【言葉の刃】
シュウと狂羅を残し廊下へ出る。
『迷早リク──奴を見つけない限りはこの空間から抜け出すことはできん』
狂羅が俺へと残した言葉。
俺はきょろきょろと──ただ俺らを残し無人となった学園の中をお歩きまわる。
「普通に──どこかに隠れているのか?」
俺はそう独り言を呟きながら自分たちの教室のある、二階の奥へと進んでいく。
「うぁ──トウカ、トウカじゃん、やばい、やばいってあいつ」
何かに怯えるようにナギサが俺の後ろに隠れる。
「どうした?」
「ほら、さっきの言日岐カリンだっけ──あいつやばいんだって」
「やばい、やばいだけじゃわかんねーよ」
「やばいっ──トウカ、盾、壁、防御プリーズ」
「なっなんだよ」
ガンッ
言われるまま出した透明な板──どこからか飛んできた消火器がぶつかり床に落ちる。
「ここに居たか──ふん、トウカくん、あんたも一緒だったか」
廊下の奥から黒く長い髪、ポニー状に束てた後ろ髪。
ゆっくりと足音を立てながら右腕を斜め下に構え、その手には刀の柄が握られていて──
「透明色の刀?」
透明──だが、俺の結界のように目を凝らせば目視できる透明色。
「まぢ──あの三人の中で一番常識人に見せて一番やばいって、あいつは絶対サイコパスだ」
「《《ことば》》には気を付けな──思わぬ災いを引き起こす──」
ナギサとは別のぴんく色のフレーズ、スクエア型の眼鏡のブリッジ部分をくいっとお持ち上げる言日岐。
ゆっくりと歩き、消火栓の近くにある場所に置いてある消火器を左手で持ち上げる。
目の前に転がっているもう一つの消火器──
彼女は左手に持った消火器を自分の胸の前で落下させる。
「跳べッ」
透明な刃で消火器を斬る。
だが、その刃は実態がないように消火器を通過する。
「なん──だ?」
落下するはずの消火器が空中で停止する。
「くっ」
俺の背中で隠れるナギサの前で、俺は再び結界をつくる。
ガンッ
消火器が重力の方向を間違えるようにもの凄いスピードで結界にぶつかる。
「なるほど──それが、噂に聞く、あなたの防御能力ということか」
ゆっくりと、外靴、ハイヒールの靴音を響かせながら歩いてくる。
用心するように結界を張ったままにしておく。
俺の結界の前に立つ。
「斬るッ」
そう短い単語を再び言日岐は口にする。
俺の結界を引き裂くように──刀を振るった腕を真横に構える。
結界は無事だ──。
だが、真横に伸ばした腕、その刀の刃の先が触れた俺たちの教室のドアが真っ二つに引き裂かれる。
「なるほど──本当に君は結界の能力者としては優秀なようだな」
俺の結界を不思議そうに眺める──
「なら──トウカくん、その身体はどうだろう?結界が優れているのはわかった──少し試させてはくれないか、大丈夫──痛みはないさ、多分ね」
「やばい──サイコパスじゃないか」
「だから言っただろ──やべぇって」
「取りあえず、教室に逃げよう──トウカ?」
「なんでだ?逆に逃げ場がなくなりそうだが──」
「私のかばん──水が入ってる──そこまで再現されてるかわかんないけど、結構リアルに再現されてるから、それ信じる」
「なるほど──」
俺とナギサが同時に彼女が引き裂いたドアのあった場所から教室の中に飛び込む。
俺たちの机のある方へと走っていく。
俺の机、かばんはリアルに再現されていて──
さすがにミリス本人では無いが、ミリスが化けている白い小竜のぬいぐるみまで再現されている。
「あった──水として飲めるのかな?」
再現された物質──確かに気にはなるが。
「やめておけよ──」
「跳べッ」
言日岐が近くの机を切り裂く。
「あぶねっ」
俺たちを目掛け、机が一直線に飛んでくる。
ガンッ
机が俺たちの前に落下する。
「水分も補給できたし──トウカ、反撃開始だッ」
「大丈夫か──強者感が半端ないぞアイツ」
「眼鏡っ娘同士仲良くなれないか?」
「関係ねーだろっ、蹴っ飛ばすぞ」
怒られる──。
「跳べッ」
残っていた椅子が飛んでくる。
ガンッ
勢いよく俺の結界にぶつかり椅子が落下する。
「形どれ──突き刺さるナイフ」
びしゃっとペットボトルを持った右手を払い、中の水の少しを巻き散らす。
水が数本のナイフを形どる。
「跳べッ」
同様にナギサの作ったナイフが言日岐目掛け飛んでいく。
「浮けッ」
無表情のまま──透明な刀で机を切り裂く。
切り裂いた机が俺たちの方に面を向けるように浮かび上がると、水のナイフがその机に突き刺さり、液体に戻る。
こちらとの間合いを計るように、こちらにではなく横にゆっくりと靴音を鳴らし言日岐が歩く。
「5秒後に─4秒後に─3秒後に─2秒後に─1秒後に──」
歩く先にある、机や椅子をそうカウントするように斬る。
「跳べッ」
「くっ──ナギサ結界、俺の後ろにまわれッ」
そうナギサの腕を引っ張り──俺の胸の前に引き寄せる。
ガンッ─ガンッ─ガンッ─ガンッ─ガンッ
机と椅子が間髪入れずに結界にぶつかってくる。
「お──おぉ、大胆だな、トウカ」
俺の左手に抱えられ抱き寄せるような形になってしまってる。
「ば、ばか──非常事態だったんだ、しかたないだろ、気にしている場合か」
「ば、ばかはトウカだろ、わ、私は抱き寄せられ処女だぞッ少しくらい余韻に浸ってもいいだろ、どんなときだろうがッ」
「跳べッ」
机が飛んでくる。
結界に防がれる。
「随分と余裕だな──確かにそれは優秀だ──私の攻撃をまだ一度も通していない──その価値は言葉で評価されるべき、と思わないか?」
「何を言っている──」
「評価の話だ──そう言った」
「さて、トウカくん──正しく価値を評価されなかったモノはどうなる?」
俺は彼女に評価されていた──目の前に転がっている椅子や机を見る。
「──壊れるかもな」
「なるほど──壊れる、正しく実力を評価できないものは壊れているか──実にいい表現だよ、トウカくん」
「だったら──君たちが私をそう初めに評価したように、私はずっと前から壊れていたのだろうな」




