【評価の代償】
「こっち──」
ノアが下水道の中の一つの扉の前で立ち止まる。
「リヴィ、大丈夫か」
「安心していい、リヴィアなら例え熊が相手でも気合と根性の言葉だけでどうにかするよ」
「偉い信用だな──」
「トウカくん、そんなリヴィアのためにも──今は母の心配をすることだ」
「あぁ、有難う」
「私はまだ、何もしていない──後でリヴィアに言ってやってくれ」
俺の方は見ず、眼鏡を指で持ち上げ、俺を追い越すように前に進むカリン。
鉄の扉──下水道の何かの制御室へと繋がっているような部屋。
恐らくは、煩理家の隠し通路のカモフラージュの通路。
色々とコンピュータのようなものが設置されている。
そして、どこか生活感のある部屋。
ベッドやテーブルなどもある。
「おや──ノアちゃんか」
「なんだ──あのチャラ男時代が抜けてなさそうなおっさんは──」
ナギサがノアに尋ねるように目を向ける。
「さぁ──この場所を教えてくれたのはあの人だけど──誰だろ」
「おいおい──言正キョウゴ、何度も紹介したよ、ノアちゃん」
「ノアの味方──黙ってここを通して貰えますかね?」
俺は言正キョウゴと名乗った男を見る。
「──おいおい、小僧、俺も仮にもここの一員さ、俺はノアちゃんを部屋に招待したってだけで、君たちの計画に手を貸した訳じゃない」
「招待って、大丈夫か──何か変なことされてないだろうなノア」
「えーーー、やめてよ、ナギサにそんな心配される日が来るとはなぁ」
「あぁ──もう心配してやんない」
「おい──トウカ、ここは俺が──」
シュウが前に出る。
「おやおや、俺としては──せっかく若い女性がこんなに居るんだ、小僧よりも──女子高生と宜しくしたいのだけど」
「不運だ──まぢ、嫌いなタイプ──」
「おや──嫌われちゃったかな──」
そう言いながら一つのパソコンを少しさわりエンターを押すと──
ガーーーーッと部屋の奥へと続く通路にシャッターが下がる。
「ぶっ飛ばすしかなくなったが──トウカのお母さん、急がないとな」
ナギサがそう俺の母を心配してくれる。
「私が残る──トウカくん、君たちは先を急げ」
カリンが前に出る。
「おや──これは美人さんだ、テンションあがるね」
「──“解読”しろ」
パソコンにカリンが抜いた透明な刃の刀の先を突き刺す。
パソコンの液晶の黒い画面に何やら緑色の文字が流れ出し──
カリンがエンターボタンを押す。
「へぇ──」
言正キョウゴと名乗った男は──そんなカリンの様子を見ながら開くシャッターを気にも留めない。
「いけ──」
カリンはそこにとどまり、俺たちを先に行かせるように指示をする。
「カリン、お前は──」
「ここが、なんの部屋かはわからないが、この辺のものを制御しているだとしたら、今のように進路を塞がれる可能性がある」
「へぇ──面白いね、頭のいい女は好きだよ」
「悪いが私の方に興味はない──」
「私は大丈夫だと言った──いけっトウカくん」
「助かる──カリン、お前は負けないと信じてる」
「あぁ──その“評価”に答えよう」
そんなカリンに背を向け、俺は他の皆と開いたシャッターの奥へと走る。
* * *
「カリンちゃんと言ったかな──」
「言日岐だ──」
「へぇ、言日岐カリンちゃんか──」
「私はお前になど興味は無いと言ったはずだ」
「さっきの小僧、トウカ──だっけ、なんかリエンちゃんも随分と評価していたが、どこもパっとしない男だったよな」
「誰かの言葉でその人の価値が決まる訳じゃない──」
カリンが男を睨みながら言う。
「だが──誰かがそれを評価しなければその者の価値も決まらない」
「少なくとも──私やあなたにその価値を語る資格などない」
「なるほど──そこを正してみようか、だったらカリンちゃん、君はどうして──ここに残り俺にその刃を向ける?」
「………」
「君は何かしらの“評価”をあの小僧にした、そうだろ?」
「──私がトウカくんに?」
「まぁ──評価、または感情を開いた──というべきか」
「──どういう意味だ」
「そう、感情的になるな──人間ってのは根っからの守銭奴なのさ」
「──回りくどいな、何が言いたい」
「俺がカリンちゃん、君に美人だね、頭がいいねと“評価”する──だが、その評価に、カリンちゃんから好意を持たれたいとか、俺は何かしらの見返りを無意識に求めているのさ」
「それは、おまえのただの下心というやつだろ」
「そう──そこを正そう、カリンちゃん──下心さ、評価の先にはそれが付きまとう」
「全部、貴様基準の話だ──親が子を褒めることに下心があるとでも──」
「そう、それじゃそこを正そうか──テストでいつも赤点の子供が70点を取ったとしよう、親はその子を褒める、また“頑張って同じ点数”を取ってもらいたいというための評価さ、まぁ下心とは言わなくても、見返りを求めているんだ」
「また、頑張ってほしいと思い送る言葉だ──」
「そうだね──しかし、こんな風に感じたことはないかな、カリンちゃん」
得意げにキョウゴはカリンを見る。
もちろん、この男がカリンの過去を知る訳はない。
「その価値に不釣り合いな評価が送られる──そんな自分の価値に不釣り合いな代金を支払われ、そこに怒りを覚えたことはないか?」
「………」
「例えば──常に努力を絶やさずに100点を取る人間がいたとする──親が言わなくても常にそれ以上の結果を出す、価値を産む──親は二人の子供のうちどちらに評価を送るだろうか──」
「そんなもの──平等に送られるべきだ」
少しだけカリンはムキに叫ぶ。
「そう、だが──現実は違う、結果に喜んでも評価はそこにはない──そこに平等など存在しないんだよ、カリンちゃん」
「だが──それでも、その結果は己の財産だ」
「そう、“評価”など単なる付属だよ──その評価=結果という訳ではない」
ゆっくりと──優しく微笑みながらカリンの前にキョウゴは立つ。
「さて──いいよ、そんな“評価”のために君がまだ、刃を向けるというのなら受けて立とうか」




