【守るための罪】
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天重カイナ──今の名は結代カイナ──
結代トウカ──の母親。
18年前に──私が二十歳になるかそれくらいの頃に──
私はひとりの大罪人という男を追っていた。
詳しい話は明かされていない──
ただ、この世界──そのものの存在を脅かすほどの事件を引き起こした──
とか。
私よりも1つ年下くらいの男で──
私は今も──“その男”の名前を知らずにいる──
* * *
「わからない──って記憶喪失?」
「そうなのかな──」
大罪人──そう呼ばれているその男をどうして家にあげてしまったのか──
今でもその理由を説明することはできない。
ただ──その境遇の中で──何一つ怯えない男の顔は余りにも臆する理由の無い優しい顔で──
「わかっているのか──あんたは私の行動一つでいつでも独房送りにできるんだ──」
「わぁー、それは大変だぁ」
落ち着いた口調でリアクションだけを身体で大袈裟に表現する。
「馬鹿にしているのか?」
「違うよ──でも、僕には“守らない”といけないものがあるんだ──」
「守る──?」
「うん──この世界は──人の希望や絶望、幸福や欲望──それらの感情から作りだされていると言ったら信じるかい?」
「信じない──」
「あらら──凄い直球だよね君の言葉」
「どちらにしても──僕は世界を均衡を“守らない”とならないんだ──捕まるわけにはいかないのさ」
「自分は宇宙人とか神の使いとでも、名乗るつもりか?」
「──で、そろそろ私はお前を署に突き出していいのか?」
「わわわっ──どうして、今の会話からそんな決断になるんだい?」
「いや──何一つ、私を説得させる言葉はなかったが──」
「こうなったら仕方ない──」
「なにをするつもり──悪いけど、あんたごときに負ける気もないが──」
「いやいや──乱暴はしない──そうだな、こういう場合は君に“恋”でもしてもらおうかな──」
「はぁ?ぶん殴るぞ?」
「わわわ──待って、待ってっ!!」
世界を守る──そう言った男。
結局──そんな男を数日匿うようになって──
私にトウカを託して──
あの日、あの時──
“世界”を守る使命を捨てて──
“家族”を守ることを選んだ──
国が──世界がその内容を伏せる、大罪人──
『ばいばい──カイナ──僕もずっと戦っている──』
『どうして──どうして──』
『守りたいものがある者は負けないんだ──カイナ、僕は君を守りたい──』
世界ではなく──君を──
─────
そこでようやく、豪邸の近くに止めていた車の中で少し眠っていたことに気が付く。
もちろん、本業の仕事を疎かにするわけにはいかない。
仕事が終わってから──許される時間、それを──妹捜索の時間。
そして──あの人の真相を探している。
「───」
車にエンジンをかける。
職業がらか──そんなちょっとした空気の異変に──
その場を去ろうとしたが──
「煩理リエン──」
豪邸前の通路──
前方も後方も完全に──集められた人員で封鎖されている。
バタンッとドアを開き、車の外に出る。
「これは、これは──結代カイナさん」
リエンは凛とした態度でその場に立ち塞がる。
「──ずっと前から、私が張っていた事に気づいていた……とでも言いたそうだな」
「さて──どうだろうか、そのどちらをぼくが“演じて”も、この舞台には何の意味もない──」
「だったら──見逃してもらえないか?」
「少し中で話をしないか──毎日熱心に家の前で張っていたんだ、僕に少しは興味があるのだろ?」
「あんた個人には興味などない──」
「つれないね──少年、結代トウカくん──だったかな、実に面白い子だった、不快なほどにね」
「安い挑発だな──トウカの名前を出せば私をどうにかできるとでも──」
「説教されてしまったよ──親は子を守るのは当然だとね──守るのは勝つことではなく、負けないことだとね──だから言ったのさ──」
黙って、目の前の女を睨みつける。
