【見えない瞳】
魔力で切り抜かれた空間──
「まったく──トウカ、君にも僕様がどれだけすごいかってのを、その目に教えておかねばと思っていたのさ──」
「それは、ぜひにだが──ミリス、おまえ、能力失ってんじゃないのか?」
「うん──そうなんだよ、困ったもんだよね──という訳で頼んだよトウカ?」
「頼んだよ──じゃねーよ、俺も戦闘向きじゃないことは知ってるだろ──」
「知っているさ──トウカ、君の“感情は確かに防御に特化”しているのが──僕は君をパトーナーに選んだのだよ?そろそろ、その実力ってものを見せてくれてもいいのではないかな?」
偉そうにふふーんと、俺以上に俺を知ったように──
「僕を“守ってくれるのだろ”──トウカ」
「守る──それは軽々しく発言する言葉ではありませんよ──トウカくん」
同時にキラリッとシスターの袖の中で何かが光る。
その糸目──瞳の見えない視線の先。
ミリスは平然と立っている。
ギンッ
黒い刃のクナイ──俺の結界。
透明な板に防がれ床に落ちる。
人目は無い。
能力者以外にはこの空間が認識できていない。
電線に止まるカラスやその辺を歩く野良犬──まるでこちらの異常を感知するように──視線を送っているように見える。
両手に結界──エメラルド色の魔力を巻き付ける。
俺が地面を蹴り上げると同時に──
シスターも後ろに飛び下がり──同時に腕の袖の中がキラリとひかり、両手にクナイを握っている。
俺の近接攻撃を回避しながら、その手の中のクナイを投げる。
「ちぃっ」
拳でそのクナイを弾く。
「おや──私のこのクナイ捌き、決して素人の手前ではありませんのに──中々いい動きをしますね──」
「護身だけは、それなりに真剣に学んだんですよ──」
「しかし──“目に見える”ものだけを“信じる”と痛い目を見ます──現実は目に見えない場所でこそ悲劇は起こっているのです──」
「何言って──」
「トウカ──どっちでもいい、頭を左右に振るんだよ──」
俺はそう言われ──頭を右に大きく傾ける。
頬をかするようにクナイが後方に飛んでいく。
頬から血の代わりにエメラルド色の魔力が零れるように──
魔力が消耗する。
「なんだ──ノアのような錯覚?違う──」
カァ──カァ──
カラスが鳴いている。
「トウカくん──あなたは神を信じますか?」
──何度目かのその質問。
「興味が無い訳でも信仰が無い訳でもないけど──その手の仮説には思考を割かないようにしてるんですよ」
「私の両親は誰よりもそれらを信仰する──聖職者“でした”」
─────
私が幼いころ──外国の教会で務める両親。
そこに一人の男性が逃げ込んできた。
体中──血だらけ。
手には拳銃を持っていて──
何かの仲間内のトラブル──
そして、すでに彼は何人もの仲間を射殺していた。
それでも──その男を両親は匿い──
更生させるチャンスを与えた。
彼は真剣に両親の元で働き──その両親の期待へと応えようとした──
だけど──
「動くなっ」
警察──
そんな男の情報を聞いた警官が教会の中で男を取り囲み──
そして──
男は私を人質にとり──
神は見ている──
両親はいつもそう言っていた──
だから──更生を──両親が与えた神の導きを──踏みにじった彼を──
大震災──大地震がその日、その都市で起こった。
建物の一部が崩壊し──大きな柱が──
当然──神は──その男に──
どうして──どうして──助かったのは──私とその男だったのか。
私はその震災で両目を失った。
─────
「神は──なぜ、強く信仰していた両親を見捨て──私をあの男だけを助けたのか──なぜ、両親を守ってくれなかったのでしょうか」
キラリと腕の袖からクナイが落ちてくる。
それがシスターの両方の手に収まる。
「答えになってるか──わからないですけど──守りたいのなら──勝たなくてもいい──でも──」
俺は──結界、魔力を巻き付けた右手をシスターの方へと突き出す。
グーの手のひらの、親指と人差し指だけを伸ばす。
「──でも──負けちゃダメなんだっ」
結界、障壁の魔力を丸い弾丸のように集めると──人差し指の指す方向へと一直線に飛ばす。
防御魔力──あらゆるものを防ぐだけの硬さはある。
それをそれなりに加速してぶつければ──
シスターの左肩に命中する──
「なるほど──トウカくん、あなたは──守るとは本来の守るべき効力を捨て──相手を攻撃することに転じるということですか?」
「俺も──ただ、誰かの身代わりになって、痛みに耐えてるだけで、誰かを守っているって言えるなら──俺もそっちのが楽なんですけど──うちの両親はそれじゃ、許してはくれないんですよね」
「神を見切ってから──私もそれなりにリエン様のもとで、生きるために必要な戦闘術を学んでいます」
再び、指先から放った障壁を弾丸に変えた魔力。
身体を翻しそれを回避される。
「へぇ、やるじゃないか──トウカ」
それを見たミリスが上からの物言いで──
背後に張った透明な板が──弾丸を反射する。
カァ──カァ──
カラスが鳴いている。
反射した──弾丸が彼女の視界の背後から迫る。
「目に見えるものだけを──私は信じません」
まるで──予測していたようにシスターはそれを回避する。
糸目──ではなく、そもそも彼女には視力が無いとしたのなら──
なぜ──正面からの攻撃を回避したのか。
そして──目には見えない──背後からの攻撃をどう回避したのか。
まるで、俺たちと同じ世界を“見ることのできない”彼女は──
俺たち以上に周りが見えているようだった。




