【四文字《バイバイ》】
──世界を守りたいんじゃない、俺はミリスを守る。
そこに──その結果が世界を救うということなら──
俺の家族の背後に世界があっただけ──
だから──家族、仲間──世界──
──俺が守るッ
仲間が人々が手を上に翳していく──
「わかるかい──トウカの結界にみんなの希望が託されているのさ──」
「俺は──そんな器じゃねーよ、俺はただ、皆をミリス、お前を守れればいいっ」
「にしし、僕は白竜だよ──皆の希望を魔力に変えるのさ──それを“奇跡”と呼べるかは知らないけどね」
「意味がない──もし、それを奇跡というのならその奇跡には何の意味もない」
クウドがそんな俺とミリスの会話に割って入る。
「父君様が守り続けた世界だよ──トウカが守った世界だよ、そしてこれから僕が創って行く世界さ──意味がないなんて言わせないよ」
ミリスは静かにその言葉をクウドへと送る。
「結代トウカ、お前のその能力もその奇跡とやらも、あの破壊の時間稼ぎにしかならない──混沌の破滅の世界への衝突はもう避けられないっ」
勝ち誇ったようにクウドが叫ぶ。
「くっ──」
悔しいが──確かに俺にその手段、方法が思いつかない。
あの──巨大な混沌の塊、隕石をどう破壊する。
そして──再び俺の体にその負の魔力の衝撃が重く乗りかかってくる。
「がおーーー、僕はそれはそれは恐ろしい白竜だよ──」
ミリスはお得意のそのセリフを口にし空を見上げる。
「あれを“破壊するだけ”の魔力は僕が用意するよ」
「どうやって──俺やミリス、そして世界中の魔力を集めてやっと防げているだけのモノだぞ」
「トウカ──僕は君からそれだけの魔力をすでに貰っているのさ」
「ふざけるな──ミリス、お前は何をしようとしてるっ」
「──にしし、こんなに美味しそうに育つとは僕も計算外だったけどね──トウカ」
「食うなっ──それだけはやめろ、それだけは──」
「──そりゃ、僕だって、どうにか──これだけは食べないで済まないか、考えたよ──考えたんだよ、トウカ」
「だったら──」
「──トウカと出会った日のこと──それからのことも、ずっと、ずっと思い返したよ──ずっとずっとこの湧き上がる暖かいものを大事にしたかったよ──でもね、トウカ」
寂しそうに笑うミリスが空を見つめる。
「あれが落ちたら、それがすべて無くなっちゃうんだ──だから、僕は創らなきゃいけないよ──だからね──トウカ」
「やめ──っ」
感情的に怒りの言葉をミリスに言い放とうと思った言葉を飲み込む。
「御馳走様──」
天を仰ぐように顔を向けていた顔を俺の方へ少し傾け、ピンク色の瞳を俺に向け──流れる涙を隠せないミリスに見つめられ俺は何も言い返せなくなる。
だめだっ──だめだっ
俺は口に出せない言葉を──頭の中で何度も繰り返す。
「──ミリスッ!!」
大きく──大きく──ミリスが息を吸い込んだ。
───────
真っ白な部屋──地面には何かが砕けた破片が散らばっている。
何処だ?
俺は確か──紫色の空、そこから降る真っ黒な隕石のような混沌。
それをこの地に堕ちないように結界を──
何もない──
「──ねぇ、“きみ”は?」
真っ白い長い髪、黒いワンピースの姿の少女が大事そうに自分の両手に収まるくらいの大きなシャボン玉のようなものを抱えている。
俺の声に反応すると──白い髪の少女がその悲しそうな瞳を向ける。
「────」
なぜか彼女の放ったたった“四文字”の言葉が俺に届かない。
そして──
ぱりーーーんっ
そのシャボン玉が音を立てて砕けると、地面に散らばる。
「おやおや──君は誰だい?ここは僕だけの特別なお部屋だよ」
「──悪い、ただ──俺は、君に──何かを伝えないと──」
「がおーーー、僕は怖い怖い白竜だよ、いつだって僕は腹ペコだよ、君のことなんてぺろりと食べてしまうよ」
「君の──名前は?知っているはずなんだ──俺は──君を」
俺は彼女の顔を見た不安の感情を形にできないまま、必死に言葉を探す。
「にしし、僕はね──どんな記憶でもぺろりと食べるんだよ、さて──昨日、君と道を通りすがった赤の他人は本当に他人だったのかな」
「頼む──教えてくれ、知っているはずなんだ、知っていたはずなんだ──思い出すからさ、全部、全部──思い出すからさ──守りたいものが、そこにあったんだ──」
俺はただ──その少女の身体を強く抱きしめる。
「おやおや、こんなところでそんなことをしていていいのかい──世界は世界はそれは大ピンチなのではないかい?」
