【おかえり、キズナ】
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出会いは──確か1年以上も前。
そう考えれば、まだ1年程度の付き合いだったんだ。
「いててて──耳を引っ張るなっ、天重カイナッ──」
多分、先輩をあんな風に扱えるのは生涯、お姉ちゃんだけだと思う。
何かにつけて、姉、結代カイナ、旧名天重カイナの事件へと首を突っ込んでは事件を引っ掻き回す探偵。
毎回、呆れたように迷惑そうに語る姉はそんな真解ユズルという男を──随分と気にかけているようだった。
顔は良し、頭も──多分良し、探偵だし──性格は──
そんな第一印象。
なんだかんだで姉に憧れていた私は姉と同じ警察官が第一志望だったのだけど──
姉はひどく反対した。
そして、そんな真解ユズルという男を私に紹介したのだ。
「はぁ──なんだ、この小便臭い女は──俺は助手はとらねぇーんだよっ」
今でも、最初にわたしにかけた先輩の酷い言葉は覚えている。
「いててて──だから耳を引っ張るな、天重カイナ」
「私の可愛い妹に舐めた口聞いてるんじゃ──ないよ、あと──その人をフルネームで呼ぶ癖、辞めないとこのまま耳を引きちぎってやろうか?」
「わ、わかった──やめろ、天重カイナ──」
「いた、いたたたたたっ」
そんな涙目になってるレアな先輩の表情もよく覚えている──
そん時は、私も先輩の助手になりたいと思うようになるとは思ってもいなかった。
「このクソガキ、面倒をみてやってくれないかな、キズナ」
「こいつを正しく導いてやってくれ」
その姉の言葉が──きっかけだった。
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「どうした──随分と人間らしい感情を出すようになったな、クソ偽教師」
「ふざけるな──ふざけるな──この俺が──こんなところで──」
バラバラバラと──
鉄筋──長い銀色の棒の束を縛っていた紐がほどけ──
ユズルやキズナの前の床にバラバラと転がってくる。
(何が目的だ──たまたま?)
ユズルが思考を巡らせるが──
キズナが予備で持っていた弾丸を拳銃に補充する。
「引導を渡すっ」
キズナが拳銃を目の前に突き出し構える。
「ふざけるなぁーーーっ」
身を隠していた体を再び二人の前に現す。
「ぐっ──」
転がっていた鉄筋──銀の長い棒の一本が──
ユズルの左肩のあたりを貫いている。
「先輩ッ!!」
「気にするな──この程度、撃てっ」
ダンッダンッと続けて銃弾を発砲する。
「引責ッ──引導ッ」
「ぐぁっ」
何か策を設けてきたのかと思ったが、
銃弾は再び催稀の体を貫いてる。
「ぐっ──」
鉄筋、ユズルの左足に貫通している。
黒い鎖──暗闇の中黒い鎖がその鉄筋を持ち上げ、
まるでサイコネキシスでも使って飛ばしているように、ユズルの体を貫かせている。
「その程度で──似非教師風情が俺と殴り合いでもするつもりか?」
「黙れ──黙れよ、探偵ごときが──」
「なんだ──!?」
黒い鎖が直接体を貫通する。
痛みはない──
「ぐぅっ──」
「先輩?」
「かまわない、撃てっ──キズナ」
鉄筋が貫通した右肩から血が溢れ出ている。
痛みはあるが、体の損傷となる部分は魔力が補ってくれていた。
なのに──
ダンッとキズナの銃弾も──
「あ──あぁーーー」
催稀に貫通した左の脇腹当たり、抑えた手のひらの隙間から血が流れ出ている。
「自分の能力──それに干渉し、逆に魔力がダメージに干渉しないようにしたとでも言うのか──」
自分の身を犠牲にしてまで──
「あっ──ぐっ」
鉄筋がユズルの脇腹に貫通する。
「先輩ッ──」
「構うな──俺の身を案ずるならあいつを撃てッキズナッ」
俺も拳銃を構える。
「てめぇ、自身で似合わねぇノーガード戦法にでたんだ、とことん殴り合ってやるよ、クソ野郎」
「いいのか──本当に──」
ダンッ──容赦なく銃弾を撃つ。
催稀の体に貫通する。
鉄筋が──ユズル目掛け飛んでいく。
それが──ユズルの体の横を通り抜け──
「外れた──違う、ロープを狙ったのか」
鉄骨を束ねていたロープ、催稀の能力でそのバランスは崩れかかっていて、その支えを失えばこちら側に崩壊する。
その一撃はロープからも外れる。
「さぁ──選択しろ、探偵、お前は何を選ぶ、自分自身か女か、それとも俺の命を奪うか」
拳銃、銃口を催稀に向けたまま──
「クソ野郎が──俺の答えは変わらねぇよ」
魔力の干渉しない殴り合いなら──拳銃に分はある──
「俺を殺して──その代償にお前は壊れずにいられるのか?」
鎖に繋がれ浮遊している鉄筋、狙いはすでにユズルには向いていない。
だが──自らその能力、致命傷を避ける干渉を解いている催稀を仕留める最大のチャンスだ。
「悪いが──俺はお前を正す、俺が一番に優先することだ」
「女は守ってやらないのか──」
「私は先輩の重りにはならない──私も戦っているッ」
