【最高に強くて、可愛かった】
「良く言ったシュウッ!良い気合いだ──評価しよう全力の全力で相手をするっ」
立ち上がるシュウに再び狂羅が振り返る。
「俺が負けたのはトウカ──お前が最初で最後、行くぞ狂暴女ッ」
力では狂羅、技術ではシュウ。
直撃を回避するようにシュウは身体を動かし、狂羅はシュウの攻撃を受けながら──ただその拳を振り回す。
見るからに──優勢になってきたのはシュウのはずなのだが──
「狂人化──あーーーーーッ」
子供を持ち上げるようにシュウの身体を両手で持ち上げる──そのまま
「ぐぅ──がぁ」
そのままシュウの身体を頭上で持ち上げたまま、周りの机を巻き込むように背中から倒れ、シュウを背中から床に叩きつける。
ガシャーーンッ
そんなシュウが叩きつけられる大きな音だけが教室に響く。
静まり返る中で狂羅だけが起き上がる。
シュウはぴくりとも動けない。
無理もない。
あんなバックドロップ、やらせのようなプロレスのテレビの中継でしか見たことがない。
「──おい、終わってねーぞ?そう簡単に何度も背中見せてんじゃねーよ」
「うむ──面白い、面白いぞ、シュウ」
「ようやく名前も覚えたみてーだな、認められたってことでいいか?」
「あぁ──認めようッ、さぁかかってこいッ──トウカッ!」
「俺はシュウだよっ──わざとか、狂暴女──いや狂羅」
「そうだな──シュウ」
お互いにきちんと名前を呼ぶ。
「いくぜ──俺も馬鹿だから、ただ殴ることしか、てめぇへの勝ち方はわからねーけどなッ──狂羅ッ」
「それでいい──全力でこいッ──シュウッ」
狂人化はしていない──それでも互いの頬に互いの拳が食い込んでいる。
「くっ」
「うむっ」
狂人化──一時的に身体能力、主に筋力を強化しているのだろう。
瞬間的とはいえ、その魔力の消耗は激しい。
使える回数に限界もあるだろう──
何より──使用後──俺たち能力者にとってHPとMPの両方に等しい魔力を消耗しているということだ。
狂羅が一歩後ろに後退し──膝を折る。
だがシュウも同じような姿勢──互いに限界は近い。
────
「なぁ──リヴィア、お誕生日プレゼントは何が欲しい?」
あぁ──これはあたしの別の誕生日の時の記憶だ──
なんでこんな時に──
可愛い服が沢山並んでいる──
母の横に並んで服を見ている。
あたしに似合うとか憧れとか──そういうのは無かった。
たぶん──それは本当。
でも、母とそれを眺めているのが嬉しかったんだと思う。
あたしは女の子なんだって──許された気がした。
「おい、何してる?リヴィアはそういうのよりこっちのが好きなんだよな」
男の声──日本人の男──父の声。
隣接する二つの店を繋ぐ通路──男性と女性の服とで店舗を分けている。
男がそんなあたしと母を男性服の方へと誘導した。
「うん──お母さん、あたしあっちの方がいい──」
だから、あたしは命一杯にあたしを演じるんだ。
──だから、これがこの物語の主人公
─────
ガンッ
ドスッ
再びお互いの拳が互いの頬を殴る。
もはや、シュウも回避に体力を回す余裕もない。
互いに拳を突き出すだけ──
「狂人化──」
シュウが体制を整えるより先に狂羅が動く。
ガンッ
卑怯だとは思ったが俺の作った透明な板がそれを防ぐ。
「二体一……よい、実によい──強敵と認めたのだな──こんな状況こそ主人公に相応しい──かかってこい、シュウ、トウカッ」
「勘違いすんな──俺はてめぇしか見てねーぞ、こらぁーーっ」
シュウが再び手甲の右腕を振り上げる。
「あぁーーー、可愛いなんていらない──それがあたし、これがあたしのすべてだ」
何度目か──お互いの拳をいお互いで受け止め合う──狂羅とシュウ。
お互いに一、二歩後ろに下がり、後ろに倒れそうな身体を持ちこたえる。
「くそ──」
震える足──
バタンッと先にシュウの身体が後ろに倒れる。
「なんで──そんなに自分を否定するんだよ」
「それは──あたしではないからだ、トウカ」
顔を向けるのがやっと──狂羅の瞳が俺を見る。
「なんでだよ──俺なんかの言葉じゃ価値はねぇと思うけど、十分に女として可愛いだろお前も」
「だから、その価値は不要だと言っている──あたしに求められる価値、それはあたし自身が一番に知っているッ」
「でも──俺がお前を見る価値には少なくとも可愛はあるぜ?」
「トウカ──あたしが今さらそんな言葉を求めるとでも思うか?」
「さっき言ってだろ──狂羅リヴィア、その言葉が大好きだって……だから、お前じゃなくても、望んだ相手じゃなくても──言ってやる、狂羅リヴィア、おまえ可愛いな──」
「ばかものが……」
弱々しい声。
「まぁ──俺はお前のその馬鹿っぽい台詞も、勢いだけで突っ走る性格も好きだけどな──俺たちもそれを受け止めてやるから、お前は可愛い──それも含めてお前だ受け入れろ」
「──ばかものが……」
「トウカ──あたしは今、シュウとの激戦で腕ひとつ上げる事が出来ん──キサマごときがあたしの頬を触れることができるのは今だけだぞ──」
「──少し、卑怯っぽいけど、遠慮しねーぞ」
「あぁ──全力でくるがよい、トウカ」
「あぁ──狂羅リヴィア──最高に強くて──可愛かったぜ」
俺はそんな──狂羅の頬に軽く拳で触れる。
「あたしの──負けだ……トウカ──シュウ」
狂羅の瞳から不穏な魔力が消える。




