【粛清の果て】
煩理家──客間
「あの人を守るのはお前じゃない──さぁ、演じよう──それを演じられるのはぼくだけだ」
その──リエンの魔力の変化に気づくように、カイナが拳銃に手をかける。
「カイナさん──結局、あなた方の演じる演技など所詮は暴力が限界だ」
「なら──あんたには何ができる」
「“名声”──その役を“演じよう”──囚われの大罪人を救う一国の悪役──“開演”だッ」
「なんだ──」
一瞬で──リエンが衣装チェンジするように、上下の黒いスーツが、西洋の物語に出てくるような貴族の服、青いマント羽織る姿──右手にはレイピアが握られている。
テーブルの上に右足を乗り出し──逆側のソファに座るカイナの首元へそのレイピアの先を突きつけている。
まるで──カイナが突きつけた拳銃の方が小物のように──
下げていた上半身の頭を少し上げ──
冷たい瞳をカイナへと向ける。
──────
「リエン様──向かってしまった四名は他の者が何とかするでしょう──私はこの裏切り者を粛正します」
サイカの周囲がペキペキと音を立てる。
その感情が高ぶれば高ぶるほどその能力が高まり、周囲を冷やしていくかのように。
「ねぇ、サイカ──そろそろ終わりにしてもいい?」
「それは──負けを認めるということで宜しいですか?」
「えーーー、それで私を見逃してそこを通してくれるならいいけどさ」
「私はあなたを始末する──そう言ったはずです」
「物騒だなぁ──あれ?なんか似たようなやり取りあった気もするけど──まぁいいか」
「ノア──あなたを倒し私はリエン様に愛される」
「なんでそんな粘着するかなぁ──まぁ私も感謝はしてるよーちゃんと」
「正義を正しく演じられるのはあの人だけ──私の正義を守ってくれたのはあの人だけっ」
─────
氷夏サイカ──私の名前だ。
正義とはいつだって正しくなくてはならない。
弱気者を強気者から守ることは──正義だ。
だが、正しくあろうとするものはいつだって弱くて。
それを壊そうとするものはいつだって狂暴で。
小さなころはその正義をなすことは難しくなかった。
だけど、年を重ねていくたびに──正義を名乗るのはどうしても難しくなっていく。
経緯は覚えていない。
真夏の外は40度近い熱い日だった──私は守ろうとした誰かに裏切られ──
冷凍庫の中に──閉じ込められた。
余りの寒さにその感覚が無くなる──
なんてことは無い──ただ、ただ寒くて──
背筋から震える身体の止め方がわからないくらいに──寒くて。
体内に流れる血液が──内臓が──
凍り付いていくような感覚。
ただ──ただ─寒くて──
ただ──それしか考えられなくて──
私は正しい事をしようと思っただけなのに──
「すまない──遅くなったね」
現れた私のは正義の味方
救ってくれたのは──私の王子様。
初めて会ったはずなのに──
私の裁けなかった悪を一人で裁いてくれた。
私をそこから救い出し、私に温もりをくれるただ一人。
─────
「私の世界はあの人だけのもの──」
「錯覚しろ──伝説の聖剣っ」
ノアがバラバラになってる甲冑の山からレプリカの剣を取り──それを立派な剣に錯覚させる。
サイカもレプリカの剣を拾い上げる。
ペッドボトルの水をその剣の刃にかけていく。
「形どれ──アイスブレイド」
カンッと二人の手にする聖なる剣と氷の剣の刃がぶつかり合う。
「伝説の聖剣──を受け止めるとか、氷の剣どうなってんだよっ」
「私が──自分の氷剣があなたの聖剣に劣ってなどいないと信じただけです」
「はぁーーー、これだから頭のいいやつは嫌いだなぁ」
「例えば、あなたが私に、自分が世界の反対側に居るとさっかくさせれば、それが成せますか?」
鍔迫り合いを続けながら──サイカがノアを冷たい瞳で見る。
ペキッペキッと聖剣が少しずつ凍り付いていく。
「あなたの錯覚にも限度がある──」
「錯覚しろ──サイカの周囲、そこで作りだされるナイフは“私の錯覚”だ──“私の意のままにお前を狙う”──」
「──!?、何を言ってる──私が作らなければ──」
その意に反し氷のナイフが次々と作られていく。
「がっ──ぐぅっ──はぁっ」
ナイフが次々とサイカの身体を貫くように通過していく。
「なるほど──凍結しろっ──血柱」
本来、サイカを貫いた刃で噴き出すはずの血に代わり、
魔力が液体のように吹き出す。
その魔力の血を凍結させると──
「ぐっ──つぅ──」
サイカを貫いたナイフ同様にノアの身体をその血柱が通過していく。
「メイク──アイススレッジハンマー」
氷の剣を巨大なハンマーに作りかえると──
それをブンッと横に振り回し──
「ぐっ──てぇっ」
そのまま、ノアの身体が近くの壁に叩きつけられる。
「へぇーーー、容赦ないじゃん──」
パラパラと汗など──皮膚の水分がサイカの能力で凍結していたのか、
叩きつけられた壁から立ち上がるノアの身体から氷の破片が落ちている。
「まじで──さみぃ」
時間をかけては──その能力に体温を奪われ──最悪凍死させるほどに能力が高まるかもしれない。
「──決着、つけようか──私の“とっておき”──」
「“とっておき”──?」
「そう、サイカ──私より頭いいじゃん、錯覚しろ──一瞬でも目を離せば私はあんたの視界には映らない」
「また──それか」
一瞬の瞬き、その間にその姿は消える。
「私はサイカの“左から攻撃する”と見せかけて“後ろから攻撃する”──だから右に感じる体温は“私じゃない錯覚”だ」
「な──ん───」
頭が軽くパニックを起こす様に周囲を見渡すサイカ。
「──どこ──だ?」
その錯覚に完全に──気温の変化すらも理解できなくなる。
カチャッと物音がする。
「何をもった──“とっておき”?」
それは──なんだ?
この場を逆転させるようなもの?
「ねぇーーー“錯覚”てくれたぁ?私のとっておきっ」
ドンッと──真正面から重たい一撃がサイカを襲う。
「私は──何を考えさせられた?何を錯覚した?」
「リエンさま──私は──あなたのため──私を温めてくれるのはあなただけ──」
その自分の思い描いた一撃に──
サイカが崩れ落ちる。




