【不運は誰のもの】
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錯覚は現実には勝てない──
わかってはいるつもりだったんだ──
でも──羨ましかった。
わたしも──それを“不幸”だって言ってみたかった。
愛されているのに愛されてるくせに──不運だと。
だから──私はそんなナギサのお母さんに──
「いいなぁ──私も欲しいなぁ───」
不服そうなそんな彼女ではなく──
私が私がもらってあげるのに──
彼女は結局──いつだって独り占め。
知っている──知っていた。
初めから──
初めからナギサのお母さんは──私を見ていない。
私が勝手に──そう錯覚していただけ。
いつだって──不貞腐れる彼女を優しく抱きかかえる母親を。
まるで、自分が抱かれていたかのように──私は楽しそうに笑ってみていた。
その不運を──共有していると──錯覚していた。
暖かい食事を食べるナギサを。
優しく声をかけてもらっているナギサを。
それを──迷惑そうにするナギサを優しく抱いてあげる母親を──
私はいつも見ていただけ──
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「夢から覚めれば──いつだって──暗いもの置きの中──それは、不幸?不運?それとも──それが普通なの?」
「言っただろ──私の不運は私のもんだって──どんなにあんたが羨ましがったところで──その不運は私、今日までの私のアイデンティティだってさ」
「さて──いい加減、終わらせるからさ──」
「えーーー、まさか──私に勝つつもり?」
「とーぜんっ」
「えーーー、それは無理だよーーー」
不気味に自信ありげに──
「“ここまで”──する気は無かったんだけどさぁ──“死”なせちゃったらごめん、ナギサ」
ヤバイ──何を錯覚させる?
その手の動き──手に持つもの。
自然と──俺もナギサも──真解ユズルが愛用するその凶器を──
「バーーーンッ!」
拳銃が形どられ──銃弾が──
ガンッ
透明な板──
悪い──とは思った。
だが──それはさすがに喧嘩と言う領域は超えていた。
「──トウカ」
「ほらね──結局、皆──ナギサを選ぶんだ」
「──いい加減に」
「嫌い──大っ嫌い、皆──死んじゃえっ」
ダンッ──
引き金を引く。
ナギサの前の俺の結界はその銃弾を弾かない。
「トウカーーーーッ!!」
珍しいナギサの叫び声。
俺の身体が崩れ落ちるまで──
その銃弾の先に──気づかなかった。
「“あいつ”が言っていたように人は簡単に壊れるんだね──」
「──ノア、それは駄目だ──その奪い方だけは駄目だ──」
崩れ落ちる身体──
うっすらと見える二人の影──
ナギサの少し長い黒い前髪が──
眼鏡を外した彼女の目元を隠し──
普段見せない感情を──
「“認めてやる”よ──あんたは私の“敵”だ──」
「“見失え”──そして“錯覚”しろ──」
ころん──とノアの左手から石ころが転がる。
思わずナギサはそれを見る。
目を正面へと戻す。
その姿は“消えている”
うっすらと──何とか意識を保つ。
やはり──一度覚えた錯覚には逆らえない。
だけど──ナギサは何の迷いもなく──
その目標──見えない敵に──
高く飛び上り──前足を繰り出す──
「──なんでっ!?」
ノアの身体に命中するナギサの右足。
「“あんたを見る”と言っただろ──見えないあんたを“錯覚”してやったんだよっ」
「なに──言って?」
「形どれ──水蛇」
水蛇が吹っ飛んだ、ノアの右足に絡みつく。
「いまさら──ごめんなさいじゃ、ゆるさねーかんなっ」
右足にからみついた水蛇をぐるりと振り回し、そのまま遠心力をつけ、木の幹へと叩きつける。
「ぐ──こんなっ──この程度ッ──私にとっては平常だったッ」
「自分で言うのもあれだけどさ、ノア──あんたはとんでもなくめんどくせぃ奴を怒らせたんだよっ──形どれ突き刺さるナイフ」
作りだしたナイフを手に取り──地面に倒れ込んだノアの身体にカエルが飛び跳ねるようなポーズでナギサが乗っかる。
「あははは──どうしたの?刺しなよ──怒ったんでしょ?トウカを傷つけた私に──ねぇ?」
「トウカ──いきてる──?」
ナギサがノアに馬乗りになったまま、少しだけ振り返り尋ねる。
「──なんとかな」
「どうする──?」
「どうするって──なにをだよ」
「あんたが──ノアをどうしたいか?望むなら──このまま細切れにしてやるけど」
「やめとけ──」
「ふぅっ」
ナギサは軽く鼻から息を吐き出し──
ゆっくりと──身体を起こす。
「えーーー、甘っちょろいの、ねぇ、私がこの程度で大人しくなると思うのかな─、ナギサぁ?」
「しらねーってば、てか──なんで、私はまたあんたに殺されかけてるんだよ──まだ、うちのかーちゃん欲しいのか」
「理由なんてなんでもいいんだよー、私が欲しいのはその“不運”──」
「だから、訳わかんねーって」
「理解されないんだー、私ーー」
「だろうな──」
「だから──ナギサも私が欲しいものを錯覚できない──だからナギサはいつまでも“不運”なんだよ──」
「それで──いいって言ってんだろ──それが、私だ」
ノアもまだ余力はありそうだったが──さすがに今はそれ以上なにかをしようとはしなかった──。
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「ねぇ──トウカぁ、あっちこっち痛い」
「無茶しすぎだ──」
「むふー、トウカ、コロッケうまいなっ」
コンビニで買った、カレーコロッケ。
女子高生姿に戻ったミリスが嬉しそうにかぶりついている。
コンビニの前のベンチに座り──嬉しそうにぱたぱたと左右の足を順番に振っている。
「あーーー、いってぇ、あぁ──不運だ、ねぇトウカ──やっぱ理不尽過ぎない?なんで私、ノアにボコボコにされたの?」
「わかんないけど──コロッケやるから、気を治めろよ」
「治まるかッ」
「ナギサちゃん、いらないのか、それは僕が貰うよ、トウカ」
「食べるよッ」
コロッケをナギサに奪い取られる。
「あーーー、僕のコロッケ、食べられたー」
「あ、もう──ほら、ミリスには俺のコロッケやるから──」
「でも──トウカの分なくなる──一緒に食べたら美味しい」
「それじゃ──半分な──」
「──うん」
「なんで──私が悪者になってんのっ?──不運だ」
「あーー、わりに合わない──トウカ、私に可愛いって10回言えっ」
「なんでだよ──」
「このままじゃ、割に合わねぇの──」
「──コロッケ、ウマイ」
ミリスだけが一人、コロッケを幸せそうに頬張る。




