【拳だけで十分】
煩理家──客間。
拳銃をしまい、拳や蹴りでリエンを追い詰めるカイナ。
体術にはそれなりの心得がある。
そして、リエンはその罪の重さを背負おうと──
そのレイピアを持ち応戦している。
その素早い拳や蹴りを何度かその身に受け止めながらもその刃を振るう。
「それは“富”──“演じよう”──それはとある“滞在人”に恋をする“悪人”の物語だ──“開演”するっ」
どこか品のある高価そうな盗賊の服へと衣装チェンジするリエン。
「盗賊は──世界中の財産と武具を奪い追い求めてきた大盗賊、次に奪うは一国の姫、それを奪うため、ぼくは君という障害を乗り越えよう」
右手を右方向に突き出す。
まるで、その右腕が別の異次元に手を突っ込んでいるかのように、
右手首から先が──空間に波紋のようなゆがみを作りその場から消える。
「世にある武器はすべてぼくのもの──お見せしよう、ぼくの財宝の数々を──」
右手を引き抜き、手にした無駄に高級そうなデザインのされたライフル銃を片手にカイナへの方へと向ける。
「集え──我が富に仕えし英雄どもよ──」
リエンの周囲から剣や槍など数々の武器が空間に波紋、歪みを作りながらゆっくりと現れる。
「くっ──」
さすがにそれは想定外というようにカイナがそれらの武器を眺める。
─────
────
ポタポタと刃の先から赤い液体が零れ落ちている。
そこで人を刺したのだと実感する。
恐怖などないといえばウソにはなる。
だけど、俺は自分の身を守るためにそうした。
それがいけないことだとも理解はしている。
だから、そんな俺を守るための社会のルールが存在している。
大人たちがそんな俺を守ってくれる。
だが、それはいつ俺を守った?
そんなたかが個人を守るために悪意に立ち向かう奴が今までに居たのか?
「そう──それらは君を守らない」
「守ってくれるのは君自身、君を守る手段が卑怯だったとしてもね」
あの人は俺にそう言った。
「君を守らないルールなら、君はそれを守る義理はないんだ」
少なくとも──俺はその言葉には救われた気がしたんだ。
─────
「無駄だ──俺は何度もそう言っている──アドバンテージなど、あんたの努力などそれらは全部、俺のもんだ──俺は苦労もなくそれを手に入れる」
「スバル──てめぇにはプライドがねぇのかよ」
「無いね──そんな無駄なもの、努力も苦労も馬鹿のすることだ──卑怯者は楽だぜ、先輩──あんたの努力はこれ一本で手に入る」
バタフライナイフの刃を一度親指で一度引っ込め、それをすぐに起こしながら言う。
シュウが右足を一歩踏み出し、その体を右足で支え、右腕を振り下ろす。
「無駄──愛しいほど、馬鹿だな先輩──」
その起こしなおしたナイフの刃が、シュウの右腕を止めている。
右腕への若干の違和感。
その一撃を止められる。
床で割れた花瓶を見る。
「関係ねぇ──だったら無駄にてめぇをぶん殴るだけだよ」
「無駄──その前に俺がぶっ飛ばすからな」
「ぐっ──」
シュウの腹部にスバルの持つナイフが突き刺さる。
「おっと──先輩、大丈夫か?」
前かがみになったシュウの肩をナイフを持つ逆の手で支えながら──
「ぐっ──てめぇ」
薄笑みを浮かべ、ナイフを突き刺したまま刃をぐりぐりとまわす。
シュウはそれでも右手に力を籠める。
ドンッ──そのシュウの拳が振り上げられる前に──
シュウの体が強い衝撃とともに壁に叩きつけられる。
「先輩──あんたがどれだけ、その努力で鍛えた肉体で粋がろうが、そんな俺を卑怯者だと罵ろうが──これが結果だ」
「倒れてねぇってんだろ──てめぇの卑怯を武器にするそのドヤ顔をぶん殴るまでは倒れるわけにはいかねぇんだよ」
「いいねぇ──嫌いじゃないぜ、そんな無駄は全部俺の“ため”になる」
小さなナイフの刃でその一撃を止める。
その刃を──
シュウに突き刺す。
「終わりだ──先輩」
ドンッと──強い衝撃。
「なっ──」
吹っ飛ばされる身体。
シュウは左手でスバルのナイフを持った右手を掴んでいる。
そのナイフから放たれる衝撃。
その腕を掴まれたままナイフは抜けていない。
「──てめぇをぶん殴る──俺がするのはそんだけだよっ」
スバルの身体が壁に叩きつけられる。
「確かに──たいした根性だよ、だが無駄──俺はあんたを──てめぇらを超える、それが卑怯なんだよ、先輩──あんたの能力は全部、俺に利用される──」
ドンッ──
振りかざす、シュウの手甲に自らナイフをぶつけるように──
そして、そのナイフをシュウに突き刺す。
そして──その小さなナイフの刃の衝撃とは思えない一撃がシュウを襲う。
身体を後ろにニ、三歩後退させながら両膝に両手を置きそれを耐える。
「よくわかんねーけど、よくわかったよ──」
「いい加減──倒れろ、壊れろよ、先輩」
「てめぇをぶん殴る──そうだな、“余計”なもんは必要ねぇーよな」
手甲を振り上げ、スバルの方へとゆっくりと駆け寄る。
冷たい目でその手甲を見つめ、ナイフを構える。
理解はしない──ただシュウはそのナイフを見る。
「“余計”なことは考えねぇ──」
「なっ!?」
「てめぇを殴る──“余計な魔力”は必要ねぇ」
シュウの右手の赤黒い瘴気を放つ手甲が消える。
ナイフがシュウの右の拳に刃が突き刺さるが──
そのシュウの拳の勢いが止まらない。
「よくわからねぇけど──これならてめぇの卑怯は通じねぇんだろっ」
拳から魔力が血のように吹き出させながらも──
そのナイフを押し返す様に──
スバルの頬をシュウの拳がとらえる。
「ぐっ──ぐはぁ、魔力を乗せていない──!?」
だが、能力者同士──
魔力を纏わない拳は決定打にならない。
でも──スバルの卑怯はもう──
「ぐっ──がっ」
シュウの左の拳が逆の頬を殴る。
「がっ──」
右手の拳を振り下ろす。
まるでナイフの使い方を忘れたかのように──
ただ、スバルはシュウに殴られ続ける。
「くそ──俺は──そんな力に──負けないために──」
「くそ──先輩、無駄っ無駄なんだよっん──ぐぅほっ」
スバルの顔面をシュウの拳がぶち込まれる。
「はぁ──はぁ──俺は──」
立っているのがやっとのスバル。
正直、シュウも同じかも知らない。
それでも──
「卑怯なくせに根性みせてんじゃねーよ」
立ち上がるスバルに投げ捨てる。
「そこをどけ──俺はトウカたちのところに行くんだ」
よろよろとスバルが歩いてくる。
その横をシュウが通り抜けようとする。
ぐさりっとナイフがシュウの腹部に突き刺さる。
「どけろ──邪魔だっ」
シュウがスバルの身体を突き飛ばす様に──殴り飛ばす。
ぐったりとスバルは気を失うように動かなくなる。




