【鋼の敗者】
サラリーマンのような男が──シスター同様にカプセルのようなものを床に放り投げると──空間が歪み──恐らく、能力者以外の人間に今─俺の家で起きている出来事が認識できなくなっている──のだろう。
「アホが──子供だろうが容赦する必要はねーよ──殺す」
レスラーほどの体格の男──
シュウの倍──リヴィさえ、ただの女の子に見えるほど。
「よかろう──やってみろッ──女、子供、馬鹿にするなよ──狂羅リヴィア──参るッ!!」
「──虎鉄ジョウ──参る」
大男が臆することなく前に出るリヴィへと構える。
「努力──根性──ど根性ッ!」
「ほぉ──小娘が──なんて馬鹿力してやがる──」
ジョウと名乗った大男の腰に両手をまわし、その身体を持ち上げるリヴィ。
ブンッ──そのまま、後ろにその巨大な身体を投げ飛ばす様に床に叩きつける──
「馬鹿者──トウカの人様の家のモノを破壊するなッ!!」
「なっ──貴様が──」
大男がリヴィに投げ飛ばされ──玄関の辺りにあったモノを破壊するように──倒れ込み、リヴィがそれらの責任を大男へと擦り付ける。
「女のクソガキが──」
女──子供──そんな肩書を関係なしに男は拳を振り下ろす。
「ド根性ーーーっ」
リヴィの拳も同時に大男に届く。
体格、リーチの長さに──大きく差がある。
振り下ろされる大男の拳はリヴィの頬──
リヴィの拳は男の腹を──
互いの拳を叩きこんでいる。
「効かぬ──全く効かぬぞ──オケツッ!!」
「虎鉄だッ!!」
ぐらりと──明らかに膝に来ているリヴィに大男が叫ぶ。
「なるほど──その程度か、いいぜ──打ってこいよ、狂暴女ッ」
大男がそう挑発する。
「覚悟──そして覚悟しろっ──」
再び──男に拳をその腹に叩き込むリヴィ。
それを黙って受ける大男。
ガッ──もろにその拳が腹に叩き込まれる。
無表情──なのは大男。
顔を歪ませたのは──リヴィ。
「鉛でも殴ったかのようだろ?」
大男の勝ち誇った顔──
「──能力か──身体を鉄にでもするのか?」
「ご名答、察しがいいね──トウカくんだったかい?」
サラリーマン風の男が軽く手を叩きながら──俺を見る。
「おい──ノウム、人の能力をべらべらばらしてんじゃねーぞ」
「下がってろ──」
シュウが──リヴィと大男の間に割って入る。
「馬鹿者──それは、あたしの台詞だ──シュウ」
「リヴィア──譲れ──頼む」
「訳ありか?」
その少し真剣そうなシュウの表情に──
「あぁ?俺はそんな──チビ知らないぞ」
「──あんた、元格闘家だろ?」
「………」
「───グラシカ、それが選手としてのあんたの名前だろ──俺の親父はあんたと同じ格闘家だ」
「──あぁ?」
「──思い出せ──壊島シュウ、参るッ」
「壊島──はぁ?あの──惨敗王のガキか?」
「──思い出させてやる」
赤黒い瘴気がシュウの右手に宿り──
黒い手甲が作りだされる。
その小さな身体で元格闘家──グラシカを見上げる。
その手甲の拳を叩き込む──
だが──やはり大男は無表情で──
ガンッ──ッ
首から下の全身が黒い鱗に覆われたような身体の拳がシュウに振り下ろされる。
廊下を数メートル──シュウの身体が滑るように吹っ飛ばされる。
「あぁ──思い出したぜ、確かに──こんな風に小さくて軽く弱い男だったな」
「──思い出させてやる」
シュウはただ──起き上がる。
────
「おい、クラッシングキングジュニア──昨日もお前の父ちゃん、ぼろ負けだったな」
小さい頃の記憶。
小学生──高学年。
からかう様に──俺の髪の毛を意味もなくくしゃくしゃといじっていく──
惨敗王──連戦、全敗。
俺の親父に付いた──そんな不名誉な異名。
悔しかった?──それはもちろん──だけど、それは──誰に対してだ。
そんな情けない父に──?
それを否定できない自分に──?
そんな──非常な世間に──?
そこに答えを見つけても意味が無い──
だから──俺はそれに負けない力が欲しいだけだ。
そんな報われなかった誰かの──俺の努力にただそれだけの意味を求めた。
────
「──思い出させてやるッ!!」
その拳を叩き込む。
「そんなに──てめぇの親父の情けない姿を思い出させてぇのかっ」
そのシュウの一撃を身体で受け止め──
その自分より小さな身体に拳を振り下ろす──
ガンッ──
シュウの身体が吹き飛ばされる。
すぐに──起き上がる。
「良い根性だシュウ──だが、その根性が折れた時、すぐに後退させる」
その姿をリヴィが見守っている。
「──不名誉、その名を刻まれた父親が憎いかチビ?」
「──そんな惨敗王と異名を持つ父親を容赦なく打ちのめした俺が憎いかチビ?」
「うるせーよ──俺はただ、“思い出せ”──そう言っているだけだ」
「はぁん──羨ましかったぜ──お前の親父はただ、ぶちのめされていれば、その惨敗王を名乗れるんだ──」
「───」
「──勝ち続ける……いつしかそれが当たり前になる……特に外人なんてよ──あいつらは産まれ持った才能だけで、俺らの努力を平気で上書きしてきやがる──勝者は常にその上を求められる」
「それが──どんなプレッシャーかわかるか?崩れればすべてが終わる──たった一度の負けで全てが終わる可能性すらある──負けてるだけで仕事になるてめぇの親父と違ってな──」
「──うるせーよ、底辺に居るからって、守るものが違うなんてきめつけてんじゃねーよ」
「はぁ──ちげーんだよっ、てめぇの親父には得てもいねーもん、守れるわけがねーだろっ」
「──思い出させてやる、そう言ってる──俺の親父は一度も、てめぇの拳に負けちゃいねーよ」
互いの拳が互いの身体に叩き込まれる。
吹き飛ばされるのはシュウの身体だけ──
完全に膝にきている身体を──ただ起き上がらせ──
「──思い出させてやる」
ただ──その言葉を繰り返す。




