【可愛い女《わたし》】
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──それは僕がカイナと出会う前、滞在人と呼ばれる前の話だ。
その世界は生物の正と負の感情から生れる魔力できている。
そんな話を聞いたときは正直、僕にも理解ができなかった。
だが、生物──人間というものは主に負の感情に偏る。
だから、正の感情というものは負の感情をコントロールするようなものだ。
僕は人間だ。
いや人間なのだろうか。
“結代”という名前を与えられた。
かつて、そんな世界の理に気が付いた極地の人間たち──
そんな彼らの代わりとなるためにだけに──
そして──その正と負を正しい均衡を保つために、
それだけのために産まれ育てられた。
そうして──僕はその感情の魔力化に一つの到達点へとたどり着く。
魔力の擬態化。
聖獣と魔獣──主に魔獣となる魔力を制御する働きをするのが聖獣。
余りにも魔獣がその負となる魔力を受け取る器としては小さすぎるのだ。
だから──聖獣と魔獣を争わせ、魔獣の魔力を削る必要があった。
聖獣とは言えば、今の僕に近い存在なのかもしれない。
催稀カイドウとよばれる男──
この世界の仕組み、理に日々取り組む男。
一応、嫁も──10歳前後の子供もいるようだ。
そして──その擬態化の実験が現実的になるにつれて──
もう一つ──その負の魔力は──その感情を能力化する。
感情を魔力化するときに──その魔力を具現化させる。
その研究に──催稀カイドウは取りつかれていった。
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──小さいころから戦場で育った。
産まれは遠い国、戦争が絶えない。
父も母もそこの人間。
だが──戦場で父を失い、母は日本の男と再婚した。
──あまりにも生ぬるい連中だと思った。
平和ぼけ──おかしいのは俺の方なのか?
軍志エルジナ──俺が20歳の誕生日を迎える前にそう──名乗るようになった。
生きるためにただ──最善の選択だけを強要され選択をしてきた。
女を捨て──仲間と家族と生き残るだけの選択をしてきた。
そのためには、“父親”をも見捨てる──
ともに戦った戦友も切り捨ててきた。
その選択が今の英雄を作り上げてきたのだ。
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「女を捨てろ──その強さだけを求めろ──恐怖だけが思考を正しく働かせる──孤独だけが己を強くする──」
「───くだらんっ、恐怖だろうが孤独だろうがあたしには関係ない、あたしを強く動かす言葉は一つで十分──それは、気合と努力と根性だっ」
ブンッと拳を振り回す。
「それじゃ一つじゃねーだろっ──それにリヴィア、あんたはそれだけのために“女を捨てた”のか、どれも女のままでもできることだ」
「必要とされるのは──いつだって、“力”だった──いつだってそこに私は必要なかった──」
リヴィアは少しだけ寂しそうに──だがすぐにいつもの表情へと戻る。
「所詮、土台が違うんだよ──リヴィア──俺は女の命を絶つ決断をした──それは生き残るための選択だ」
「エルジナよ──あたしから貴様に言えることは──それが貴様が力を求める理由になりえるのか──」
「女を捨てなければ──強くなどなれない──命を切り捨てる選択ができなくては──生き残れない」
「エルジナ──あたしに言わせれば、それらは貴様が貴様自身にこれまでの行動を
納得させるだけの言葉に過ぎない──だから、強くなりたいのなら、ただ一つ──気合と努力と根性だっ」
「黙れよ──俺の選択が材料だ?笑わせるな──俺が得た名声がそんなことで納得できるわけがねぇんだよっ」
急にひんやりとした空気──今までにない緊張──
「リヴィア──お前は選択を間違えた──気が付いた時には手遅れだ」
「なっ──」
遠くからスナイパーに狙撃されたかのように──リヴィアの胸が撃ち抜かれる。
(能力は──遠隔?)
(確かに──あのナイフが能力とは考えにくい)
魔力でのダメージ変換で致命傷は免れるが──
一撃、能力としての攻撃力はかなり高い。
別の仲間が──という訳でもなさそうだ。
「もう立つな──リヴィア、お前はもう一度死んでいる──その銃撃はその“結果”だ、お前が女を捨て力を求めた選択では──この能力では生き残れなかった──」
「くだらん──そう言っているのだエルジナ、あたしは死んでいない──あたしの努力は根性は気合は──どれ一つお前の恐怖に屈してなどおらん──」
「わからないな──おまえが今立ち上がることの意味が──なぜ切り捨てない、お前が命を張ってまで守るべき舞台なのか?」
「女は捨てた──だから可愛いもいらない──力があれば私なのだから」
誰かに合図を送るように右の手のひらを肩の横にあげる。
遠くからスコープからリヴィアの姿を覗いているかのように──
殺意のようなものが漂っている。
「死の選択──そう言ったはずだ、その判断がお前を殺したのだリヴィア」
「やってみよ──その程度の恐怖でこの馬鹿を殺せるなどと思うなっ」
地面を蹴り、リヴィアがエルジナを目指し駆け出す。
「──ならば、死ね──リヴィア」
駆け出していたリヴィアの体が遠くからの銃弾に射抜かれたように──
途中で立ち止まり、後ろに体を反り返らせる。
「──俺は決断を誤らない、お前なら俺に成りえる分かり合えると思ったが──お前には命への決断というのはできそうにない」
「狂人化──」
反り返っていた体をもとの位置へと戻し、少し前のめりに、エルジナを睨む。
「ここは通させてもらう──エルジナよ」
「命があったのに、まだ──選択を誤るというのかリヴィア」
「女は捨てた──だから可愛いもいらない──それでもだ──」
その言葉の続きを黙って、エルジナが待つ。
「トウカは──そんなあたしを──それが可愛い、女だと言ってくれた──だから、そこを通せ、エルジナーーーッ!!」
「俺が──俺は──常に最善──自分の家族を守るため──多くの家族の命を奪った、多くの戦友を守るため──負傷した父親を置き去りにした──常にそんな恐怖の中で選択を強いられた──それが──」
リヴィアの腕にナイフが突き刺さる。
それでも、リヴィアの右腕が──エルジナの体をとらえる。
そして──再び狙撃の銃弾が──
「迷いは人の決断を──誤らせる──俺は──迷っていたというのか──俺は女を捨て強くなったと──そう納得していただけなのか」
「お前は十分に強かった──エルジナ」
遠くからの狙撃、銃弾はエルジナの体を貫き──
エルジナはリヴィアの体にもたれかかるように倒れた。




