【無価値なおっちゃん】
煩理家、豪邸──地下の庭園を抜けた先、
俺、ミリス、シュウ、ナギサ、ノアの5名がその先の部屋に続くドアを開く。
大きな部屋。
その左右は鉄格子に覆われていて通路は一直線に続いている。
鉄格子の奥には部屋がいくつかに区切られるように普通の部屋のつくりをしている。
策の前から部屋が丸見えということ以外は──
「酷いものだろ──トウカくん」
男が一人、疲れた表情でこちらを見ている。
「でた、おっちゃん」
ナギサが露骨な表情をする。
「無価値のおじさんを覚えていてくれたのかい、ナギサちゃん」
「おい、トウカ──あの妙な能力を発動される前に」
そうシュウが俺の答えをまたずに右腕に魔力で作り出した黒い手甲を装着すると、地面を蹴り上げ一直線に突進する。
「まったく、血の気が多いね──」
「でも、そんな不意打ちなんて在り来たり、10円だ」
くしゃりと──ノウムの右手がそのシュウの一撃を止めている。
「なんで──」
「別にぼくの能力はわかりやすく別空間を作り出して、その中でだけ能力を発動させるわけじゃ──ない」
「すでに能力の発動領域の中──」
俺は周囲を見渡しながらノウムを見る。
「守りたい──だったかな、トウカくん」
「無視してんじゃねーぞっ」
「──売却しよう」
ドンッと鉄格子にシュウの体が叩きつけられる。
「この先に、行ってどうする?」
「俺にも詳しい事情はわからないです──だけど母さんは妙な事件をずっと追っていた──その事件と俺たちの周りで起きている事件がどこかで繋がっていた」
「なるほど──母親でもさらわれたのか、そうだね、それくらい何気ない顔でやる連中だ」
まるで、そんな事も知らずにここに立っているというようにノウムは他人事のように言っている。
「おい──トウカ、なんだこの部屋は超お宝があるぞっ」
鉄格子の先の一つの部屋にナギサはなんとか体がその隙間から通らないかという勢いで中を覗き込んでいる。
「ぼくには無価値だ──欲しいものがあるのならあげようかナギサちゃん」
「ほ、本当かって──この部屋のもの、おっちゃんの?」
「──そ、昔なら必死で親にも友人にも隠していたのだけどね」
漫画の本やゲームなど──
それらが山積みになっている。
しかも、ぱっと見、どれも未開封でビニールに包まれたまま。
「年のせいかな──何するにも気力がわかなくてね」
「気力がわかないって──好きで買ったものだろ?」
そんな俺の言葉に疲れた瞳を向けるように。
「好きなものには変わりがない──ただ、集めるだけに満足してしまってね、その先の“価値”を見出すための気力がわかないのさ」
「価値である代価を払った後の興味がない」
「無駄遣いじゃん」
「そうだね──そこには価値があったと思ったんだけどね──」
シュウが立ち上がり再び身構える。
ノウムはただ、つまらなそうにため息をつく。
「無駄、そんな攻撃はぼくには無価値だよ──それより、少し話でもしないか、こんな場所でよければね」
「トウカ──」
ナギサがその話というよりもこの部屋に興味ありそうに俺を見つめている。
「悪いけど──急いでいるんだ」
「それも踏まえてだよ──トウカくんのお母さんをさらった理由はなんだろうね、しかもわざわざさらった人間をすぐにどうにかするとは思えない、ぼくの経験上、トウカくん、君みたいなタイプの母親は結構しっかりものじゃないのか?自分の意志で煩理リエンに着いてきたという方がぼくには自然だと思うが」
「そこには、僕も同意だね──トウカ」
ミリスが軽く頷く。
「それと──何かお茶菓子くらいあったはずだ、この年になると甘いものが喉を通らなくなってね、処分に困っていたのさ」
「トウカ──」
ミリスのピンク色の瞳がキラキラと俺を見る。
「お──おい、俺、いきなりこのおっさんに殴り掛かったのに──どういう心境でここに居ればいいんだよ」
