【正義の選択】
──夜。
学園から少し離れた場所。
何かの工場の跡地。
その工場の倉庫のような大きな建物へと真解ユズルが、催稀を追って現れる。
「また──ここか」
あの日──ユズルとキズナが一人の殺人鬼を追った場所。
ユズルがキズナの罪を背負った場所。
建物は結構な大きさで鉄骨などが束になって、頑丈にくくりつけられているものが未だに放置されている。
それらが障害物となって、間違いなくこの中に逃げ込んだ催稀はここにいる。
足音を立てないようゆっくりと足を中に運ばせる。
何一つ物音を立てるものはない。
シーンと静まり返るその倉庫の中。
拳銃を目の前に構え銃口を自分の目線に合わせながら移動する。
あいつはここに何をしに来た。
たまたま、ここに逃げ込んだだけなのか──
黒竜がどうとかとも言っていた。
「両手をあげろっ」
追い詰める。
銃口を目の前のフードを深くかぶっている人間に向ける。
「おい──今更、そんな変装したって意味がねーだろ、先生、いや──偽教師」
催稀は黙ったまま──
そして、思い出したように拳銃をこちらに向けてくる。
「そんなものを取るために──ここに?」
「──悪あがきはよせ」
がたがたと拳銃を持つ手が震えてる。
「容赦はしねー、そう言ったはずだ──」
目の前のフードを深くかぶった人間。
真っ暗な倉庫の中、多少目は慣れてきたが、その悪趣味なゴーグルをつけた男の顔は見えない。
窓から月明かりがブルーライトでぼんやりと室内を照らしている。
「──拳銃を持つのは初めてか、終わりだ──催稀っ」
──ダンッと銃弾を撃つ寸前で咄嗟にその銃口を目の前のフードを深く被った人間から反らす。
その銃弾は──そのフードを深く被った“女性”の頬をかすめるように──銃弾がそのフードを後ろに強く弾くように素顔を晒す。
「──キズナ?」
「──せ、せんぱい……わたし……わたし……」
「生きて……居たのか……どうしてずっと……」
「私は──私という存在が先輩の“罪”となる──存在したらだめなんだよ──わたし」
「──あの偽教師に何を言われた……俺が正す──全部だ、お前の怯えなくていい場所を」
「──ほんと?」
「あぁ……だから……かえってこい」
「だめっ!!」
近寄ろうとしたユズルをキズナが大きな声で止める。
「来たら──だめ、“わな”だから──」
「だったら、おまえが──」
こっちに来いと言おうとしたが──
キズナの両足がその場から動けないよう鉄の柵に拘束され繋がれていることに気が付く。
近くには地下に降りる階段。
そこに催稀は居るのだろうか。
カンッ後ろから物音がする。
「催稀──てめぇ」
涼しい顔で二人の様子を見ている男。
「どうした──久しぶりの再会だろ?俺のことなど気にするなよ」
「──てめぇを先に始末する」
「おいおい──いいのか、“先”に彼女を助けなくて──」
「黙れ──クソ野郎、てめぇの能力なんて俺には通じねぇよ」
厄介な能力だが──
魔力への干渉、そしてその魔力の根源である感情をコントロールする。
また物質に干渉し──強制的に何かを引き起こしたりもできるようだが──
そこまで強く干渉はできない。
現に数人──あいつに操られトウカと敵対したものを見たが、
それほど、感情を破壊されていたというイメージはない。
ただ、初めから壊れているものは、あいつにとって御しやすいというところだろう。
「この辺のものは──俺は予め“干渉”してあるのさ──たいしたことはできないが──どうする、その女を助けるのか、それともその女を見殺しにしてでも俺を殺すのか──」
その言葉にもう一度、ユズルが背後のキズナを確認する。
グラッグラッと不自然に拘束され身動きの取れないキズナの横で積み上げられた鉄骨が揺れている。
「頑丈なロープだ、俺の能力で破壊するには時間はかかるが──予め干渉してあった、もう時間はあまり残ってないぞ」
「くっ──」
ここまで──追い詰めた。
今、こいつを逃がすわけにはいかない。
だが──ようやくまた会えた。
どちらを優先する──
「先輩──だめ、私は先輩の重りにはなりたくない」
「キズナ──待ってろ、正す、全部──俺が」
「欲張るな、探偵──俺には役目がある、貴様ごときが邪魔をするな」
「しらねーって言ってんだろ──」
「キズナは助ける、催稀…てめぇは殺す、そう言ってるんだ」
「だったら、どうする──やってみろよ、探偵」
「いちいち、指図するな──」
そう、ユズルは銃口を──キズナの立っている場所の斜め横の天井に向ける。
ダンッと銃声が鳴り響く。
「正せ──そのロープが切断されそうな状況を作り上げた傷はその銃弾だ」
銃弾がロープをかすり、軽く亀裂が入るとあらたにぐらりと鉄骨が揺れる。
が──催稀が作り上げたロープの綻びは解消される。
だが、すでに傾きつつある鉄骨がその新たな亀裂からロープを切断してしまうのもまた時間の問題。
タイムリミットが少し伸びただけだ。
身動きの取れないキズナ。
その拘束を解く手段さえも探さないとならない。
「関係ない──てめぇを殺してからゆっくり考えるだけだ」
「やれやれ──“目先”の事を解決しただけで、もう俺に勝ってるつもりか?」
「先輩──そこから逃げて!!」
ユズルの横にあった積み上げられていた鉄骨が崩れ落ちてくる。
「ちっ──」
ユズルは地面を蹴り上げ後ろに大きく跳ぶ。
後ろに着地すると──
鉄骨が床に落ち──床を突き破るように地下に続く大きな穴ができる。
危うく──それに巻き込まれていれば生き埋めになっていたかもしれない。
だが──それをうまく避けた。
それでも、催稀は薄笑みを浮かべユズルを見ている。
「──キズナ」
改めて迷いが生まれる。
それが催稀の狙いなのだろう。
同じように拘束されて逃げ出せないキズナの鉄骨が崩れれば──
もし、助かったとしても──
「てめぇ──だけは絶対にぶっ殺す」
再びユズルは催稀を睨む。
「さて──誰が先にぶっ壊れるかな」




