【迷いの学園】
「それじゃ──すでにリヴィアもやられている訳か」
「それで、カリンや狂羅がここに来た理由ってのは──」
「──それが、こんなことをした手前でできる言い訳ではないとはわかっているのだが──思い出せないのだ」
「やっぱりか──」
「やっぱカリンも──この学園と同じ誰かに操られてたってこと?」
「──いや、誰かと話をした──その話をした誰かの顔がノイズのように消えているってんは確かだが──操られていたという感覚はない」
「でも──恨みもないトウカを狙ってここまで来たんだろ?」
「そうだが──」
何か腑に落ちないというよう──
「まずは、この空間を出るのが先だろ──カリン、脱出する方法、出口は?」
「そうだな──そのためには最後の一人を探す必要があるのだ──が!?」
俺たちのクラス──
教室はナギサとカリンの激闘でぐちゃぐちゃになってはいるが、
俺とナギサはいつものようにその偽りの教室で自分たちの席に座っている。
そんな俺とナギサの前に立っているカリンは──明らかに俺のカバンを見ている。
ミリス──?
しかし、そのぬいぐるみの姿のミリス。
その実態、魂のようなものはない。
完全にぬいぐるみだ──
「あ、いや──それは、昔──大切な友達が暮れたモノでそのお守りみたいなものなんだ──」
確かに、今認め合った人間がこんな私物を普段持ち歩いて学校に通っていると知れば、考えを改められてしまうかもしれない。
「そ──そうか、それはさぞ、大事な物なのだろう」
ちら、ちらと瞳をぬいぐるみに送っている。
「それよりも、その最後の一人──」
「トウカ──なんかヤバイかも」
ナギサが向いている方を見る。
見ている方と言うよりかは──
クラスメイトが戻って来たように、黒い影のような人間の形が沢山現れる。
「どういうことだ?」
「迷早リク──互いの能力を語り合った訳じゃないから、詳しいところまではわからないが、人を迷わす能力、あいつはトウカくん、君たちだけではなく、私たちごとこの偽りの学園に閉じ込めるつもりなのかもしれないな」
「閉じ込める──?」
ゆらっゆらっ──その黒い影が俺たちを敵意するように近寄ってくる。
「初めて見るが──迷早の能力だろう──」
「おいっ、ナギサッ」
考えなしに一つの黒い影に得意の跳び蹴りを入れる。
ドガッと黒い影は床に叩きつけられる──が、すぐに立ち上がる。
「強さは無さそうだが──どうにもあいつらには痛覚というのが無さそうだな」
カリンはナギサとその床に叩き伏せられ起き上がる黒い影を睨む。
ゾンビのように一斉に黒い影が襲い掛かってくる。
「水は──もう手持ちがないし──蹴るしかないけど」
この数──
懸命に蹴りを、俺は手に結界を巻きつけ、母に習った護身術程度で応戦する。
が、生半可の攻撃ではすぐに起き上がってくる。
「だーーーしつこいッ」
「ナギサッ」
数体に一斉に襲われたナギサが横から腕や肩を引っ張られている。
「ばか、トウカ、自分の心配してろッ」
俺に絡みついて来ていた黒い影の一体の口から黒い光の球が飛ぶ。
「あぶないっ」
カリンが俺の身体を押し、俺の机の横に滑り込む
俺は突き飛ばされるような形にはなったが──
「カリン──助かった」
「礼にはおよばん──トウカくん、君の大切なものだったのだろう──」
「ん?」
彼女が必死に守ろうとしているもの──
俺ではなく──
「大丈夫だったか──アルティーシア、私がおまえを絶対に守ってやるからな」
((だれっ!?))
俺とナギサの心の声が共鳴する。
ミリス──そのぬいぐるみの姿を取り込んだ、この空間のぬいぐるみを大事そうにカリンが抱えている。
「トウカくん、何をしている──これは君の大切なモノなのだろう、それをこんな危険に晒すなど──トウカくん、君にこれを任せてはおけない、だが約束しよう──今、この時、私がアルティーシアは必ず守り抜く」
「トウカ──どういうこと?」
「俺に聞くな──」
「よくわかんないけど──ミリスちゃんはこれで安全ってわけだ──」
「トウカくん──私もナギサも先の戦いで余り魔力は残っていないが、この敵を引き付けることくらいはできよう、君はどこかに居る迷早を探し出し、君の能力で彼を正気に戻しこの能力を解除してくれ」
「しかし──」
「消し跳べッ」
透明な刃でカリンが俺の前の黒い影を切り裂く。
黒いチリのように黒い影が散っていく。
「大丈夫か──ナギサも?」
「そっちこそ、私抜きで大丈夫かトウカ?」
「あぁ──一発殴るだけだ──相手が野郎ってなら遠慮もしない」
教室を出て廊下に出る。
恐らく、この能力はこの学園──あの校門と周辺の景気だけ創り出している。
その外には出られない。
だが、能力者──その迷早という奴もどこかに居るはずだ。
まだ──行っていないフロア──3階。
俺はそこに昇るための階段を目指す。
それを阻むように──
一体……また一体、黒い影が現れる。
手に巻いた結界の右手で殴り飛ばすが──
別の影を相手にしているうちにすぐに起き上がってくる。
「馬鹿者が────ッ」
後ろからそんな声と共に──
俺にまとわりついていたうちの黒い影二体を両手片方ずつに首根っこを掴み床へと叩きつける。
「トウカ、今──キサマに足りていないものが三つあるッ!!」
「言ってみろッ──いいか、それは──」
言わせてもらえない──
「力ッ──パワーーーーッ、そしてッ力だッ!!!」
「力が二回でてきてるし、なんなら三つとも同じだ」
「狂羅──もう動いて大丈夫なのか」
「トウカ、このあたしをきさまのような軟弱ものと一緒にするな──否ッ軟弱ものと一緒にするなーッ」
「──そこは、もっとうまい言葉に言い換えてくれよ」
ガンッ俺の目の前に黒い手甲の腕が通過する。
「おいっトウカ──こっちは任せろ、よくわかんねーが、この先──いきてぇんだろ、相棒、だったらこいつらはそっちに近づけさせねーよ」
俺の進路に居た黒い影をシュウの拳が吹っ飛ばす。
「気合、根性───そして、ど根性ッ!!」
掴んでいた黒い影をぶん投げるように──三階への進路を塞ぐ黒い影に叩きつける。
「いけぇーーートウカ、そして、いけぇーーーーッ」
「サンキュー、シュウ、狂羅」
俺は突っ込むことを放棄して三階へ向かう。
「──トウカくん?」
「ユイ?」
ユイが丁度、黒い影の一体に悪夢を見せ、消滅させているところだった。




