【次に壊れる者】
白いロングコートの男──真解ユズル。
トイレの床に膝を突きただ笑い続ける男──迷早リク。
「こいつを駆除すりゃ──結代トウカ、てめぇらクソガキ共は助かるんじゃぁねぇのか?」
拳銃を迷早の額に突きつける。
「どうした、結代トウカ──てめぇ得意の救済パンチは?」
「──支配は解けていると思う、でも──」
「精神、その崩壊まではまた救えなかった訳だな──クソガキ」
「殺せよ──ほら、殺してみろよッ」
ガンッ──
「やめろっ」
「煽ってくるクソガキに立場をわからせただけだ──」
拳銃を持った腕で迷早を殴られリクが倒れたまま──
「あは、あははは──」
「で──クソガキ、どうやってここを出るつもりだ、こいつを殺す以外に方法はあるのか?」
「それは──」
「だったら──情けをかける必要はねぇ──情けはかけるな」
「その──躊躇と油断は──悲劇しかうまねぇんだよ」
「どういう意味ですか?」
「──詮索してんじゃねクソガキ、結代トウカ、てめぇができねぇってなら俺がやってやる──」
「待てッ──自分が言ってることわかってるんですか?今からあなたは人殺しになるって言ってるんですよ?」
「うっせぇな、わかってるよ──なぁ、結代トウカ──もし俺がすでに人を殺しているって言ったらどうする?」
迷早に拳銃を突きつけたままぞっとするような瞳を俺へ向ける。
「本気で言ってるんですか?」
「いいか──結代トウカ、てめぇは拳で悪意を払える、そう“てめぇは”だ──だが、物事ってのはてめぇの周囲だけ起きてるわけじゃねぇ──それら全部にそのてめぇの拳は届くのか?」
「──できませんよ、でも──目の前にあるものくらいはそうしたい──」
「だったら──それが届かないときは?お前にこいつを殺せせるか?できねぇだろ?それをお前にさせるのは大人のやることじゃ───ねぇよな?」
「ここにあなたがこっち来たように、あなたの力でここから出ることはできない
んですか?」
「物事を正すっていうにはそれなりの証拠や証言が必要だ──ここに何人閉じ込められているかしらねぇが、それらを全部正すとなりゃめんどーな話だ」
「本物学園と──この学園の矛盾を作り出せればいいんですよね?」
「あぁ──ただ、正しい名前を聞き出すのとはわけが違う──能力を壊すとなれば“明確”に俺がその矛盾を理解し正す方法を“証言”する必要があるけどな──」
──スマホで催稀先生を呼び出す。
────
放課後──
迷早リクは──返刃シンペイ、拒絶する女性が運ばれた病院と同じ場所に搬送された。
「トウカくん──迷惑かけたな」
「トウカ、シュウ──キサマらの気合と根性と友情、忘れんぞ」
学校の校門でカリンと狂羅を見送る。
「お前らも気を付けろよ──そっちの学園にもまだ、お前らと敵対する能力者は居るかもしれない」
「お互い様だ、トウカくん──それでは、失礼する」
背を向け立ち去るカリンと狂羅を軽く手を振る様に見送る。
「ねぇ──トウカ、いいの?」
「ん─?」
「カリン──行かせて」
「どういう意味だ──さすがに敵意の無い奴にあの狂気を出したりは──」
「違うッ──」
ナギサが俺のカバンを指をさす。
少し空いたチャック。
覗く小竜の顔が無い。
「あれ?」
俺はカバンの中を覗く。
ナギサの指がカリンの背中の方へと向く。
カリンの脇に軽く挟められるように──
「ミリーーースッ!!」
俺は慌てて二人の背中を追う。
────
夜、自宅──俺の部屋。
「なんだい、トウカ──さっきの女はッそれに僕が誘拐されてるってのに気づくのが遅いじゃないかッ──僕は君の言いつけを守ってぬいぐるみのふりを続けていたんだよッ!」
