【コーヒーとプリン】
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自分は本当はどんな色をしていたのだろうか──ぼくはたぶん、障害それを知ることはないのだろう。
いまさら、それを知ることは──それこそ後悔だ。
高校を卒業し──すぐに就職した。
周りの色だけを見てきたぼくは、どんな色になりたいかなんてわからなかったから、ただ──無難な色になろうと思った。
それは──簡単なことだと思っていた。
それは──今までのように誰かに合わせるだけではうまくいかなくて──
突然、聞かれる色が何色かぼくにはわからなくて──
ぼくはこの世界の色を知らなかった。
しばらくして──彼女ができた。
もちろん、はじめて。
そりゃ、多少は浮かれていた。
彼女にとって価値のある色であろうと思った。
そう、ぼくは常に誰かの望む色だけを求めて、
それが安心だと──それが安全なんだと思っていた。
数年──付き合いは続いた。
もちろん、彼女が理想とする色だけにぼくは──
でも、彼女が不機嫌な日が続き──
ぼくの演じ続けた価値が彼女にとって無価値になっている気がした。
あぁ──もう、ぼくには価値がない。
価値のないぼくを演じ続けることはぼくにとっても無価値だと思った。
だから──その関係に終わりが来た時にも──
ぼくには、なんの関係もないことだった。
ぼくの人生など何の価値もない。
そう──ぼくは周りを見ていただけで、その色に染まった気でいただけで──ぼくはずっと無色のままだった。
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ノウムが自分のこめかみに拳銃──モデルガンをあてる。
「生き続けるための価値と──生きるために続ける負担があまりにもつり合いがとれないのさ──」
「でも──この先は危険だからと、俺達には生きろと言ってくれているんですよね」
「価値とか無価値とか私はよくわかんないけどさ──私にとっては貴重な同種だ──おっちゃん、私の同種を悪く言うな」
「まったく──君たちのくだらない言葉はいちいちぼくに刺さるね──150円──」
バンッ──と拳銃の引き金を引くとノウムの体が激しく揺れ。
その場に膝をつく。
この空間ではノウムという男の価値だけが──
その暴力、防御、すべての価値を決める。
だが、それらには一度、ノウムがそれを買い取り、我が身で受けなければならない。
それが──この領域のルール。
「──困るよ、ぼくは無価値──そうでなければならないってのに」
膝をついて、辛そうに顔を下に向けたまま──
銃口をこちらに向ける。
バンッ──銃口が全くあっていない銃弾を──
無駄に売却する。
「本当に──何がしたいのだろうね、ぼくは──ぼくなんかがトウカくんやナギサちゃんを止められっこないのにね──こんなことは無価値だっていうのに──」
「伝わってます──ノウムさんが、俺たちを必死で守ろうとしてくれているのは──でも、すいません、ぼくたちは行かないとならないんです」
「だったら──無価値なぼくを倒していくんだね──」
「できれば、ノウムさん──あなたもいるべき場所に帰ってください」
「無価値だよ──」
「だったらその無価値──俺に買い取らせてくれませんか?」
「──無価値に金を払う、馬鹿だねトウカくん」
薄ら笑いで俺を見る顔が真顔になる。
「いくら──払うつもりだい?」
「“500”円──」
ナギサが実際に500円玉を取り出して、ノウムに差し出す。
「君まで、馬鹿なのかい?それはぼくが代償に払える最高額だよ──そんな価値がぼくを守る理由がどこにある」
「ん、あぁ──やべ、俺──全財産、300円──おい、ノア、俺の100円パクッてんじゃねーぞ」
「私の全財産」
ノアがシュウから奪った100円、シュウが100円を奪われた200円を差し出す。
ミリスが無表情できょろきょろとそんな俺たちを見ながら──
ポケットをあさり、一つの飴玉をみつけ手のひらに載せる。
「これはね、トウカがくれた、僕の大好物のぶどう味の飴玉だよ──僕はお金とやらを持ち合わせてはいないが、これは僕にとって500円の価値はある代物だよ」
ミリスが胸を張りながらそれを差し出す。
「ノウムさん、俺たちにとっては──大事な仲間です──」
俺も500円玉をノウムさんへと差し出す。
「ほんと──馬鹿だよ──君たちは──」
そうゆっくりと再び拳銃を自分のこめかみにあてる。
「──そして、ぼくも。」
「500円──ぼくにもう少し価値があれば、もっとだしてあげられたのにね──」
ノウムは寂しそうに笑いながら──拳銃の引き金を引く。
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それはまだ、ぼくが小学生だったころ──
「じいちゃん──そんな下手な工作、部屋に飾らないでよ──」
「何を言うか──ノウム、これはお前さんが作ったこの世に二つとないものだ」
「俺よりもうまくつくってた同級生ならたくさんいるよ、そっちを買い取って飾ればいいよ」
「馬鹿いうな──そんなマニュアル通りの“綺麗な作品”など、それこそそこら中にいくらでもある──例え見た目が悪かろうと、ノウム、お前の個性が詰まったこの“色”がわしは好きなんだ──」
そんな無価値の工作は──今もじいちゃんの仏壇のある部屋の作業台に乗っかっている。
じいちゃんの言っていた──あの日のあの言葉。
ぼくがもっと理解しようと思えば──違った色が見えたのだろうか。
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白い正方形の部屋──
領域、ノウムの作り出した空間は崩壊していく。
「ノウムさん」
部屋の壁に背をつけ、座り込むノウム。
気を失いそうな目を必死で開けながら──
「ぼくの負けだね──はじめから決まっていた、無価値だったのにね」
「おっちゃん──どうなるんだ?」
ナギサは俺たちに負けてしまった後の扱いを心配するように。
「さぁね──正直、何を考えているのかぼくにもわからない連中だ」
「ぼくは、少し休んだら──君たちが向かう方向とは逆──ここから逃げ出すとでもするよ、また──いちから就職活動だけどね」
「約束──漫画の本、貰いに行くからな──おっちゃん」
「ははは──そうだね、その時は──おいしいコーヒーとプリンを用意しておくから、またみんなでおいで──」
「必ずだぞ、おっちゃん」
「──君たちも必ず──全員無事に家に帰るんだよ」
「はい──」
「それじゃ、“またな──”おっちゃん」
「え、あ──また──」
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500円、能力の限界である火力で自分の銃弾を受けた。
意識は朦朧としている。
「またな──か、今までそんな気にしたことなかったけど、いい言葉だね」
ひとりになった部屋でノウムはそう呟く。
「いい年した、おじさんが学生、子供に友達といわれて浮かれているとは──とんだ色だね──でも、悪くないね」
少しだけ目を閉じる。
トウカくん、ナギサちゃんが笑ってくれるのなら──
もう少しだけ頑張ろう。
年甲斐もなくそんなことを考えながら──




