【0円の価値】
「恐怖の──価値、聞いてみようか」
目の下のくまのある瞳をユイへと向けるノウム。
「人はほとんどの人が──もう死にたい、そう思うような瞬間が少なからずともあると思います」
「あるね──むしろ毎日さ──」
「では──なぜ人は死なないのか──」
「それは、命を絶つことへの恐怖と言いたいのだろ?」
「そうですね──その恐怖というものが人から無くなったら──どれだけの人間がこの世界から消える事でしょうか」
「そうだね──命を守るという意味では恐怖という言葉に意味が生じる──だけどその恐怖が守る命にその“価値”はあるのか──そうぼくの場合は“無価値”になる」
「はぁ──」
ユイが諦めたようにため息をつく。
「──50円、あげようか」
手にした拳銃に値札をつける。
「げっ──」
ナギサの顔が少しひきつる。
値札を張った拳銃の引き金を引く。
バンッ──その衝撃がノウムの頭を大きく左側に傾かせる。
「さぁ──売却しようか」
少しだけ──身体をふらつかせながら拳銃をユイに向ける。
「できるだけ──価値を下げる努力をお勧めするよ」
売却──その本人の思う価値でそれを返却する──
「ふざけんなよっ、それ──あんたが勝手に持ち出したもんだろ」
ユイに突きつけられた拳銃を見ながらナギサがいう。
「だけど──このおもちゃの価値──はきちんと彼女の脳に記憶されている情報に戻しておかないとさ──」
「くっ──」
バンッ──再び拳銃の音が鳴り響く。
「ぐっ──がぁっ──」
グラシカが悲痛の声をあげる。
「おやおや、ごめんごめん──手が滑った」
ちょっとした失敗を謝罪するように──
「素人が扱えるものじゃない──本当にぼくはなにをやってもダメな人間だ」
「12時間かけて作った資料を“紙屑”って言われたことはあるかい──?」
拳銃、銃口を俺の方へと向ける。
「ないですね──」
正直に答える。
「だったら──その12時間かけて作った“紙屑”には意味があったのかい?」
再び俺に向けていた銃口を自分のこめかみにあてる。
俺の言葉が──自分に届くのかを試す様に。
「少なくとも──あなたが考え、つくりあげたものだ──あなたにとっては経験にも思い入れもあるものじゃないですか?」
「──無いよ。ある訳無いだろ?ぼくは作れと言われたから作っただけだ──その相手にこれは“紙屑”ですと言われれば、ぼくは紙くずを資料と言って渡していたという無価値しか残らない──30円、実につまらない」
値札を張り──
バンッ──引き金を躊躇なく引く。
一瞬──拳銃の衝撃でバランスを崩しながらも──
拳銃を俺に向ける。
「売却しよう──」
バンッ──
バリンッ──
「ぐっ──」
「トウカくんっ」
ユイの心配そうな声。
透明な板、結界を銃を突き破ってくる。
発動はするが──俺の結界は無価値になっている──
わざとだろうか──銃弾は左肩を掠めるように通過していく。
「ぼくなんて生き物は──戦国時代にでも産まれて居れば真っ先に死んでいるさ──この世界はそんなぼくには、余りにも優しすぎる、残酷なほどにね──」
「それじゃ──トウカくん、なぜ君は──戦う?その価値とはなんだ?」
「戦いたい訳じゃない──守りたいだけだ」
拳銃をずっと黙っていたミリスへと向ける。
「───」
ミリスは拳銃というものをそもそも理解していないような表情で──ただ黙ってその行為を見ている。
俺は黙ってミリスの前に透明な板を張る。
「その能力に──ぼくから価値が見いだせるとでも?」
「せめて──自分の能力くらい、自分で価値をきめさせてください」
「参考くらいにさせてもらうさ──」
ノウムが少しずつ引き金に力を籠める。
「──0円」
周囲が動揺した目を俺に向ける。
ノウム自身も少しだけ意外そうに引き金を引く。
もちろん、でたらめに料金を引き上げた所で──
あの男には届かないだろう。
それでも──チャンスを無駄にするような。
バンッ──銃弾がミリスに向かう。
「大丈夫だよ皆──僕はトウカを信じているのさ」
ミリスは表情一つ曇らせない。
「──悪いけど、俺の感情は無価値だ──」
俺はそう最後に付け足す。
ギンッ──
銃弾が──透明な板に食い止められる。
「なるほど──面白いほどつまらない奴だな君は──」
ゆっくりと拳銃を持った右腕を下げる──。
真っ白い部屋が元の俺の家の廊下の形に戻る。
「興ざめだ──ぼくには今の君を説得するのは無理だ──トウカくん」
「ほら──帰るとしようか──」
グラシカにノウムが言い背を向ける。
「くそ──てめぇが俺の左足を──」
ユイの代わりにその足を撃ち抜かれたグラシカ。
取りあえず──二人の姿はその場から無くなる。
少しだけ安堵する中で──
「どうすればいいんだよ──これ」
めちゃくちゃになった玄関の様を眺める──
* * *
取りあえず──母親が帰ってきたら面倒だ。
シュウ、ナギサ、ユイ、カリン、リヴィには今日の所は帰宅してもらう。
「ただいま──ミリスちゃん、離れにあるスーパーのコロッケ買ってきたよ」
「なんだい、母君様──神じゃないかっ」
「──こら、トウカ、ちゃんと戸締りって──どうなってんのよ、扉無いじゃない」
そこで初めて現実を受け止めるように口にする母。
「トウカ──そこに正座して説明しなさい」
「──はい、お母様」
──どうしたものか。
──ダメもとで助けの目を送ったミリスは、母の買ってきたコロッケに夢中だった。




