【敗北を恐れた男】
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無敗──鋼の身体。
そう──勝ち続けて得られた栄光──“名声”は──心地の良いものだった。
同時に──周りから寄せられる期待の声は──いつしかプレッシャーになった。
勝て──ただ勝て──そうすればそれは保たれる。
その名声は守り続けられる。
だが──鋼の身体。
もちろん、そんな訳が無い。
実際は──人よりも少し頑丈なだけ。
鍛えて鍛えて──いくら鍛えたって本当に鉄の身体になりはしない。
なんて──名前の選手だったか──当時のアメリカを代表した選手。
ゴッドナックルなんて異名をつけられた。
それが初めての敗退だった──
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「勝たないと──守れない──惨敗王のお前の親父とはわけが違ったんだよ」
「俺の親父は鋼の身体も──神の拳なんてものももっちゃいなかった──」
文字通りの鋼の身体──その身体に手甲の拳を打ち込む。
「──恐怖なんて言葉を知らなかった、勝ち続けている間は──その名声だけが俺を突き動かした──」
「得られたのなら──それを守り続ければよかっただろ」
「簡単に言うな──上には上は居る──努力でいくら鍛えたところで──人間の身体の造りには限界がある──そしてそれには産まれ持った個性もある──」
「──それを理由にした時点であんたは負けを認めてるんだ」
「知った口を──ッ」
ガンッ──
鉄の身体──そのシュウの拳を受け止めたグラシカ。
グラシカはシュウの拳を叩き込む。
「──思い出せ」
ただ、シュウは起き上がりその言葉を言う。
─────
再戦──ゴッドナックルの男。
再び与えられたチャンス。
だが──すでに植え付けられている。
努力では──人間の身体の限界は超えられない。
あの一撃を耐える身体を作ることはできない。
恐怖──そう──
あの拳に──
敗北と言う言葉に──
俺はすでに恐怖させられていた。
──反則王──
引退した俺は──今もその異名を背負っている。
もともと──武道着を着て戦うスタイルだった俺。
その道着の下に──鎖帷子を仕込んだ。
──だが、そんなものはすぐにバレ。
俺は全てを失った。
そう──そのたった一度の敗退が──
俺に恐怖を植え付け──
そこまで落ちぶれた。
─────
「勝てと──そう求められた──だからっ」
「親父は──負けを望まれても負けなかった──」
「ふざけるな──惨敗王──その異名を忘れたか」
ガンッ──シュウが殴り飛ばされる。
起き上がる──
「親父はてめぇの拳で負けてねぇよ──その試合のルールでそう判断させられただけだ」
「それは、単なる負け惜しみだ──チビがッ」
ガンッ──振り下ろされる鉄の拳。
その拳に押し込まれるように──シュウの身体が後退するが──
初めてその一撃を地面から両足を離さずに耐えきる。
ガンッ──
そのまま、シュウの拳がその鉄の身体を叩く。
「思い出せよ──お前は惨敗王と呼ばれた親父に恐怖したんだろ?」
「なにを──恐怖したのはお前の惨敗王の親父だろ」
「倒れない──親父に──思い出せよ」
「だから──それがどうしたっ」
ガンッ──
再び振り下ろされるグラシカの拳。
さすがに耐えきれずに──
シュウの身体が吹っ飛ばされる。
「大丈夫か──シュウ」
無表情で──リヴィが交代を申し出るが──
「リヴィア──黙ってろ──」
「よかろう──」
「いいのですか──」
ユイもシュウを心配するように──俺に尋ねる。
「あぁ──シュウはまだ負けてないだろ──」
立ち上がるシュウを──ただ、皆で見守る。
「あぁ──」
俺がユイに返した言葉にシュウが反応する。
「トウカ──俺は今日までお前のその言葉に励まされていた──」
「ん──?」
俺のそんな表情にちょっとだけ寂しそうな顔をシュウはしながらも──
「お前らしい──そんな自然に出た言葉だとわかったから嬉しかったんだろうな──」
ゆっくりとシュウが──グラシカの元へと戻る。
「あぁ──思い出したよ、てめぇの親父が何度も何度も今のてめぇみたいに──起き上がってきたのを──そのたびに何度も情けなく俺にぶっ飛ばされたけどなっ」
「で──恐怖したんだろ?こいつは──俺の拳では倒せないって──」
「拳が効かない鉄にはどうすればいい?」
「拳で倒れない根性にはどうすればいい?」
「倒れない相手など──倒れるまで殴ればいい──」
「同感だ──だったら、拳が届かない相手には──届くまで殴ればいい──だよな?」
再び同時に──拳が互いの身体に叩き込まれる。
「どうした──腰が引いてるぜ?その一撃では俺が倒れない──って思ったのか?」
再び──シュウの拳がその身体を叩く。
何度目か──
「届けっーーーーーッ!!」
ただ──何度も起き上がり──
同じ場所を殴り続けた。
「ぐぅっ──」
ペキッペキッと鉄の鱗にひび割れができていくと──
パリーンッとそのシュウの拳が奥深くまでめり込んでいく。
「思い出せたか──これが、あんたの最初に親父が与えた恐怖だっ」
「──うむ、いい根性だった──」
まるで、師匠のような目線でリヴィが頷く。
その大きな体が天を仰ぎ──後ろに倒れる。
「あぁ──敗北だ──だが、チビ──お前の親父にではない──」
「俺は──お前に負けたんだ──」
「おやおや──負けてしまったか」
サラリーマンのような男はそうため息をつく。
「しかし──まぁ、羨ましいものだね──トウカくんだったかな」
「──あんたは」
「そうだね──ノウムとだけ名乗っておこうかな」
「ぼくも君みたいに──そんな風に女性に囲まれた青春を送って見たかったものだよ」
「そんなんではないですけど──」
「なんて言っても──ぼくはニートのケツを蹴っ飛ばして、無理やり社会人やらせてる程度の人間だからね──とってつけたようなコミュニケーション能力しかないからね──ぼくは──」
ただ、疲れたような目で──俺を見るノウムと名乗った男。




