【思い出は綺麗じゃない】
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救急車のサイレンの音。
「交通事故だって──」
「あんなに小さい子──」
ガヤガヤと声が聞こえる。
愛してる──愛してる──
伝えなければ──
手を伸ばす──
信号は確かに──青だったのに。
どうして──
転がるピンク色のテディーベア。
その隣に横たわる体。
愛してる──愛している──
─────
──煩理家─豪邸にある地下の庭園。
愛崎マリア──
対峙するのは私、夢咲ユイ──
暴力を許さない──感情が能力となる性質上か、その類の能力者は多かった。
私もどちらかというと、その類だろう。
だが──彼女は“愛”──それを能力とする。
今までの能力者、ミリスちゃんからの情報を元にするのなら──
負の感情──それが能力の根源となっている。
愛……一見、綺麗すぎるその能力にもどこか負の感情、トラウマとなっている場所があるはず──それが弱点となるのかはわからないが──
「父と母はとにかく──ギャルにもう一つは箱の中──負の能力と言うには──余りにも綺麗過ぎですね」
「争いなど──何も産まない、“愛する者”がそこに居る──それで満足ではありませんか」
「ユイ──どうしたんだい、難しい顔して、俺に話してごらん?お兄ちゃんが何でもきいてあげるよ」
「それは、人の片隅にある──願望──欲望──理想──希望」
「何を言っているんだ?ユイ──俺がわからないのか?」
愛はそっと──寄り添ってくる。
油断すればすぐにでも──私の脳裏はそれを彼や彼女らのように受け入れてしまうのだろう。
「どうしてだい──ユイ、俺をどうして受け入れてくれないんだい?」
他の人と同じように──受け入れるべきだと。
「確かに──兄は誰よりも私を愛してくれました──自分と比較され自分より出来の悪い私を──哀れむのではなくただ、私を愛してくれた──“ふつう”に──ただ」
「それが、どうしたというんだ──ほら──語ろう、永遠に──ここで──誰も傷つかない──」
「そこをどいてくれますか──お兄様」
「どうしてだ──ユイ」
「言いましたよね──私は急いでいるのです」
「だから、もう争う必要はない──永遠に──」
「“きれい”過ぎるのです──兄は私を愛してくれた──そう今のあなたのように──でもあなたは──“きれい”なの──愛は綺麗に着飾りたがる──思い出っていうのはもっと──綺麗で薄汚いのです──」
「ユイ──?」
「もう一度──言います、そこを退いてくれますか?偽物様──」
6つ離れた兄──それは5年前。
私が12の時に、兄が今の私より1学年上。
それは誰のせいかは知らない。
もはや、それが誰のせいであったにしろ──
兄は戻らないし、責任を取る人間も居ない。
有名な大学に推薦も得て、高校生最後の彼女と友人らでの卒業旅行。
その旅行で立ち寄ったキャンプ場で、一泊したコテージが誰かの火元の不注意で大火事になった。
真実を知るものは残っていない。
「お兄様──“愛していました”──でももうあなたに会うことはありえない──その愛に甘えることは許されないのです」
「なぜ──?ここに──“その愛”があるのです、そう望めば永久に?」
悪夢──それは目の前の兄を激しい炎で包む。
「ユイ──愛しているよ」
そんな激しい炎で燃やされながらも──
「やめて──」
優しく囁き優しく抱きしめようと──そっとその愛は寄り添ってくる。
「なぜ?拒む理由が理解できません──」
マリアさんが不思議そうに頭を傾ける。
「あなたの言う愛は──場合によってはただの冒涜です」
「なぜ……でしょうか?」
「その苦しみから前を向き──その愛無くして、前に進んだ者への冒涜ですっ」
「だから──それが永遠に手に入ると言うのですから──その愛を無償で受けられるというのですから──それがなぜ冒涜というのでしょうか?」
「過去の愛に縋るだけが──すべてではありません、愛を必死で守ろうとする“彼”を邪魔しないであげてほしいのです」
「理解ができません──まったく」
「まったく──いつまで夢をみているつもりですか──」
私はそうみんなに呼び掛けるように──
「悪夢でも見れば夢から覚めますか?」
「トウカくん、ミリスちゃん──どんなお父さんが怖いですか?」
「ノアさん、あなたの本当のお母さんは──どんな人ですか?」
「ナギサさん、その画面の中で実際マイクの前に立っているのはどんな方でしょうね?」
「シュウさん──本当に彼女みたいなギャルがあなたをそんな風に見てくれますか?」
「ほら──ちゃんと、悪夢を見てください」
「何をするつもり?」
そんなマリアさんを見る。
「思い出は綺麗なだけではありません──愛するというのは──人間が逃げるだけの場所ではありません」
「やめろ、やめなさい──ユイ、やめろっ」
マリアさんが必死に──呼びかける。
「マリアさん──あなたは娘さんに言われて辛かった“言葉”はなんですか?」
新しく私が見せた“もうひとつ”の幻影に──
次々とトウカくんたちが見ていた幻影が消えていく。
「どうなってる──俺たちは何を見ていた?」
シュウさんが我に返りきょろきょろと周囲を見ている。
「悪い──ユイ、お前のおかげか?」
「まったくトウカくんは私が居ないと駄目ですね──」
「あぁ──不運だ」
「安心してください、ナギサさん、あなたの見たのは悪夢、アインシュタインさんの中身は“きっとふつう”の人ですよ」
「アインシュルク様な?それなりに尊敬はしているつもりだけど、ノーベル賞は取ってないからな?」
「……トウカくん──先を急いでください」
一瞬気まずそうに瞳を泳がせた後、トウカくんを見る。
「でも──ユイ」
「彼女は──争いを産みません、戦おうと思うことがすでに間違い──トウカくん、あなた方ではまたすぐにその愛に惑わされるだけです──」
「自惚れていると思っていただいて結構です──彼女に“負けない”のは私だけ──」
「待ちなさいっ」
マリアさんが私の言葉に従い先に進むトウカくんたちを止めようとするが──
彼女の作る幻影をすぐに悪夢でかき消す。
トウカくんたちの背中を見送り──改めて前を見る。
「愛──そのきれいな思い出だけに浸れば──そこに引き込まれる」
「愛してる──愛している──」
マリアさんは少し苦しむようにただその言葉を繰り返している。
「そっと寄り添う愛に──その愛にある不穏な思いを添えれば──その思い出は正しく思い返される」
だから──私はあなたの能力に惑わされない。
「ユニア──愛してる……」
その記憶の娘さんに──
どんなに辛い思いがあろうとも──
「その思い出から死者を呼び出してはならない──」
「お母さん──」
「──え?」
「その能力は──その場に居る人物を呼び出せない──」
私の悪夢がその役割を──
確かにトウカくんたちの幻影をそれで──
私は“愛”を見誤っている?




