【負けないという答え】
「誰かに守られたい──そんな、安い言葉に惑わされた私の結末──」
びゅんっと投げられるクナイ。
「だから──守りたいなど、軽々しく言葉にするあなたは──許されないのです」
クナイを弾く。
少しだけ慣れてきた動作。
“見えている”──対応ができている。
そんな、少しだけ安堵している横で──
ミリスは──無表情にただ、その視線を鬱陶しいように周りの目線に目を配っている。
「トウカ──“見えている”ことで軽視しちゃいけないよ──」
ミリスがそう何かを警告する。
が、多分──ミリス本人もその確証的なことはわかっていないのだろう。
「そう──“見えている”ことは全てではないのです──“見えなくなってから”見える──見たくないもの──」
ビュンッ──クナイが投げられる。
見えて──
「っ!?」
「何をしているんだい──トウカッ!右腕を上にかかげるんだよっ」
言われて咄嗟に右手を上に構える。
防御結界をまとった右腕にクナイがぶつかり、地面に落ちる。
「───いつも通りだ」
一瞬、自分の視界が自分のものではないかのような──
客観的に自分が見えた気がした──
「ある日──あの人は、大きな“富”──私のためにと費やした研究と共に買われたあの人は──特別な施設で──そこで研究を続けると──私と暮らしていた小さなアパートを出て行った──」
「───」
俺はただ──黙って耳を傾ける。
「見えなくても──そこにあった、見えなくても──見えていた──見えるとそう“信じていたッ”──だから“裏切られる”──守られていたと──そう信じていたから──」
「直接──聞いたんですか?」
「直接?」
「今の──少ない会話、断片だけで──あなたの過去を知ったわけじゃありません──でも、その富で買われたその人は──あなたを裏切ったとそう──直接聞いたのかと聞いたのです」
「──トウカくん、私は何年──彼を信じて待ったか──わかりますか?」
「──でも、聞いてない、見てはいないんですよね」
「あなたの前に──行けない理由があるのかもしれない──」
「──同じことです──私の前に現れない──その事実だけで、彼は私を守るという約束は裏切られたのです」
「小さいころ──、一度だけ母さんに本気でぶん殴られたことあったんだ──」
─────
ある日──母が仕事中に大きなけがをした。
「なぁ──母さん、父さんはどこいっちまったんだよっ──死んだんじゃないんだろ?」
母はいつだって──父親の事を語ろうとしない。
それはなぜなのか知らない。
だけど──生きているのなら、なぜこんな母を──心配してこないのか。
「いつも──言ってるだろ、トウカ──あの人は今も私たちを守ってくれている──」
「守るって──何からだよ、お母さんばっかりにこんな大変な目にあって──」
仕事上──常に命の危険は付きまとう。
それでも──母はいつも泣き言を言わずに──
「トウカ──結果を求めることが駄目なわけじゃない──それでもそう決めたのなら──最後まで信じてその信念を突き通す──」
「結果が伴わなくても──それが勝ちじゃなくても──負けなければ──信じ続けられる」
「何言ってるんだよ──どう見ても守られてないだろッ──こんな目にあってんのにさっ──そんなやつ、“罪人”だっ──捨てられたんだろ、俺も──母さんもッ!」
パンッ──
一瞬──気が付かなかった。
けがをしている母──その右腕をかまうことなくふりあげ、頬を叩かれた。
母の顔が余りにも悲しそうな目をしていたから。
「あの人は──今も“負けず”に戦っている──あの人を“大罪人”なんて呼ばせない──勝たなくったっていい──負けなければ──」
─────
「母親はずっと──信じて待ち続けている──どこで何と戦ってるか俺も知らないんですけどね──」
「トウカ──君の母君様は僕から見ても偉大だよ──そうだね、未来の未来道具を持ったあの青いロボットの次くらいに尊敬しているよ──そんな人が信じているというのだろう、さぞ凄い人なのだね、トウカの父君様は」
正直──本当はどこかで──今も少し恨んでいる。
でも──母の──あの母が今も強く生きている理由を──
「──俺が壊す訳にはいかないんだッ」
シスター、彼女の能力──
その自分の周囲の視線を自分のモノにする。
そして──それは“自分”だけじゃなく──
“他人”に共有させる──
だから──さっき──
俺は急に多くの視界の情報を送られ──
逆に──自分の目で見えていた情報を処理できなくなった。
そんな情報を処理できるのは──
瞳を失い──その能力でしか世界を見られなくなった彼女だけ。
俺は両手──てのひらでてっぽうの形を作ると──横向きに倒す。
「結界弾ッ!!」
腕に巻いてあった魔力を全部使い──数十発の結界弾を放つ。
「何処を狙って──また反射させるつもりですか」
シスターという的を外れ、彼女の後方へとそのなん十発の結界弾を飛ばす。
透明な板がそれを反射させる。
カァーッカァーッ
バサバサと電線に止まっていたカラスが──
結界弾に驚くように一斉に飛び立つ。
「なぁ──私の視界を──」
すぐに彼女は次の能力の先を探す。
「──勝ちたいんじゃない──助けたいんだ──厚かましいかもしれませんが、あなたのことも、あなたの信じたものも──」
俺は右腕に結界魔力を集めると──
視界を取り戻す前の彼女の頬に拳をぶつける──