鉄格子の扉の鍵を開け、中に入る、シュウが隅で気まずそうに一人壁を背に座っている。
ナギサとノアが部屋のものを興味深く物色している。
「コーヒーと紅茶、どっちがいいかな?」
「俺はコーヒーで……」
「砂糖やミルクは?」
「いえ──そのままで」
「ブラック、大人だね」
「苦手なんです──」
「砂糖やミルクがかい?」
「いえ──そのままの味が好きというか、そもそも苦い飲み物をわざわざ甘くしてまで飲む理由がわからないと言いますか──」
「それ、凄くわかるね──ぼくもコーヒーはブラックしか飲めないし、お酒もビールや日本酒は飲むけど、カクテルとかが苦手でね、お酒かジュース、飲みたいほう飲めばいいのにと思うよ」
「トウカーー、見ろ、これ──再発行版の単行本はでてるけど、あぁ……元祖はこんなに巻数があって──表紙も──あ、なんだ──こっちはっ」
「あーーー、その先生の短編集だね、有名になる前の作品だから結構レアだよ」
「トウカ──!」
「俺のじゃないだろ──欲しいなら自分でノウムさんに頼めよっ」
「いいよ、もっていきなよ──ぼくにはもう無価値だからね」
「おっちゃん、いや──ノウムさん、私嫌いじゃないかもっ」
「好感度あげてんなよ──ナギサって結構現金だな」
「うるさいっ──トウカもこの宝を目の前にして、何も思わないのがどうかしてる」
「えーーー、ナギサが欲しいなら、ねーーー、私も欲しい」
「どういう理由だよっ──てか、それは私が貰うから、ノアはほかのしろよっ」
「えーーー、やだよ、私もそれがいい──」
なにやら喧嘩がはじまる。
「んまい──トウカ、これはなんて食べ物だ?」
「プリン──これよりも安物でよければ今度、コンビニで買って食うか?」
「ほんとか──トウカ、母君様の分も買って皆で一緒に食べよう」
「あぁ、そうだな──」
「うん、みんなで一緒に食べればきっともっとうまいっ」
「おい、トウカ──トウカ、こっからここまで全部貰ってくれっ」
「ナギサ、少しは遠慮しろ、しかも──なんで俺がなんだ」
「だって、私の部屋の本棚に入りきらない──トウカが貰ってくれればトウカの家で読めばいいし、遊びに行く口実もできる」
「えーーー、じゃぁ、私も遊びにいくーっ」
「はぁ──ぼくも、トウカくん──君たちと同じ世代で産まれていたら、ぼくはその中に入れてもらえていたのだろうか」
「あたりまえだろ──」
好感度が一気に爆上がりのナギサが即答する。
「そうですね──」
「だけど──当時のぼくはきっとそんな手を差し伸べてもらっても──よくわからない維持でその手を払ってしまっていたのかもしれないね」
ノウムは過去を見つめ、何かを後悔するように──
「トウカくん──もう一度、聞こうか──」
「はい?」
「どうしても──この先に行くのかい?」
「──はい」
「そうか──だったらしかたがないよね」
部屋が真っ白な正方形の部屋に変わる。
「お、お宝が──不運だ」
「大丈夫──終わったら、全部あげるよ」
「ノウムさん?解りあえたんじゃないのかよ?」
「こんなぼくを仲間だと言ってくれただろ──だからぼくはこの先に君たちを行かせない──お母さんの事はぼくが彼女に交渉してみよう、まぁ──無能のぼくには無理だけどね」
「どうして──邪魔するんですか?」
「邪魔──そうだね、それに意味を告げるのなら、ぼくが君たちを守る方法がそれくらいってだけさ、ぼくは君たちをこの先に行かせない──危険なんだよ、ここの主は目的のためには手段を選ばない」
「そして──最近、ここを出入りしている男は──それ以上に危険だ──」
「だったら、なおさら──俺は母さんの所に行かないとならない」
「だったら──証明してみなよ、君の守るという価値を──ぼくに認めさせてみせなよ、それができないようならこの先に行っても、君は無能だよ」
何もない部屋で──目下にくまのある目を俺に向け──
寂しそうな表情でノウムが言う。