「──ぼくがそんな理想を否定する“悪役”になるってね」
「それで──」
「ここを取り調べするのは──命令違反そうだろ、カイナさん」
「生憎、勤務時間外だ──」
「ぼくには、今、ここであなたをどうにかする悪人を演じる、理由も権力も──富もある」
「簡単に──できると思うか──私にはまだ“負けない”理由がある」
「ぼくにはそれを“否定”する“使命”がある──」
リエンの後ろ──私の後ろに居る黒服の人間たちが一斉に、銃口をこちらに向ける。
「持たされている、警官だって、その発砲をすれば罪を問われる場所だっていうのに──簡単にその罪を背負えると思うな」
「がっ──」
「なっ──」
黒服の男たちが次々と何かに耐えられないように銃をその手から落とす。
リエンがその落とした拳銃の一つを拾い上げる。
「銃撃──その罪の“重さ”か──面白い“能力”だな」
リエンが銃を眺めていた瞳をこちらへ向ける。
そして──もう一人──フードを被った女性っぽい体格。
こちらに拳銃を向けている。
その罪の“重さ”を理解できないように──
その罪を理解できない──それに対抗するように──
私も飾りのように持たされている拳銃を手に取る。
互いに突きつけ合う。
「いいのかい──」
「覚悟はあるさ──」
「本当に──」
そんな私のこころを見透かすようなリエンの言葉。
私に対する追い風が吹き──
その女性のフードが捲りあがる。
「──キズナ?」
その重さを支えきれず私の右手から拳銃が落ちた。
─────
「おーい、トウカ、ミリスちゃん──コロッケ半額セールやってるよ」
帰る途中に立ち寄ったスーパー。
今日も多分、帰りの遅い母、晩飯を買うのが目的。
家が割と近所と言うことも有り、ナギサがついてきた。
「ということは──トウカ、今日は僕はいつもの倍、コロッケが食べられる訳だね」
「──普通は予算がいつもの半額で済むだろ──どうしてせっかく半額なのにいつも通りの出費をしようとするんだ、ミリスは」
「なんだい──トウカ、それじゃ僕が間違った事を言っているようじゃないかっ」
「そう言ってんだよ──」
「けちんぼっ、トウカ──僕はずっと君にこう言ってやりたかったのさ」
「そーだ、そーだぁ」
ナギサがミリスの背中から適当に支援している。
「ねぇ──トウカ?」
店内のフードコーナーの席に座り──晩飯とは別にコロッケを三人で食べている。
──俺のおごり。
「ん?どうした、ナギサ──」
「トウカは考えてるの──将来」
「なんだよ、急に──」
「いや──どうすんのかなーって」
「──小さい頃は旅してまわりたいって思ってたんだけどさ」
「たび──?」
ミリスは無言でコロッケを頬張りながら、そんなナギサと一緒に瞳を俺の方へと向ける。
「──いや、よくファンタジー世界とかだとあるじゃん──世界を旅しているだけで金になるみたいなの──まぁ現実は手に職つけないと無理なのわかってるんだけどさ──」
「こんな風に──世界を旅して──世界の美味しいものをミリスとかと食べ歩くみたいなの──楽しいかなってさ」
「素晴らしいよ、トウカ──僕とトウカは、旅をして一緒に美味しいものを食べられるのだね」
ミリスの瞳が輝き出す。
「だから──ばか、俺の小さい頃の妄想──」
「トウカ──私もつれてけ」
「だから──」
「べろべろ──ばーーーッ」
「うわっ──ノア?」
背後から俺の顔を覗くノア。
「もーーー、やっと見つけたーーー」
確かによくこんな場所にいるのを見つけられたと思う。
「どうかしたのか──?」
「ちょっとさ──できればナギサも、手を貸してほしい」
ノアのちょっと真剣な顔。
「なんか──今住んでる家の前が騒がしくてさ──」
「煩理リエン──私の今の保護者、覚えてる?」
「ん──あぁ」
さすがに──今さっきの出来事。
「──なんだよ、さっさと言え」
「──トウカのお母さん、たぶん──捕まった」
「は──?」
唐突な話で理解ができなかったが──
その場に居たミリスも少しだけ真剣な顔をする。




