【愛の庭園】
「はぁ──はぁ──」
体力が酷く消耗している。
あの探偵との抗争によるものか──
それとも無数の銃弾の跡。
この損失した左目の痛みか。
「あの程度の障害でこんな──」
「はぁ──もうすぐ──もうすぐ──」
「おい、兄ちゃん大丈夫か──」
通勤途中の中年のサラリーマン。
もうそんな時間になっているのか──
「おい、救急車呼んでやろうか──」
「黙れっ」
その声が傷に響くように──
一度負傷した傷を緩和したところで治る訳じゃない。
「くそがっ──ッ」
その心配して声をかけてくれた男に八つ当たりするように──
その身体を地面にねじ伏せ押さえつける。
「“何でもない”──“こっちを見なくていい”──」
能力の目覚めていない人間は──
この能力で直接魔力で感情を上書きできるので御しやすい。
「取りあえず──応急手当だ──貴様のその左目を貰うぞ」
「ひ──な、なんだ──だ、だれかっ」
「うわぁーーーーっ」
左目──視力までは戻らないだろう。
だが、誰かにあの探偵──真解ユズルの能力──
何十分の一の能力だとしても──それを自分の能力と錯覚させれば、
多少、違和感はあると思うが、外見くらいは元に戻せるだろう。
さすがに──このままではあまりにも目立ち過ぎる。
「まだ──壊したりない──ぜんぜん壊せていない──」
──────
下水道の隠し通路から──煩理家の豪邸へと向かう途中。
下水道から恐らく、煩理家の地下に繋がっている通路。
その通路を俺とミリス、ナギサ、シュウ、ユイ、ノアで進む。
「しっかし、こんな時に話すことじゃないかもしれないが、凄いことになったな」
シュウは少し猫背に前のめりで歩いている。
「俺たちはミリスの魔力に触れ、能力が開花した訳だろ?そんなミリスがたまたまトウカと出会って──」
「まぁ──」
先を歩くミリスの白い髪の後ろ頭を眺める。
「僕にとっては一つの運命だけどね──」
「運命?」
ユイが俺の背中から疑問そうな声をあげる。
「正直──あの日、僕を救いに来たのがトウカだったのには、さすがに驚いたけどね──」
「どういう意味──?」
ナギサがミリスに言う。
「そうだね──こんな風に言えば、僕の“運命”という言葉は少しは信憑性が増すのかな──」
「僕は君の“お父さん”を知っているよ──」
「えっ──?」
俺すら──知らない男。
母さんもその話だけはしたがらない。
「トウカ──“僕たち”は正直、君のお父さんを恨んでいるのかもしれない──」
「恨んでいる?──大罪人──」
前に誰か──そう言っていた。
「この話は──少しだけ後にしようか」
ミリスが歩みを止めると──
そこはすでに煩理家の豪邸の中の地下にある庭園的な場所なのだろうか。
綺麗に手入れをされている花壇。
「いらっしゃいましたか──」
麦わら帽子に、白いワンピース。
薄い茶色の長い髪──
清楚そうな20代くらいの女性。
花に水をあげていた手を止め──
その場にじょうろを置き、
こちらに身体を向ける。
「宜しければ──温かい飲み物と焼き菓子があります──少し休まれては」
「申し訳ありませんが──急いでますので」
真っ先に従いそうになったミリスの肩を抑え、ユイが言う。
「もっと──私たちは解りあうべきなのです──愛し合うべきなのです」
「愛?──なに?」
ナギサがその女性を見ながら──
「詳しくは知らない──ただ、彼女の周りには争いが産まれない──誰にも彼女は勝てないし、そして誰も彼女に勝つことができない──そう聞いた」
ノアが──少し身構えるようにその優し気な女性を見る。
「愛崎マリアと言います──愛、それで溢れかえれば世界から争いは消えるのです」
「行くぞ──トウカ」
シュウが──そんな彼女を無視してその庭突っ切ろうとする。
「えーーー、シュウ君、いっちゃうの?ねぇ、こっち来て話そうよ」
シュウがその声をした方に目を向ける。
露出のちょっと高いギャルっぽい女子高生がいつの間にか、その庭の椅子に座りシュウを呼ぶ。
「──えっ?」
シュウの動きが止まっている。
「おい──どうせ、また幻影か何かの類だろうって──」
「──ナギサちゃん、いつも配信を見てくれてありがとっ、ちょっとこっちで話さない?」
「──えっ?」
別のテーブルに液晶画面が乗っかていて、その映像の中でイケメンの3D画像が喋っている。
「──えーーー、ちょっとナギサ、それ本気でやってるぅ?」
「ノアちゃん──こっちで少し話そうか、ねぇ──良かったら、私のこと──お母さんって呼んでみない?」
「……え?」
愛──それが溢れればこの世界から本当に争いはなくなるのだろうか。
それは俺たちに何を見せるのだろうか。
「愛──そっと隣に寄りそう──ただ、それだけで優しく誰かを守る」
ユイはそんな──幻影に惑わされる三人を眺める。
「僕には──“そんなもの”は無いと思っていたのにね──」
「ミリス──トウカ、こっちに追いで──」
優しい顔の“若い”男性──
「だれ──だ?」
「無理も無いよ──僕はその姿の彼しか知らないのだから──」
「だれだ?」
俺は戸惑うようにその言葉を繰り返す。
「この世界の理を誰よりも知るもの──そして僕たちは作られた──例え恨んでいてもね──トウカ、彼は僕にとっても“お父さん”なんだ──」
誰もがそんな愛に──惑わされ──追い求める。
「当然──私も──ですか……」
目の前に現れた女性を眺めながら私は言う。




