【役目を終える】
ギギギッと鎧を着たドクロが──教室の隅で様子を伺うようにこちらを見渡している。
そのルールの上では絶対的な能力──暴力も評価も許さない。
シュウやリヴィのように、力押しなど許さない。
評価の言葉を許さない──それで正義を語り、それでいて──その言葉なしで、
国語の教師を言い負かすなど──初めから勝負として成立していない。
カリンが言った言葉──
突破口があるというのなら──どこだ──
カリンの評価の言葉は禁じられている。
ユイの正しき言葉も──あの教師には届かない。
ギギギッ
髑髏が俺を見る。
沈黙──その犠牲、ルールは──俺に向かうように。
「トウカ──どう考えても私には興味無いし──向いていない──だから、その犠牲は引き受ける──ちゃんともとに戻してくれよ、“信じてるぜっ”私の“正義”の味方──」
ナギサが失笑するように──
ギギギッ──俺に向いていた髑髏の瞳がナギサに向かうと──
裁きを下す様に剣を握った両手を頭上にかざす。
ナギサの姿が薄れていくと──水色の火の球のような魂だけが残る。
「あら、そんな方法があったなんて──なるほど、一度に裁けるのは一人だけ──そして、次の裁きまでの時間稼ぎになるという訳ですね──」
「しかし──どうする──この状況で、先生を説得するなんてッ」
「確かに──何を持って先生を説得となるのか──」
「何を持って正義でしょう──それは、事実の証明ですか?それは無実の証明ですか?──それはそう周りに見せ騙してきた者の特権ですか?」
─────
「違いますっ──私じゃありませんっ──本当に、本当にその人が──」
目を覚まさない男子生徒は──
その偽りの正義で──遠くの大きな病院へと転院させられた。
彼を救うと言う名目で──事実だけを遠ざけた。
「私は──どうして信じないのですかっ、どうして──私はッ私はッ」
ただ、本当のことを──
だけど、本当の言葉を吐けば吐くほど──
「落ち着いてください──討国さん、誰も貴方だけを責めている訳じゃありません──少し強引な彼にも問題はありました、それを黙っていた私ももちろん──それでもやはり、あなたのしたことは──」
どうして───どうして───
正義とはなんだ──
どうして正しい言葉が届かない。
何がそれを邪魔している?
正義とはなんだ──正しい者が──正義じゃないのか?
私の言葉は届かない──どうやったら私の言葉が届くと言うのか──
ねぇ──誰か教えて──
────
「結局──男子生徒が目を覚ましたのは──私たちが学校を卒業してから──残りの学生生活なんて──地獄のようで──」
ギギギッ──鎧を着た髑髏が動き出す。
俺の方をゆっくりと───
どうする──
理由などわからない──討国先生の過去など俺たちは知らない。
そんな言葉に壊された──正義にどう彼女を説得しろと言うのか。
「トウカくん、私にも先生を説得することは不可能です」
ユイが髑髏を見ながら俺に話しかける。
「だから、それは二人に託します──」
「ユイ、あんたに無理なこと、俺にも──」
「あら──ナギサさんの犠牲、無駄にはしてあげないでください──私もナギサさんもお二人に託したのですから──」
ギギギギッ髑髏の目線は俺に向かう。
「ほんと──トウカくんは私が居ないと駄目ですね、説得ができないのなら、倒すべきものは他にありませんか?」
ユイは髑髏を眺めながら俺に言う。
「──だが、暴力は──」
「あなたのいつもの“くだらない”言葉でその“正義”をぶっ壊してください──」
ギッ──俺に向いた身体が一気にユイに向かう。
両手を掲げ、裁きを下す。
薄い紫色の魂がユイの居た場所に残る。
「ユイ──」
「証明など不可能──正しいのは正しいのはいつだって──っ」
「どうするのだ──トウカくん、私は君の言葉だけを待っている」
「言葉って言っても──」
何を証明する──
正義をどう壊せと──
国語の教師を説得できない。
暴力も許されない。
彼女ではなく──
俺は大人しくなった鎧の髑髏を見る。
「あれを──説得……する?」
「どうやって──?」
カリンが俺を見る。
評価でも──暴力でもない──“言葉”
多分、それは彼女にしか言葉にできない。
ギギ、ギギギギッ
再び鎧を着た髑髏が動き出す。
俺を見る。
「もう──終わりにしよう」
「あら、諦めるのですか──」
「俺は“役目を終える”──後は頼んだぜカリン──正義は“絶対に負けたらだめなんだ──”それだけを小さいころから聞かされていた──」
「はは、はははは──さぁ残り一人ですよ」
俺の身体が薄れていく──
「トウカくん──承知した」
「あなた──何をッ──暴力は──」
腰に取り付けていた鞘から透明な刀を抜く。
ゆっくりと鎧を着た髑髏の方へと歩いていく。
「お前が裁判される時だ──」
カリンが髑髏を睨み──
透明な刃をその心臓へと突き刺す。
ゆっくりとカリンの姿も透過していく。
「──その役目を終るッ!!」
カリンがそう言葉にする。
「ΦΔПl¶Δ───ッ」
「な─に─?」
鎧を着た髑髏は解釈不能な悲鳴をあげる。
「私の能力が崩壊していく──あなた何をしたのっ」
「もうやめろ──私はただ、その言葉を送っただけだよ」
「そんなの──そんなことで、私は納得が──」
「──知ったような事を言うようで悪いが──私もあんたも言葉が届かなかったわけではない──正義どおりの評価をえられなかった──それだけだ」
「いや、いや、いやーーーーっ」
そんな髑髏と一緒にその空間が崩れ去る。
教室に色が戻り──俺とカリン以外は意識を失っているが──
魂のような光が身体の中へと戻る。
「そっちは任せたぞ──」
髑髏に刺さっていた透明な刃を鞘へと納め、その空いた手で──
自分を負かせたナギサがそうしたように──
通り過ぎ間際に──
パシンッと手のひらを合わせる。
俺はその合わせたてのひらをすぐにグーにして、結界の魔力を右腕に巻き付けると──教師の頬を軽く触れた。




