【錯覚する少女】
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本当は知っていた──あんたが嫌う世界が本当なんだって──
本当は知っていた──あんたの“口癖”が世界の表現の仕方だって──
でもさ──悔しいじゃん。
そんな楽しい事や嬉しいことが全部、“錯覚”なんてさ──
だって、それに気がついたらすべてが“不運”になっちゃうじゃん──
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「ナーギサッ──久しぶりぃ」
休み時間──転校生、錯夜ノアが俺たちの席の方へとやってくる。
「あー不運だっ」
「あー不運だっ」
「真似すんなしっ」
挨拶をしたナギサが次に言う言葉を予測していた錯夜。
「何でもないって──トウカ」
「従妹──親父の方の妹、その子供──」
不思議そうな顔をしている俺たちにナギサは説明する。
「へぇ──、ナギサが家族以外の異性と口聞いてるところ初めて見たかもー」
「うっせぇーてば──どっか行け」
「ひっどーーーい、えっと、結代トウカくんだっけ──ノアでーす、私もトウカって呼んでいい?」
「チート禁止、どいつもこいつも──ちゃんと友好値や愛情値を稼いでからなんだよ──名前呼びは」
「えーーー、でも私も結構タイプだよーー、こういう幸薄そうな男子」
「──褒めてないよな、それ──」
「えーーー、ひどいなぁ、結構な誉め言葉だよ、私にとって──ねぇ、ナギサ?」
「知らないってば──」
「馬鹿者ッ──黙って聞いていれば──転校生ごときに、幸薄いなどと──トウカ、貴様には何が足りていないか言ってみろ──」
「はいはい──努力、気合、根性だろ?それとお前も転校生みたいなものな?」
「馬鹿者ーーーッ!!貴様に足りないのは努力、気合、そして──根性だっ!!」
「はいはい──すいませんでした──あってたけどな」
取りあえず非を認めて宥めておく。
「それ──黙らせろよトウカ、私もこいつ黙らせるからさ」
「無理だ──」
ナギサの申し出を放棄する。
「トウカくん──アルティーシアを私に譲るというのなら、その役目、私が変わるが──」
眼鏡をくいっと持ち上げて、興味無さそうにしていたカリンがこちらを見る。
「カリンもそんな冗談を言うんだな──」
その瞳は至って真面目で──いや、こいつ本気だ。
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放課後──
ほとんどの生徒が教室から出て行ったあと──
何時ものように、俺は荷物をまとめて席を立つ。
つまらなそうに、スマホを眺めていたナギサも席を立つ。
「トウカー、いつものとこで、肉まん買って帰ろう──」
「ナギサ、おまえ──この間、もう金無いって嘆いてなかったか?」
「え?──トウカが奢ってくれるじゃん?」
「くれるじゃん?──じゃねーよ」
「えーー、じゃぁ、私にも奢って、トウカー」
「──錯夜さん?」
「ノアでいいってば──」
「チートすんなって言ってんだろ、てかなんでトウカがお前に奢らないとなんねーんだよ、トウカ、お前も断れよ」
「いや──ナギサ、お前もな?」
「──ん?」
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結局、肉まんを4つ買う。
「なんで、4つ?」
帰り道、俺の買った肉まんの一つをノアはかぶりつきながら──
『じゅるりっ』
俺のカバンに収まった肉まん。
カバンの中からよだれが垂れるような音がする。
「あれ、今──このぬいぐるみさん、動いたよ?」
「う──動くわけないだろ」
「えーーー、だって今、じゅるりって──あれー?カバンの肉まん、誰か一口かぶりついた跡があるよ?」
「てかさーー、いい加減にしろよ、ノア」
「えーーー、ひどーい、昔はあんなに仲良しだったのに──」
「家族同士で──いっぱい、いろんなところ、旅行にいったよねーー」
「うるさいってば──」
「まぁ──ナギサはさ、そういう性格だから、いつも一人つまんなそうな顔してたけど──」
「うるせーーーって!」
本気でキレるようにナギサが飛び蹴りをノアに入れようとする。
「トウカ──なんで邪魔すんのさ」
俺の結界──透明な板がそれを阻む。
「何をムキになってんだよ──ナギサ──」
「へぇ──“綺麗な板”──有難う、トウカ──」
思わずそんなノアの言葉をスルーする。
「なんのつもりだよ──ノア」
「なんで、トウカの“能力まで見えてる”んだよ──」
「あははーー、まったく──昔から大事なモノを独り占めするクセ──やめた方がいいよ──ナギサー」
「どういうことだ──能力者?」
「昔から思い込みが激しいんだよ──全部、錯覚、こいつの記憶なんてほとんどそれで塗り固められている──」
「いやだなー、ナギサ──私、言ったよねー?大事なもの独り占めするなって──居ないんだー、私のお母さん──ねぇ?知ってるんでしょ?」
「さがってろ──トウカ、こっからは私の喧嘩だ──」
「おい、ナギサ──」
「トウカ、ごめんねーー、ねぇ……ナギサへのお仕置が終わったらデートしようか」
「ぶっ潰すッ」
「やだなー、そう口が悪いと──“お仕置”されちゃうんだよ──私、知らないよーーー、怖くて、怖くて、おっかないんだよー」
「トウカ──頼むッ」
「お──おいっ」
ナギサが俺に眼鏡とスマホを詰め込んだカバンを投げよこす。
地面を蹴り、さらに右足を突き出す。
「いやだな──ほんと、そういうところ──」
たぶん──ナギサ同様の運動神経のよさ。
右に身体を反らし、蹴りを回避する。
「ねぇ──“床屋で髪を切る”のに必要なモノってなんだと思う──」
「何言って──」
だれに、どっちに質問しているんだ?
二人に?
「ほら、私の横髪の長さ──左右で違うでしょ?」
「お仕置でばっさり──まぁ、ちょっと個性あって可愛いかなと思ってそのまま採用してるんだけど──」
「ほら──ナギサ──錯覚してみて──私は何でお仕置されたのでしょー、ほらっ“錯覚しろッ”」
「──!?」
ナギサの右の横髪──差し向けた右手に──
「はさみ?」
ナギサの頬を掠めるようにハサミの刃が横切る。
「私ね──ずっとナギサになりたかったんだー」
「何を言ってるんだよ──」
「だって──ナギサになればお母さんに愛してもらえるじゃん」
「言うほど──親を愛してないし、故に愛されてないんだよっ」
「はぁ──それを私の前で言うんだね──ナギサッ」
「トウカ──私はこいつに本気で殺された経験があるんだよ」
「──何言って──」
「ひっどいなーー、ナギサが自分の境遇が嫌いだなんて言うから──私がナギサだと錯覚しようとしただけだよ──」
そのノアの瞳にはいつの間にか──淀んだ魔力のような曇りの色が混じっている。




