【不正な評価】
──煩理リエン、そんな彼女が所有する豪邸。
その建物に乗り込むためにノアに案内され侵入した下水道の先にあった扉。
その部屋に居た言正キョウゴという男。
評価とは見返りを貰うための言動だと──
「ならば──問おう、カリンちゃん、君は評価を得て、その人に何を送る」
「その評価を己が望むのならその結果だ」
「なら──カリンちゃん、君は誰かのその結果にどんな評価をする──」
「その結果に──自分が感化されたその想いの形を評価する」
「さて──そんな正しい評価を得られない人間はどうなるだろうか──」
「もしくは、自分の力量に合わない評価を得ようとしたものは何を支払うのだろうか」
「評価は買い取るものじゃない──与えるものだ」
「──それを正そう、評価、そこには付きまとうのさ──悪意がね、そう評価に不正はつきものなんだ」
「──くだらない言い分だ、そこをどけてもらう」
「跳べッ──」
カリンの透明な刃が近くにあったデスクの椅子を斬る。
「おっと──」
キョウゴが近くの鉄のパイプに身を隠すと、椅子がその柱のパイプに激突し落下する。
「なるほど──それがカリンちゃんの能力という訳か」
キョウゴはその柱から身を乗り出し──今の拍子で壊れた椅子の金属の棒の部品を拾い上げる。
「例えば──カリンちゃん、君は俺の言う──評価の“不正”というものがどういうものだと思う」
「………」
鉄の棒を目線より少し高い場所にかざし眺めている。
「──とても綺麗だ──偶然折れただけとは思えない芸術品だ」
「──何を言っている」
余りにも唐突──不穏にそのただの折れた棒を褒める男に──
「──俺はこの君にも見てわかるただの壊れて取れた棒を不正に褒めた──そして“見返り”を求める」
「──跳べッ」
一度──柱に遮られ転がっている椅子を再びカリンの刀の透明な刃を突き刺す。
ガンッ──
その手に持った壊れた棒でキョウゴが跳んできた椅子を叩き落す。
「──!?」
とても、それを叩き落すには頼りないモノ──
ただ、同時にそのキョウゴが手にしていた椅子の部品の棒が粉々、灰になるように地面に落ちる。
「……所詮は“不正”だ、そんな“価値”はない」
「不正──だと」
「あぁ──不正により評価を得る、人間とは実に醜い生き物だと思わないか?」
「………」
「……そう誰よりも自分が理解しているのに、力量に合わないからこそその評価に憧れる……その先が“壊れる”だけだと気づかない」
「……正しい評価を……評価を受けるだけが不正だと悪だと言うのかッ」
「──カリンちゃん、それを正そう……俺が最初から言ってることは、評価を与える者と受ける側──そこにズレが生じているのさ、だからそのズレを修正しようとすると不正が発生する」
─────
俺には1つ年下の妹が居た。
同じ大学──妹は文学部、将来は小説家になりたいと言っていた。
正直──俺から見てもそれほど才能があるとは思えなかった。
それでも、俺はそんなあいつを応援したし、懸命に評価もした。
だけど、あいつの成功には俺の評価などなんの意味も無い。
意味があるのは誰の言葉──
例えば──俺が例えそれを“面白い”と評価し周りにわめいたところでなんの影響もない。
だったら──誰の言葉なら影響を与えられるのか。
誰が“面白い”と言えば──その評価に皆は影響を受けるのだろうか。
「教授……?」
40代前後──見た目はパッとしないが、その道にはそれなりの実績はある。
実際に何冊かの本も出しているし、彼が運用しているサイトで、
いくつかの素人の小説を評価したりしている。
「ユカ?」
そんな教授に相談でもしていたのか……
一つの教室から二人が出てくる。
「悪いが──そんな内容のものではうちでは紹介できないな」
「そんな……どこが悪いのかはっきりと言ってください」
「……そうだな、明日──もう一度来なさい……そうだね場合によっては評価してあげてもいい」
「ほ、本当ですかっ」
──俺ではなく、そこまでしてあの人からの評価が欲しいのだろう。
翌日──
同じ教室の前──
教授だけが教室を出てくる──
「ユカ……?」
俺は何となく嫌な予感と共にドアを開ける。
「お兄ちゃんっ」
はぁ──はぁ──頭に血が昇っていく。
慌てて乱れたワイシャツで開けた前を隠し、
散らかっていた衣服を拾い上げる。
「待てよッ──クソジジィーーーッ!!」
─────
「そこまでして──なぜ評価にこだわるのか俺には理解ができない──」
「よくわからないが、あんたのいうそれは、本当の評価なのか」
「少なくともね、カリンちゃん──君の言う評価よりもずっと価値があるものだ」
「その評価に価値があるから、その評価に見返りが生じる──そこに不正が生じる」
「──不正で得る評価に価値などないよ」
「──カリンちゃん、君の言う評価こそただの理想だよ、価値じゃない」
「砕けろ──飛び散れッ」
先ほどカリンが飛ばし、転がっていた椅子──
それに刃を差し分解すると──キョウゴの身体に飛ばす。
ガンッガンッガンッ──
キョウゴは軽く身を構えるだけで、気にすることなくそのいくつかの分解された椅子の部品を身体で受け止める。
「こんなものは──ただの白い紙」
近くの机にのっていたA4サイズくらいの白い用紙を手に取りキョウゴはカリンを見る。
それをビリビリに破り上空へと投げる。
「──凄く美しい、まるで夜空を舞う輝く雪のように──その評価に担う“見返り”を俺は求めよう」
「──」
カリンは身構えるが──予測はできない。
舞った紙屑が──一枚、一枚、細かい刃のように──
一斉にカリンの元へと飛び交うように通過していく。
透明な刃を下に向けながら顔の前を両手でガードする身体をひくつもその刃となった紙切れが通過していく。
カリンの皮膚から魔力が血の代わりに飛び散る。
「そんな風に──評価で自分を騙したところで──壊れるだけだ」
実体験──カリンはそう理解しながらも──
「──そう、壊れるだけさ──なら、俺にあのとき何ができたのだろうな──あそこであのクソジジィを殴り飛ばさずに、あのまま、間違った評価にしがみつく妹を優しく見守れば、妹は壊れずにすんだのだろうか──」
寂しい目で──キョウゴはカリンを見る。




