【消えた助手】
───病院──迷早リクの入院していた病室。
真解ユズルに殴られ──精神が壊れた男が病室の壁に激突する。
「やっぱり──結代トウカみたいに、殴ったくらいでは正気にもどらねーか」
「げひっげひひっ──コワスッ!!」
「──!?」
咄嗟に男が突き出した包帯がぐるぐる巻きになっているギブスのような腕を回避するように頭を左へと傾けるように反らす。
頬に刃物がかすれる様に軽く血が流れる。
「爪──能力か──」
包帯を向き出すように現れる、ナイフのような刃物になった爪を持つ腕。
「ゲヒッゲヒッ──コワス、オマエ──」
男が真解ユズルの正面から逃れ、廊下へと逃げ出す。
少しだけ放心状態の真解はそれを許してしまう。
「その──能力──なんで──顔は……違う──」
「──お前は俺が殺した──俺が殺したはずだっ」
──── 一か月前
「ドラゴン?何を寝ぼけた事言ってる──引乃キズナ」
とある、連続殺人鬼を追っていた。
それはもう警察の仕事だと、キズナに言われていたが──
そして、そんな引乃キズナもその補助にあたっている。
「ほんとですよ──今、空で白いのと黒いのが喧嘩してたんですよ──小っちゃくて可愛かったけど──」
「ほら──あそこ」
「馬鹿か──今は殺人鬼を──」
廃工場の入り口前、すぐ横の壁を背に入り口から中に入るタイミングを計っていた。
「なんだ──あれは、お前のバカみたいな夢を俺にまで見せているのか?」
目を反らした先──
何をしているのかわからない──
確かに小さな小竜みたいな生き物が──
激しい衝撃音のようなものを繰り返しながら──
目視できない何かを繰り広げている。
「がっおーーーーッ」
小さな白い小竜が吠えるように口を開ける。
何が起きているか目には見えない。
爆発音のような音と衝撃──
お互いの小竜は何か強い衝撃を受けたように──
黒い小竜が廃工場の屋根を突き破り中に落ちる。
白竜が少し離れた──地面に落ちた。
「おいっ──迂闊に近寄るな、引乃キズナッ!!」
落下した小竜に近寄るキズナ。
「でも──」
「──巻き込んだらダメなんだよッ──カオス──僕はね本気で怒っているんだッ」
「喋った?」
パタパタと羽根を羽ばたかせ、倒れた地面から身体を浮かせる。
黒い小竜が落下した廃工場へと入っていく。
「だめ──中は危ないよッ!!」
そんな小竜を心配するようにキズナが後を追う。
「馬鹿かッ──キズナッ」
殺人犯と人質が二人。
犯人の男と──人質が男女一名ずつ。
結局、俺もそんなキズナの後を追うように中に入る。
「先輩っ」
殺人鬼へ拳銃を構えているキズナ。
もちろん、この国で探偵が拳銃を持つことなど禁じられている。
「キズナ──おまえ、それは──」
「私──守るんです、先輩を──口が悪くて危なっかしい先輩を──一生面倒を見るって決めたんですよ」
同時に──空中では二匹の小竜が再び──大きな衝撃と光が当たりに飛び散る。
その光が身体に入り込むように──
光と共に──小竜がバラバラに地面に気を失ったように倒れている。
「殺す──殺すっ──もっと、もっといっぱいっ──」
「キズナ──撃てッ!!」
思わず俺は叫ぶ。
殺人鬼の持ったナイフかキズナに迫っている。
「ん──きゃっ」
バンッ──と拳銃が高い音を鳴らし衝撃でキズナが後ろに数歩後退する。
俺もキズナも外国で習得し拳銃のライセンスは持っている。
殺人鬼の右腕に命中し──持っていたナイフを落とす。
「殺す──殺す──もっと──もっとだ──ッ」
「キズナ、避けろっ!!」
キズナの身体を突き飛ばす。
「ぐっ──」
キズナの銃弾で貫いた殺人鬼の右腕がまるで化け物の腕のように──
手が三つ指の爪がナイフの刃物のように鋭く伸びている。
キズナを突き飛ばし、俺は代わりにキズナの立っていた場所に立つと──
俺の脇腹にその爪の刃がかすめる様に刃をかすめていく。
「先輩ッ!!」
「なんだ──こいつ──その腕は──」
「壊す──コワス──」
どう──なっている。
先ほどの光──謎の小竜の抗争に巻き込まれて──あの光を浴びてから──
先ほどまでは見えていなかった──
所々に黒や白の火があがっている。
そして、あの男の化け物のような右腕。
もちろん、脳の処理など追いつかない。
それでも──置かれている状況が異常だと言うことだけは理解する。
─────
「ただいま──トウカ」
母親が帰ってくる。
「げっ──ミリス、戻れ、戻れ──ぬいぐるみ」
「何を言っているんだ──トウカ──学校でもないここでまで僕に不自由でいろと申し出ているのかい?」
「ばか──早くしないとバレるだろ、母さんにッ」
「母さんに何がバレるんだいトウカ?──あら、可愛い子、ガールフレンド?」
「違う、ペットだよペット──」
「トウカ──ちょっとそっちに正座しなさい、母さん、こんな可愛い子をペットなんていう子にあんたを育ててきたつもりはないよ」
仕事で疲れていた目が恐ろしい目に変わる。
「違う、違う──こっちの姿じゃなくて──あーーー」
軽くパニックになる。
「母さんの分は?」
「ん──?」
オムライスのことを言っているのだろう。
「あるよ──味は保証しないけど」
「トウカ──僕もお代わりを要求するよッ」
「お前の分は作らないと無いんだよッ」
「トウカ──作ってあげなさい」
「なんだよ、やけにミリスの肩もつじゃないか、かーさん」
「私は、本当はミリスちゃん?彼女みたいなかわいい女の子が欲しかったのよ」
* * *
「今日も遅かったな──」
「大変なのよ──大人は──」
「まだ──見つかってないのか?」
そんな俺たちの会話をミリスは理解できない様に目をぱちくりさせながら、交互に眺め、新しいオムライスを頬張っている。
「見つからないわ──忘れられてるのよ──あの事件自体が──」
「母さんの妹──だったよな──」
「15歳以上も離れた、私の母さんの腹違いの子だけどね──」
一か月前のニュースになることもなかった──事件。
母がただ、一人追い続けている事件。
「何処に居るの──キズナ──」
母はそう呟き俺の作ったオムライスを食べる。




