【悪夢を見る側】
────
「ねぇ、お母さんとお父さんどっちについてくる?」
それがぼくに最初にだされた選択肢だった──
まともに学校にも行かず朝も夜もわからない部屋に閉じこもっていたぼくに母が言った。
離婚という選択を選んだ両親はぼく、その選択を迫った──
────
『なるほど──トウカくんは今、そんなつまらない遊びに付き合わされているって訳ね』
「ユイ、そっちは無事か?」
『また──ひとりぼっちにはなってしまいましたけど──学園に引きこもり中の他校の生徒をなんとか引きずりだしてみせます』
「無駄ぁ──無駄だ、さぁ──次だ、結代くん──」
新しい部屋。
部屋の形は何一つ変わらない。
再び映像が壁に映し出される。
「カリン?──ユイ?」
教室を出て、検索を開始したと思われる、ミリスのぬいぐるみ基、アルティーシアを大事そうに胸に抱えるカリンと映像を二つに分割するようにユイの姿が映る。
『あら──不潔です、トウカくん、私……今、女子トイレの中ですよ?』
「仕方ないだろ──映ってるんだから」
「少し静かにしろよ──結代くん、題三問だ──同じく、部屋に電流を放つ──二人のうち、どちらを助ける?」
「右は電話口の女、左は言日岐さん──」
ユイ……今、電話をしている相手。
もう一人は先ほどまで敵対していたカリン。
自己犠牲の選択を削られる。
カリンには申し訳ないが優先される方は当然──
俺はスクリーンでユイの映像を見る。
──が足がどうしても進まない。
「どうした──結代くん、二択だ──助けられるのは一人、さっきみたいにタライが落ちたってレベルではない、選択により罰を選ばれた側の影響も、回をますごとに大きくなる──」
「急げよ──片方は君の敵だった女だろ?それとも君はやっぱり自分以外の人間はどうでもいいのかな?」
「──ユイ、優柔不断な男ってダサいよな──悪い」
『ん──きゃーーーッ』
歯を食いしばるスマホの向こう側から聞こえる叫び声。
「──なにが、望みだよ、あんた──」
「望み?望みなんてないよ──結代くん、ぼくは知りたいだけさ──ぼくのように望まない選択を選ばされ、その選んだ先の結末を──君もぼくのように壊れるのかをね──」
「俺のせいではない──全部お前だろッ──お前がやってることだろっ」
「そうだよ──でもね、その犠牲を選択したのは紛れもない君だ、結代くん」
「くっ──ふざけるな──」
「ふざけてないよ──真面目でなきゃこんなことできない──壊れてなければこんなことできるわけないだろ?」
────
ぼくは母親について行くことにした。
そもそも、離婚の理由も父親の金銭面のだらしなさから──
だからぼくはそう“選択”をした。
「ねぇ、リク──お母さん、こんどこの人とお見合いしてみようと思うけど、リク──賛成してくれる?」
また──選択を迫られる。
だが、引きこもりのぼくを──毎日、仕事と家事をこなす母親、当然──そんな生活を助けてくれる人を求める。
そんな選択をした母を反対することなどできなかった。
────
「第四問──」
ナギサとユイの姿が映像に映る。
* * *
『いやーーーーッ』
選択、動けない俺──
ただ、スマホの奥から聞こえる叫び声。
「いい加減にしろッ」
「選択、またそれを放棄しているのは結代くん、君だよ」
「こんなのどっちを選んでも──最悪だろッ」
「どちらを選ぶか“迷わない”選択など選択とは呼べないだろ」
「さぁ──第五問」
「くっ──」
『──こんな悲鳴、トウカくんに聞かれるの、これで最後にしたいものですね』
「ユイ──大丈夫か」
『──そう見えるかしら?いいの──文句は“ここを出てから”散々言いますから』
『ねぇ──今もそっちから私は見えているトウカくん?』
ユイがトイレの洗面台の前の鏡に自分の顔を映しながら──
「あぁ──鏡に映ってるユイの顔──見えてるよ」
『そう──“トウカくんにも”私が見えているのね──』
『それじゃ、鏡に映る私の瞳──見てくれるかしら』
「知ってる、知ってるぞ──それはもう“聞いている”」
「結代くんの悪夢をぼくに見せる──そのつもりだろうが──対象であるぼくの場所がわからないあんたにぼくにそれを見せることができるのかッ」
『ねぇ──トウカくん、想像して──この先、“どんな選択を迫られるゲームが続けば心が折られそう?”』
『あ──口に出さなくてもいいわ、だってトウカくん──“自分が怖いと思うような悪夢じゃなければ”怖いなんて思わないでしょ──』
「馬鹿か──そんな、結代くんの考えた悪夢など、そんなゲームなど──ぼくがぼくがもっともっと怖い悪夢を見せてやるよーーー」
ナギサとユイの周囲に炎があがる。
『く──』
「さぁ─どうする?右に行けば別の女の炎を消す──左に行けば左の女の炎を消す」
「くそ──俺は──ユイ、ナギサ──」
────
母親の再婚が決まった。
新しい父親となった男の瞳はどこか冷たかったけど──
まぁ、優しそうな男だった。
ある日、当時住んでいた街より遠くの都会のデパートに連れてきてもらった。
初めて入る、無駄に大きなデパート。
それが何階だったかも覚えていない。
大きな本屋、男に1万円を渡されてそれで好きな本を好きなだけ買っていいと言われた。
お母さんもただ、寂しそうにそれでも小さく頷いた。
ぼくは一人、歯詐欺周るように──
「お母さん、ぼく、これにするッ!!」
振り返ると二人の姿はどこにもなくて──
楽しそうに見えた大きな本屋が途端にただ大きな恐怖な空間に見えて──
「お母さんッ──お母さんッ」
ただの引きこもり、それが他人の子供となれば──当然だ。
ぼくはおとこの性も名前も知らない。
新しい母の名前を知らない。
母と住んでいたマンション──そこに戻った時にはすでに、
もぬけの殻になっていて──
最寄りのほとんどなかった母──
ぼくなんかを引き取る人間なんて居なかった。
────
『あっつーーーなんだよ、これ、急にどうなってるんだ?』
『──さすがに、トウカくん──どうしたものかしら』
「さぁ──選択しろ、結代くん──ほら、答えろ──二つの選択に正しい答えはあったのか?なぁ教えてくれッ!!」
俺に──正しく選択することなど──こんなものに答えがあるのだろうか。




