【卑怯者】
煩理家──客間。
「あなたの代役はぼくが努めよう、カイナさん──あなたにはその役は相応しくない」
「ふざけるんじゃないよ──こっちはあの人に、一言、二言、文句言ってやらないと気が収まらないんだ」
カンッと拳銃でリエンの持つレイピアの先を弾き──そのまま体を後転させるようにソファの背もたれからソファの後ろの床に着地する。
「退場しろよ──あの人の会話の中にはいつもあんたがいつの間にか現れた──いつもあんたが邪魔をした」
「それで──私を拉致してまで言いたかったことはそれだけか、リエン?」
「興味など無かったさ──トウカくんと直接話すまではね──」
「そして、あなたと実際に話すまでは──こんな嫉妬も不要だった」
「悪いけど──私に情報を出さないと言うのなら、私がここに居る理由などない、帰らせてもらうがいいな?」
「──そう急ぐなよ、カイナさん──舞台は始まったばかりさ、せめて息子が登場するまではここに居たらどうだ?」
背を向けたカイナがリエンの方を頭だけを振り向かせ、睨みつける。
「リエン──トウカに何をした?」
「さて──無事、ここにたどり着けるだけの役者だと、共に願おうか」
「狙いはなんだ──トウカをどうするつもりだ」
「ようやく、らしい表情になったよ、カイナさん」
「どうした、撃てよ──舞台はもうその段階だ」
腕を突き出し銃口を向けられるリエンがカイナを煽る。
「名声──演じろっ──姫を救う英雄の物語、私が“主役”だっ」
ダンッと放たれる銃弾。
迷うことなくリエンがその銃弾に向けレイピアの先を突き出す。
カイナの目が少し驚いたように見開き──
その先のレイピアの剣先が震える。
銃弾がカランッと床に落ちると薬莢が真っ二つになる。
「どうした──カイナさん、二度とあの人には近づかない、そう誓うのなら逃げても構わないよ」
「確かにそんな真似──いかれた設定のアニメくらいなものかと思ったが──だけど、リエン、それで私が“負けたわけ”じゃない」
客間──二人は黙って睨みあう。
────
煩理家、1階の玄関の大きな階段を上り一つのドアを開くと長い廊下が続いている。
奥には入口と同じ大きな扉が有り、その前には。
またも同い年くらいの男性。
若干、細めのやる気のなさそうな目をした男。
「先手必勝だッ!!」
「おいっ──シュウっ」
俺の静止の声も聞かず、シュウが能力の手甲を右手に装着するとそのまま目の前の男の前まで突っ走り、上空に飛び上がりそのこぶしを振り下ろす。
「こんな場面でこんな奴、敵当然だろ──」
「いいね──その考えは嫌いじゃない」
ポケットに手を突っ込んでいた両手。
右手を取り出し、手にしたバタフライナイフの刃を起こし、そのシュウの一撃を受け止めている。
「俺は、遠慮、躊躇って言葉が嫌いだ──」
「なに、リヴィアみてぇこと言ってんだ、てめぇ」
「そう睨むなよ、シュウ“先輩”」
「──1年?」
俺は同じ学園の制服姿の目の前の男を見る。
「結構、尊敬はしていたんだ──その無駄に暑い根性も、反骨精神もね」
「誰だよ──てめぇ」
「卑挟スバル──」
「しらねぇー」
「おい、トウカ──ナギサとミリスを連れて先に行け」
「お──周りに感化されて、自分もかっこつけたくなったぁ?」
「うるせーぞ、ナギサ──」
「困るな──でも、まぁいいか、四人がかりなんて“卑怯”な真似でもされたらたまらないしね」
とりあえず、その言葉を信じ二人を通り過ぎその先の扉へと向かう。
「あぶねっ」
俺は両手に結界を巻くと──不意を突いたスバルという男の一撃を防ぐ。
「残念、不意打ちしっぱーい」
「なめんな、てめぇ──お前の相手は俺だって言ってるだろ」
再び拳を振り上げ、スバルへとシュウが殴り掛かる。
「まぢになるなよ──先輩」
「卑怯な真似するなっててめぇから言ったんだろうが──」
「え──言ってないだろ、俺はされたら困るなと言っただけだ」
「うるせぇよ、一度言ったことに漢気くらい通しやがれ」
「そういう、無駄に暑苦しいところは好きじゃないな──先輩」
「トウカ──さっさといけっ」
俺たちから遠ざけるようにシュウが右手を突き出し、スバルにわざと回避をさせ、俺たちに道を作る。
「おい、シュウ──そんな後輩に負けるなよ」
「あぁ?なめてんのかよ──トウカ、行けっ、すぐに追う」
「あぁ」
* * * *
トウカたちが扉の奥へと消え、再び扉が閉まる。
部屋どうしを繋ぐ、長い廊下。
「さっさとノシて終わりにする──」
「なぁ──先輩、先輩は人を殺せるか?」
「なに、言ってんだ──てめぇ」
「強いとはどういうことか?」
「喧嘩がつえーやつがつえーに決まってるだろ」
「弱い奴が強い奴に武器を使うのは卑怯か?」
「自分がよえー奴という立場に甘んじてる時点で俺からすりゃ卑怯もんだよ」
「俺は結構、先輩のこと認めてんだぜ──ちいせぇ体で無駄に努力して強者に立ち向かう姿に」
「褒めるかディスるかどっちかにしろよ、てめぇ」
「体の大きさに初めからハンデがあるんだ──それを埋める努力などは無駄だと言ってるんだ、先輩」
「そんなハンデで馬鹿にされたくねぇ努力の何が無駄だ」
「その努力で先輩、おまえは何を手に入れた?何にも負けない鋼の肉体でも手に入ったのか?」
「んなこと──なっ──てめぇ!!」
「無駄だ──どんなに鍛えようと、筋肉をつけようと、刃物は通る」
スバルの持っていたナイフがシュウの腹を突き刺している。
魔力、それがダメージを衝撃に変換する。
「拳なんて鍛えなくても人間は強くなれる」
「てめぇ」
「無駄だ──強くなりたければ躊躇はするな、遠慮などするな──必要なのは人を殺せるだけの度胸だよ、先輩?」
「俺はお前が言う、生まれつき力が強くて──その環境だけでえばっている奴も嫌いだが、非道な卑怯な手段を躊躇なくすることを度胸や勇気なんて勘違いしているやろうはもっと嫌いだ──スバル、てめぇのことだよ」
「無駄──結局、誰も己を助けない、助けるのは自分自身──そのための手段、あの人が教えてくれた、自分を守れるのなら卑怯も立派な手段だとね」
「ぐぁっ」
スバルは躊躇なく再びバタフライナイフをシュウへ突き刺す。




