【無駄な努力】
煩理家──客間。
銃声の音が響き──その部屋の中を駆け回る、物語の主役を演じるリエン。
その手のレイピアが銃声の音に合わせその刃をしならせるように、
部屋を駆け抜け銃弾を回避しながら時に銃弾を叩き落している。
そのまま、部屋を駆け回り──目の前に迫った壁を前にリエンはその場で地面をけり上げ飛び上がると、体を捻らせ体の向きを入れ替えると背にした壁を蹴り上げる。
綺麗に地面に着地し──突き出した右腕、手に持ったレイピアの先。
その先に居る人物へと目を向ける。
「二度目だよ──カイナさん、誓え──さすれば君もトウカくんのことも見逃してあげよう」
「断ると言ったら?」
「誓え──ぼくの──あの人の前に現れないと、あの人が救われた舞台に相応しいのは“ぼくだけ”だ──」
「──“その罪”を背負え──」
カイナはそうリエンを見つめ、自らそのレイピアの先を手で触れる。
「──」
まるで演技でもしているかのように、リエンがそのレイピアの重さを右手で支えられないように右腕を床に持っていかれるようにレイピアの先を床に落とす。
「なるほど、それが──あなたの能力だったね──」
「無理するな、リエン──君一人にその“大罪”は背負えない」
「背負って見せるさ──あの人は、“滞在”をたった一人であの日から、今も背負っている──あんたも知らない、ぼくだけが知っている──」
リエンがその本来の何十倍もの重さのレイピアを持ち上げる。
─────
煩理家──2階、扉を挟み玄関とその先の部屋を繋ぐ廊下。
「その産まれ持ったアドバンテージで殴る奴らは正義か?」
シュウに睨まれながらもスバルがつまらなそうな目をしたまま語る。
「その産まれながらのハンデを持つ人間が抗うために持つ凶器を使うことは卑怯か?」
「スバル──てめぇ、今、自分がだっせぇこと言ってんのわかってんのか?」
「先輩──もしかして、かっこいいことでも言ってるつもりか?」
「ぐっ──あっ」
突き刺していたナイフをぐりぐりと左右に捻るように動かす。
「無駄──お終い──どんな綺麗ごとで自分を着飾ったところで、結果がすべてだ」
「うるせーよっ──」
ナイフを突き刺されたまま、右手に力を籠め──
目の前のスバルを殴り飛ばす。
ドンッと激しくスバルの体が壁に叩きつけられる。
「さすがだね──先輩」
馬鹿にするような笑みでシュウを称賛するスバル。
壁に叩きつけられ、座っていた体を起こしながら言う。
「魔力がその傷を──代替わりする、なかなかに便利な話だよな、だけど──痛いだろ先輩?どれくらいこのナイフで傷つければ能力者は壊れるんだろうな」
「知るか──その前に俺の拳でてめぇの意識を飛ばしてやる」
「だめだ、だめ──先輩、殺すつもりでやらなきゃ──その躊躇──その情け、相手の感情に寄り添うことなど、弱者でしかない」
再びバタフライナイフの短い刃でシュウの一撃を止める。
「なんだ──てめぇのそのナイフ」
自惚れかもしれない。
それでも、シュウのその拳はあんな小さな刃で止められる訳がない。
「“このナイフ”が俺の能力なんだよ──」
薄笑みを浮かべたままスバルが、手に持ったナイフを強調するようにひらひらと動かしながら言う。
「このナイフには、先輩──あんたを壊すだけの強度がある」
「適当抜かしてんなよ、てめぇ」
「“卑怯者”の言うことは信じられないか?」
「まぁ──関係ねぇ、スバル、てめぇがいくら適当抜かそうが俺がてめぇをぶっ飛ばす」
「リエン様の他には──エルジナと言ったかな、あの女はなかなかいい女だったな、人を殺すことに躊躇いがない」
「いつまでも、殺人できる自分が最強みたいな自論語ってんじゃねーぞ」
「少なくとも、それができない先輩よりかは、強いよ」
「黙らせてやる──覚悟しろっ」
右手に力を籠め、腕を振り上げる。
「弱者なりに、卑怯生きる──卑怯者を余りなめるなよ先輩」
ナイフの先が拳を止める。
そのまま、体をシュウのふところに滑り込ませ──
ザクッとそのナイフを突き立てる。
「スバル、てめぇ──」
「無駄、そう言っただろ、先輩──あんたの今日までの努力は俺の卑怯で無駄になる」
「ぐっ」
再び拳に力を籠める。
「まさか、さっきの俺の言葉──信じてないよな?」
「──関係ねぇよ──てめぇをぶっ飛ばす」
「無駄だ──そう言ってるんだ、先輩」
突き刺されたナイフ。
ドンッと凄い衝撃を突き刺さった刃の先からシュウの体に伝わると。
シュウの体が先ほどのスバルのように壁に叩きつけられる。
重たい手甲のような拳で殴られたような衝撃。
とてもナイフで突き刺された衝撃ではない。
「どうだ、先輩──なかなかに面白い“強度”だろ?」
そんなスバルの言葉を聞き流すようにシュウは自分の右腕──
赤黒い瘴気を纏う右腕の手甲の手のひらを眺める。
「──違和感は──無くなったか」
いつも通りのてのひらをぐーぱーさせる。
「どうだ──少しは自分の無駄を自覚したか?」
「うるせーってんだろ──俺の根性はまだ、俺が倒れることを許してねぇ、俺の度胸はてめぇの殺意に怯えることを許していねぇ」
「その言葉でてめぇが勘違いみたいに漢気振りかざすことを許してねぇんだよ」
「先輩──かっこいいこと言ってるつもりか?」
「俺に膝をついて、負け惜しみの言葉としてはなかなかに上等だけどな」
「ぐっ──」
スバルがナイフを壁を背に座るシュウや振り下ろす。
シュウが近くにあった木のテーブルに乗っかていた花瓶をスバルへと投げつける。
そのナイフを突きつけるが──
花瓶が落下した衝撃でバラバラに砕ける。
シュウが再び自分の右、手のひらを眺める。
その瞳をスライドさせて割れた花瓶を眺める。
そのナイフを──スバルのナイフの強度を考えてみる。
「俺の拳を止めた──俺にそれ同様のダメージの一撃を与えた──」
そして──落ちた花瓶。
花瓶を破壊したのは“床”
「あーー、考えるのは辞めだ、てめぇをぶん殴る、俺が勝つための方法はそんだけで十分だ」