「間に合ったしよかったじゃないか──」
まぁ──あの後、取り返す際にアルティーシアをかけて勝負だッと暴れるカリンをなだめるのは大変だったが──
「ハンバーグのソースで口周り汚しながら怒るなよッ」
コンビニのお気に入りのハンバーグ弁当を頬張りながら、ぷんすかと怒るミリス。
「これが、食わず怒らずにいられるかいっトウカッ!!」
「まぁ、せめて──どっちかにしたらどうだ?」
「だいたいね、トウカ──僕は前々から君に言おうと思っていたのさッ──」
何やらこれをきっかけに引き金を引いてしまったようで関係のない説教が始まる。
「──ほら」
「僕がしゃべって──ん、ありがと」
ティッシュで口周りを拭いてやる。
──あの日、あの時──傷ついた白い白竜を見つけた。
──今となっては、それが、全ての始まり──だった気がする。
──彼女が何者なのかは詳しくは知らない。
──彼女も能力者のようだが、その魔力のほとんどは失っているらしい。
──いったい彼女は何者なのか。
──白髪の可愛らしいピンク色の瞳で今も俺を覗き込んでいる。
「ん──トウカ、そっちのハンバーグも美味しそうだね?」
「馬鹿、同じ弁当だよッ中身は同じだッ」
「よこすんだよ、トウカ──僕はそのハンバーグを所望するよッ」
「自分のを全部食ってから言うなッ──お前の好きな物先に食べてしまう癖直せッ」
「ぐぬぬぅ──」
「はぁ──」
俺は懸命にミリスから遠ざけ死守していたハンバーグを半分にすると、ミリスの弁当の器の中へと移す。
「おや──どういう風の吹き回しだいトウカ?」
「美味しものは──誰かと一緒に食べた方がうまいだろ」
「うん──旨いッ」
子供のように目をきらきらさせるミリスを見ていたら、文句をいう事もこれ以上考えることも馬鹿らしくなった。
────
真夜中──病院 三階の病室。
ぼーとカーテンを閉めずに外を眺めている。
個室──
廊下から足音がする。
看護婦の見回りだろうか。
それにしては足音が一人ではない。
──気にすることはないと外を眺め続けている。
がらりとドアが開かれる。
「おまえ、おまえはーーーッ」
「そうだ、ぼくは、お前に言われて──嘘つけ、結代くんはぼくの友達になんてならなかったぞ──お前が、お前が──」
「大声を出すな──誰かに気づかれるだろ?」
「たく──お前たちがあいつを上手く壊すことができなかったからだろ──」
「な、何しにきた──ぼくに何の用だよッ」
「まったく、結代トウカ──つくづくお前だけは、近くに“あれ”があるせいか──」
「あれ──なんのことだ?」
「なぁ、おまえ──結代トウカと戦った時──人ならぬ何者かは一緒に居なかったか?」
「なんの──話だ──いい帰れよ、もうぼくは誰とも──」
「なぁ─?もう、こいつ使い物にならないんだろ?じゃぁ、もっと壊してもいいよな?」
「な──やめ、やめぇ」
何者かが、病室で寝ていた男の首を締め上げている。
カランッ
「あ、あなたたち何を──」
見回りに来ていた看護婦が、その様子に懐中電灯を床に転がす。
「まったく──静かにやれと言っているのに──」
「すいません──“何の以上もありません”」
看護婦の瞳から光が無くなる。
「あれ──私、なにを──懐中電灯、仕事に戻らなきゃ」
何事も無かったように懐中電灯を拾い上げ仕事へと戻る。
「ぐっ──あぁあ──」
締め上げられていた男の手がだらんと重力に逆らうのをやめるように垂れさがっている。
「はぁ──死体の隠蔽とかこっちの身にもなってほしいが──いいだろう、その調子で“残りの二人”も頼むよ──」




