【無価値の領域】
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ぼくの人生は無価値だ────
子供のころ。
鏡を見たぼくはなぜ──ぼくという意識はこの体と一体化しているのだろうか。
と思った。
なぜ、寝ても起きてもぼくはぼくなのだろうか。
こいつは誰なのだろうか──と思ったことがある。
それがわかったところでぼくは変わらない。
だから、それも無価値だとぼくは思った。
ゲームや漫画が好き“だった”。
そんな主人公、世界に入り込んで──
そんな命の危険が付きまとうような世界にわくわくした。
だけど──現実のぼくはそんな主人公にはなれない。
だから──そんな経験もぼくにはいつしか無価値になっていった。
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煩理家──地下の庭園を抜けた場所にある部屋。
牢獄のような部屋がいくつか並んでいた。
そんな空間は目の前の疲れた目の男によって、何もない正方形の部屋に変わる。
「──漫画はいいよね、その物語には無駄がない──その言葉ひとつに価値がある」
「そうだよ、無価値じゃ──ないよ」
どこか機嫌をうかがうような目でナギサが返す。
「──前に勤めていた会社でぼくより後に入社したぼくより年下の社員がいてね──数年後にはぼくの上司になっていた」
「──べつにそんなことは」
「うん──ぼく自身もなんとも思っていない──周りは逆に普通は気にするものだと陰で言っていたようだけどね──」
ゆっくりと──部屋の中央へと歩くノウム。
「ある時──ぼくなんてもはや視界に映ってすらいないんじゃないかっていう、その元後輩上司が、ぼくに助言を求めてきてね──」
「嬉しかったのかな──必死で価値になる言葉を探してさ──絞りだした言葉に──自分が新米だったころから一緒に頑張ってきた人だから相談してみたが──あの人からは“求めている答え”は返ってこない──だってさ」
「そんなぼくの言葉に“価値”はあるのかな?」
「そこに“価値”があるか関係ないですよ──その上司はノウムさんに初めから答えがある言葉をノウムさんに求めているんですから」
「確かにね──でも、少なくとも──ぼくという無価値という存在は変わらない」
「よくわかんねーんだよな、俺は──」
しばらく黙っていたシュウ。
「──誰かがそう言った、だれかが認めてくれなかった──なんでそれが無価値になるのかって──そう自分で決めつけなければ、倒れなければ、あんたはそんな年下野郎に負けてねぇだろ」
「若いんだよ──君たちはね──大人の世界ってのはひどく残酷さ──泣こうがわめこうが、こんなおっさんに優しく手を差し伸べるような世界ではないのさ──」
「叩かれても痛みに耐えようが──殴り返すだけの勇気も手段も持ち合わせていなくても──全部ひとりでやらなくちゃならない──そんな自己主張のできない人間は簡単に切り離される」
「──わからなくもないけどさ」
ナギサは自分、周囲を見ながら──
「わかってないさ──わかっちゃいけないよ──生きたくても、無価値な人間は、まともには生かせてもらえない、死にたくても──死なせてはくれないくらいには守ってくれるのがこの優しいほどに残酷な“世界”なのさ──」
疲れた瞳をこちらに向ける。
「わかりますよ──少なくとも俺達には──」
「いいや──わかっちゃいけないよ、少なくともこんな無価値の大人と将来のある学生達が対等であってはいけないのさ」
ノウムがそう、手にした拳銃を自分のこめかみにあてる。
「なんでさ──」
ナギサが少しだけ感情的に──
「なんで、ノウムのおっちゃんは私たちと対等じゃダメなんだよ──」
「そこに君たちに“なんの価値”もないからさ」
「あるよ──おっちゃんは私に漫画の本くれるって言った──トウカはそんな私を現金な奴だって言うけど、少なくとも私はおっちゃん、“嫌いじゃない”」
「──そうか、よかった──でも、それはぼくの“価値”じゃない──ナギサちゃん、そこにある利益の価値は“無価値”じゃないのさ」
「でも──ノウムのおっちゃんの言った、会社が必要としたその年下上司とやらには私には“無価値”だけど、私に漫画をくれるおっちゃんには“価値”がある──」
「90円──」
ノウムはそう呟き引き金を引く。
体が大きく揺れる。
「──困るな、ナギサちゃん、ぼくの無価値感が狂ってしまいそうだ」
実際にはナギサの言葉はその値段以上の価値をノウムはつけていたのかもしれない。
確か、以前に──その値段、価値の値には嘘がつけないと言っていた。
そして、その拳銃をこちらへ向ける。
「トウカくん──守ると言ったね──正義の味方の価値って考えたことがあるかい?」
「世界の平和を守る──スーパーヒーローとか……」
「──例えば、悪に立ち向かい敗れた正義のヒーローにはその価値はあるのだろうか」
「世界の平和を守る──その言葉が成立しないのなら──そこに価値はなくなる」
俺はそう答える。
「そう──正義のヒーローってのは結局、求められる価値ってのは“力”だよ──」
「倒れない、かなわない相手に立ち向かう勇気──だけど、そんな悪を滅ぼす最後の決め手は“力”なのさ──」
「それがない正義は無価値だと──」
「そうだね──この先に進む資格はないね──」
ノウムがゆっくりとその銃の引き金に手をかける。
「売却しよう──そこに君に守る言葉はあるのかい?」
俺は両手を前に突き出すように透明な壁を作り出す。
俺たちを試すようにその引き金を──
「そこに──正義のヒーローが居なくても、俺たちが“負けていい理由”にはなりませんよ」
ギンッ──
銃弾が俺の作り出した結界に遮られる。




