【名声の英雄】
煩理家──長い廊下を抜けた先。
少し広い部屋。
また──その部屋に正面、右、左にも別の部屋に繋がる扉があるが──
正面のドアが。
目指す部屋だと──理解する。
その扉を塞ぐように──
同じ学園の制服──
制服の上着の上に、ピンク色のジャージを着こんでいて、
そのジャージの上着のポケットに両手を突っ込んでいる。
長い黒髪だが髪の生え際だけが、白に近い薄い灰色をしている。
怠そうにこちらを見ている。
「ねぇ、トウカ──あれもやっぱり戦わないとならない敵?」
「俺に聞くなよ」
俺はナギサの方を向く。
「さぁ──ゴールはもうすぐだよ、トウカ」
ミリスがその先のドアだけを見つめている。
「嘘みたいなさぁ──話だよね」
ゆっくりと黒に髪を染めたような女性が歩いてくる。
「誰だよ──」
「逆上タツキ──水無瀬ナギサと神代トウカだろ?そっちの子は知らないけどさ」
「隣のクラスの生徒くらいは覚えときなよ──」
「私らの人見知りを舐めるなよっ」
勝手に巻き込まれたが、取りあえずナギサが代弁してくれる。
「嘘みたいな話だと思わない?」
「何がだよ」
「持ってるんだろ、ナギサとトウカもさ──能力」
タツキはポケットから両手をいつの間にか取り出していて、
手にしているけん玉で左右の皿に玉を納め、最後に器用にけん先に玉を納める。
「そんな“嘘”のような話が“本当”になる」
「悪いけど僕たちは急いでいるよ──行こうか、トウカ、ナギサちゃん」
「そういうこと、悪いけど──あんたの相手はしてる暇はないんだ」
「悪いけど、そうもいかない──私の役目は君たちをここで足止めすることだからね」
そう言った、タツキに目を向けるといつの間にか両手の指に糸を巻き付けるようにあやとりをしている。
「ねぇ──トウカ、ナギサ、私の能力はなんでしょう──」
「興味は無い、そう言ってやるんだよ──トウカ」
「例えば──この糸が私の能力ですと、君たちに“嘘”をつく──でもその“嘘”も突き通せるのならそれは“能力”だ──」
「わわわっ──これはどうなっているんだい、トウカ──僕がなんだかピンチだよっ」
ミリスが両腕ごと、透明な糸にぐるぐるまきにされ、タツキの持つあやとりの紐に繋がっているように足が宙に浮いている。
「ミリスッ」
バンッ──次は扉の奥から銃声のような音が聞こえる。
「あーー、もうやっぱ次は私の番か──トウカ、トウカは先向かって」
「だけど──」
「安心してよ、ミリスちゃんは私が回収する」
「悪いけど──リエン様の元にはいかせられないなぁ」
タツキが左手に持つ糸でミリスを拘束したまま──
右手で透明なワイヤーのような糸を器用に操りながら──
俺に飛ばした糸を──
「さっさと行って──トウカ」
ナギサがその間に割って入ると──自分の左腕を犠牲、糸を巻き付けられている。
「悪い──頼んだ、ナギサ」
「おう──任された」
そう、ナギサたちに背を向け扉の方へと走り出す。
「まぁ──いいか、トウカ、一人くらいじゃ──リエン様の運命は変わらない」
─────
「いい加減、私とミリスちゃんを離してほしんだけどさ──」
ナギサが左腕を拘束するタツキを見る。
その後方の頭上で──
ミリスが無言で両足をバタバタと身体を揺らし拘束される糸から逃れようと試みている。
右手で小さいサイズのペットボトルの水をポケットから取り出す。
右手を拘束される左手の近くに持っていきそのキャップを外す。
「形どれ──水蛇ッ」
水を振りまき、ペッドボトルを左手に持たせると、水蛇を形どった尾を右手で掴む。
「“嘘”を“逆さ”にすればそれは“真実”」
「だったら、ナギサ──あんたの見る世界は“真実”か?」
「はぁ──えっ?」
水蛇が狙った──タツキの姿はそこにはない。
まるで、自分がさかさまにでもなったかと錯覚するように──
タツキの重力だけが逆さになるように、ゆっくりと天井を歩いている。
─────
