの身体を引っ張る。
そして、天井から落下するようにタツキの身体がナギサの方へと引き寄せられ、ナギサもそれを向かい入れるように高く飛び上る。
タツキがくるりと180度身体を回転させると──逆さだった身体をナギサに合わせ──突き出した蹴りを上半身を後ろに背けるように回避する。
「“普通”に運動神経いいじゃん」
「“嘘”に見えないのなら、私はまだまだってことかな」
地面に着地すると──今度はタツキの蹴りがナギサの頭部を狙う。
糸を巻き付けられた左腕でその蹴りをガードするナギサ。
「形どれ、水蛇ッ」
その左腕の拘束の糸はタツキとの一定の距離が取れないだけの拘束。
少し不自由だが腕を動かすことはできる。
ペッドボトルの水をぶちまけると、水蛇を形どらせ、その尾を掴み──
「なるほど──」
近くにあった誰の作品かもわからないが、多分高価なものだろうというのは確かな女性の顔部分だけの像に絡ませると、そのまま遠心力を利用するようにタツキの身体を狙う。
ぐんっ──足を柔軟に開脚させ、姿勢を低くするとタツキの頭の上をその像は通過する。
「おやおや──ふたりとも中々にハイレベルな戦いをするじゃないか」
拘束されているミリスは──抵抗してブラブラと身体を揺らしていた顔を二人に向けながら言う。
タツキは左手の指先だけであやとりをするように、その糸を操り、ナギサの左腕とミリスの身体を拘束したまま、フリーにした右手にけん玉を持っている。
ブンッ──とけん玉の玉の部分でナギサの頭部を狙う。
魔力──タツキの扱うそれらは恐らくその能力で武器として成り立っている。
咄嗟に顔を反らしその通過する玉を回避する。
「うわっ」
勢いよくもとのタツキの手元に戻る玉
カンッとその玉を手に持つ玉を受ける小皿の部分で叩き返すように──
再びナギサの前に迫る。
少し大げさにナギサは後ろに身体を倒し、そのまま床につきそうな頭より先に両手を床につけ、身体を両手で支えたまま両足を持ち上げる。
タツキがナギサを拘束している糸のせいで、そんな動きをするナギサの方へとタツキの身体が引っ張られ──
ナギサは床についた両手を使って身体を跳ねあがらせると、ナギサの身体に両足の裏を叩き込む。
「ぐわっ」
タツキの身体が少し悲痛な顔と共に吹っ飛ぶが──
その悲痛の声は、自分の蹴りの勢いで、タツキと一緒に自分の身体が引っ張られたナギサが漏らす。
─────
客間──
そのリエンの能力に圧倒されている、俺と母さん。
「大丈夫か、トウカ──」
「あぁ、なんとか──、まだ負けちゃいないよ──」
母さんは拳銃をしまい、俺は結界の魔力が両手を覆うように巻き付ける。
リエンさんはただ──俺たちを見て、その手に持った剣を消滅させる。
「どうした──君たちがそうするというのなら、ぼくはその舞台に合わせて演じるだけだ」
「トウカッ」
「あぁ、俺もあんたにある程度の基礎は教わってるからなッ」
女性だからと遠慮できる相手ではない。
俺も母さんも全力で拳を振るうように立ち向かう。
だが──英雄を演じるその女性にはその一撃も拳は届かない。
シュッ──と素早い拳が俺の顔を目掛け振り下ろされる。
その結界を纏う両腕でその一撃をガードする。
「その罪を背負え──」
母さんはその隙を待っていたように、
俺の腕に突きつけられているリエンさんの腕に手を置きそう言葉にする。
がくんっと──その膝を曲げ、膝をつくリエンさん。
「不愉快だな──こんな形とはいえ、あなたの前で膝をつくなど、その罪を背負うべきはどちらか──」
その何十倍になったかのような重力のようなものに──リエンさんは抵抗するように立ち上がる。
「演じよう──それは“権力”、その物語、一国の“王”は──一人、その運命と戦い続ける姫騎士へ恋をするッ」
赤いマント、金色の王冠を被る若き美しい王が立っている。
俺と母さんが拳を構える。
「頭が高いぞ、王のまえだ──」
「悪いけど──私は王に下げる頭は持ってはいない」
そんなリエンさんにその拳を突き上げる母さん。
「跪けッ!!」
王である彼女が叫ぶ。
「っ!?」
「なんだっ」
まるで、母さんが使っていた能力──
そのものを使っているかのように──
俺も母さんもその場で足が崩れるように膝をつく。
「次から次へと、一人でどんだけ能力を──」
「ぼくは“演じてる”だけだよ──カイナさん」
王を演じる彼女は──自分の前に膝をつく母さんを冷たい目で見降ろす。