「ほんとうに──それでいいのか?」
「諄いな──」
ダンッという銃声の音。
「さぁ──決めろ、命を奪うのか、命を守るのか──お前の“正義”をな」
銃弾が催稀の左目を貫通する。
左目を抑え、催稀がその場に膝をつく。
「終わりだ──」
再び銃口をひざをつき姿勢を下げた催稀の位置に合わせる。
後ろでバラバラと鉄骨が崩れだす音がする。
引き金に──手をかける。
これで、すべてが終わる。
─────
「先輩……?」
「クソが──」
先輩はあの催稀という男のトドメとなる一撃を放棄し──
その男に背を向け──
私の両足にとりつけられていた拘束具を鍵で開錠している。
その間も、催稀が鎖によって飛ばす鉄筋が先輩の背に突き刺される。
「先輩──どうして」
「クソが──せっかくお前とまた会えた、見捨てられるわけがねーだろ」
先ほどまで、催稀と先輩を繋いでいた鎖は外れている。
今受けている攻撃は魔力が防いでいる。
それでも、先ほどまでの傷が魔力が修復するわけではない。
「先輩──」
「帰ってきたら──言ってやろうと思っていたことはたくさんあるんだ──だが、今はこれだけにしておく──」
催稀を殺す──その目的をすでに忘れ、その男を完全に無視するように。
「おかえり──キズナ」
そんならしくない先輩の言葉に私もそんな今の状況を忘れ涙を溢れ返しながら──
「先輩、ただいまっ」
そんな言葉を送り──崩れ落ちてきた鉄骨で床が抜けるように──
私と先輩は抜けた地下へと落下した。
* * *
どれだけの時間が経過したのだろうか。
入口のない鉄と瓦礫のかまくらに──私と先輩は閉じ込められている。
「──なるべく、呼吸はするな、酸素は大事にしろ」
傷が痛むのか──脇腹の血を抑えながらユズル先輩が瓦礫の壁に寄りかかりながら──私たちを閉じ込めるように積みあがった瓦礫や鉄の塊。
新しい空気を取り込むスペースはない。
夜のこんな廃工場の倉庫。
事件に気付いて助けがすぐに来るとは思えない。
持って──二人で半日分くらいの空気だろうか。
連絡手段となるスマホは使い物にならなくなっているし──
そもそも電波もないだろう。
「へへへっ」
「頭でも打ったのか、なにこんな状況で笑ってる」
「だって──やっと先輩と話せた」
「お前が──勝手に俺を避けてたんだろうが──」
「あれ、もしかして先輩──傷つきました?」
「クソが──おかげで毎日が気楽だった」
「へへへ」
「その気持ち悪い笑い方やめろ──」
「もう、どうしてそんな酷いこと言うのかな──」
「───」
「先輩、傷、痛みます?」
脇腹を抑えながら酷い汗をかいている。
この傷だ無理もない。
「大丈夫だ──確かに少し喋るのがしんどいけどな」
「傷が治ったらゆっくり話をしましょう」
「そうだな──だったらキズナ、お前の話を少し聞かせろ」
「私の──」
「この先の話だ──もし、俺がお前の想いに答えたら──この先、どうしたい?」
「せんぱい…?」
「仮の話だ──本気にするな」
「そうですね──子供はふたりは欲しいですね、姉と弟の姉弟が理想です」
「ぶっとびすぎだ──なんで急に子供の話になる」
* * *
「それで、ですねー、記念日には──」
私はそんなこれからの理想の未来を懸命に先輩に話す。
「──なんてどうですかね?」
「──そう─だな、す─ごく──たの──しそうだ─な」
* * *
「それでねー、先輩──聞いてますか?」
「あ──あぁ──き─い──てるぞ」
そんな楽しい話をしているのに私はなぜか涙が溢れてきて。
* * *
「だから──私は先輩を一生愛し続けますから──」
「───」
「聞いてます?先輩──疲れて寝ちゃいましたか?」
私は流れてる涙の理由が理解できないまま──
疲れて眠る先輩に自分の理想の未来を聞かせ続ける。
────
何時間後?何日後?
薄暗い空──軽い雨が降っていた。
そんな場所に閉じ込められていた“私たち”には、その時間の流れがわからなくて──救い出されたわたしたちは──
ただ、疲れた先輩は眠ったままで──
「ほら、先輩──起きてください、助かりましたよ──わたしたち」
「──残念ですが、こちらの方は」
白衣を着た男が何かを言っている。
「ほら、先輩──起きないと、みんな変に誤解しちゃいますよ?」
先輩の肩を軽くゆする。
よほど疲れている先輩はぜんぜん起きてはくれなくて──
「───」
周りの人間はそんな私と先輩を引き離し──
そんな先輩をどこかへと連れて行こうとする。
「離せっ離せよっ──先輩に触るなッ!!」
私は先輩に触れるその手を振り払う。
「離せっ離せっ」
数人が私を取り押さえる。
「離せっ離せっ──先輩っ先輩を返せっ」
「離せよっ──先輩っ先輩を返せよっ!!」
「うわぁーーーー」
堪えていた涙が抑えきれなくなる。
天を仰ぎ、降り注ぐ雨を顔から全身で浴びながら──
その空に──子供のようにただ泣き声を響き渡せる。
許さない──ぜったいにアイツを──許さない。