煩理家──客間。
大盗賊を演じるリエン。
数多の武器がリエンの空間に波紋をつくり──
剣や槍の先が顔を出している。
「カイナさん、退場願おう──あなたが今さらあの人の隣に立とうなどと思うな、その代役はぼくが務めるよ」
手にした銃口をカイナに向ける。
ゆっくりと周囲の武器が姿全体を現せる。
「リエン──あんたの声はあの人には届かない、こんな真似であの人を守ろうとしているあんたにはね」
「つまらないな──命乞いするならもっと、相手を楽しませるものだよ、カイナさん──そんな言葉じゃ自分一人“守れないぞっ”」
「例え──命を落とすとしても──あんたに背を向けて“負け”てやる役など絶対に演じてやる気はないな」
「なら──望み通りの役を演じるがいい──」
手にした、豪華な銃の引き金を引く。
その銃は空砲のように弾はでず──
その代わり周囲の武器がそれを合図のように──カイナの身体を目掛け飛んでいく。
「くっ──」
覚悟を決めたはずのカイナも思わずその攻撃に──顔を背ける。
「なるほど──ここで君という訳か──中々、生意気な登場じゃないか──」
リエンがその瞳を扉の方へと向ける。
────
俺は右手を突き出している。
作りだした結界が──その数々の飛び交う武器を受け止め──
その刃を貫通させたり、ひび割れながらもそれらを受け止めきっていた。
リエンは母さんに向けていなかった──空中に浮いている右手に剣を。
左手に槍を持つ。
「演じよう──“名声”──姫を救う王子の物語の続きを──」
リエンさんの能力なのか、その姿が一国の王子のような姿に変わる。
「トウカ──なんで来たッ」
「子が母親を心配するくらい普通だろ」
「トウカ、私はあんたに守られるほど弱くないぞ」
「ピンチそうだっただろ、たまには黙って守られろ」
「ことごとく、邪魔をするのだな──君たちは──」
「いいだろう──君たち相手に演じ切ろう──ぼくの物語を──」
「トウカ──」
「あぁっ」
母さんは拳銃をリエンさんへと向ける。
俺は右手に魔力を纏わせ、指でてっぽうの形をつくり、リエンさんへと向ける。
バンッバンッと二人の銃弾がリエンさんを狙う。
母さんの拳銃から放たれる銃弾。
俺の指から放たれる結界弾。
ガンッ──ギンッ──
リエンさんの瞳が素早く動き──まるでその素早い銃弾が見えていたかのように、
剣の刃で銃弾を真っ二つに──
槍で俺の結界弾を弾き返している。
数々の能力者──また高い運動能力を持った人間を見てきた。
母もその一人。
だが──この人は一つ、いや──それ以上にそれらを抜けている。
「母さんっ!!」
俺が右手を伸ばす──
母さんとの間合いを詰めたリエンさんの剣が俺の結界にその刃を遮られる。
その瞳を俺に向けると──
一瞬で俺との間合いを詰め、左腕を突き出し、その槍の先を俺に向ける。
咄嗟に両腕に結界の魔力を巻きつけ──防ぐ。
「──不愉快だッ」
冷たい目で俺の能力を見つめ、リエンさんが呟き──
「ぐっあぁっ」
槍の柄の部分を腹部に叩き込まれ──身体が部屋の壁に叩きつけられる。
「くっ──トウカッ」
母さんがリエンさんに拳銃を向ける。
ダンッと銃声が響く。
リエンさんは頭を右に傾けるだけでその銃弾を回避し──
一瞬で母さんとの間合いを詰める。
振りかざした剣の刃を──俺は壁に叩きつけられ壁を背に座る形の姿勢のまま右手を伸ばし、作りだした結界で止める。
左手の槍が動く──
「その罪を背負え──」
母さんがその槍の柄に先に触れている。
すると──まるでその槍が数十倍の重さになったかのようにリエンさんは左に身体を傾けるようにバランスを崩す。
そして、あっさりとその槍を投げ捨て──
「がっ──ぐはぁ」
リエンさんの足が母さんの身体を蹴り飛ばす。
「さぁ──演じよう──さぁ──演じろっ──“守って見せろ”」
一瞬で──戦況を支配するように、リエンさんが俺と母さんを交互に冷たく見つめる。