「お願いだ──俺は──世界を救いたいんじゃない──俺は──」
「“白竜”に頼まれたんだ──俺はそんな守り人、俺は──」
「おやおや──僕もまた、目的を見失わないためとはいえ、“変な場所”だけを食べ残したようだね──」
「僕はね──人の記憶を食べる、それはそれはこわーい、白竜なのさ──だから、僕は“大好きだったもの”のためにその使命を果たしに行くのさ」
俺の顔は涙でぐちゃぐちゃで──
「君は僕を守り──僕は君を創る──」
「──俺は、俺は──お前を守りたい──ずっと、ずっと」
「──ありがとう」
少女も──涙でぐしゃぐしゃの顔を俺に向け俺の身体を抱きしめ返す。
「僕は──ただ──そんな世界を守りたかったんだね──」
そして──そんな白い世界が消えていく───
─────
ぐっと重たい重力と感情が俺の身体を襲う──
見上げると紫色の空──
俺はそんな空に右手を伸ばし結界で、そんな空から降る黒い隕石のようなものを防いでいる。
「白──竜──?」
俺はそんな伸ばす右手の上を昇るように飛んでいく白竜の背中を眺める。
そんな白竜を追うように黒竜も飛んでいく。
「無駄だ──何が希望だ、何が奇跡だ──あの混沌の中で──白竜、お前の力など」
「黙ってろよ──いい加減黙れよっ」
俺は──これだけの事を引き起こした男に、そしてそれを自分のせいではなく、俺たち人間が引き起こしたものだという男に言い放ちながら、ただその腕を空に伸ばしそのクウドの言う破壊を食い止める。
「──白竜──お前は、俺は──お前の守り人──くそっ」
何も思い出せはしない──ただ、そんな白竜の背中に不安のような感情と苛立ちのような感情が隠し切れない。
「がおーーーーーーっ」
「がおーーーーーっ」
白竜が吠えると──それを真似るように黒竜が吠える。
まるで、黒竜は──白竜が隣に居てくれることを嬉しそうに──
混沌──黒い隕石の前に二匹の小竜は、その小さな羽を羽ばたかせながら停止する。
「なぁ──トウカ、何が始まるんだ?」
ナギサが俺と同じように空に手をかざしたまま顔をこちらに向ける。
「──たぶん、世界を救ってくれる、あの混沌を破壊してくれる」
「──嬉しいことじゃないのか?」
「──嬉しいことに決まってるだろ、なんで──」
「なんでって──そんな表情で居られたら、心配するだろ──馬鹿」
そんな酷い顔をしていたのだろうか──
「──きれい──だな」
ナギサが見つめる空。
二匹の小竜が口にその魔力を貯めていく。
互いに白と黒の魔力を蓄え──さらに目の前の結界がゆっくりと崩れ始めそれも、二匹の小竜の餌に代わり──口いっぱいの魔力は虹色へと変化していく。
───
「いいのかい──」
「何がだい?」
白竜──ミリスは少しだけ不安そうなカオスに聞き返す。
「あの人──ミリスの“大事なもの”だったんだろ」
「カオス──僕はいつだって腹ペコなんだよ、人の記憶だってぺろりと食べるのさ、にしし、誰かは僕を希望だなんて言うけどね──僕はカオスよりもずっとずっと、悪竜なのかもしれないね」
「──もう──いいのかい?」
「ミリス──これからはボクと一緒に居てくれるの?」
「──うん、僕が一緒に居てあげるよ──だから、カオス──僕の“大好きな人”のために──世界を創るのを手伝ってほしいんだ」
ミリスとカオスが大きく口を開く──
背後で懸命に結界を作るトウカの結界を取り込んでいく。
一つの物語を終わらせよう──
一つの世界を始めよう──
「「がっおーーーーーーーーーーッ」」
結界をすべて取り込み──再び地に向け落下を始めた混沌。
ミリスとカオスはそんな黒い隕石のような塊に向かい大きく吠えると──
人々の願いを届ける──。
白と黒の輝く炎がクロスし互いにねじれる様に重なり合い──混沌を突き破る。
そのまま、二つの炎は紫色の空をも貫き──
その炎がそんな紫色の空を吹き飛ばすように──
混沌は砕け散り──魔力の塊が地へと降り注ぐ。
───
落下してくる──混沌の破片を俺は再び結界で防いでいるが──
俺の結界を逃れた混沌の破片が──リエンの屋敷に落下する。
俺は──結界でそれを防ぐ。
「──ふざけるなっ、ふざけるな、セカイは終わる、セカイは壊れるんだっ」
クウドがそんな青い空を眺め狂ったように叫ぶ。
混沌の破片が──そんなクウドの元へと落下してくる。
俺は──仲間をそんな破片から守りながらも──
クウドに堕ちるその破片をただ──横目で眺める。
その破片に押しつぶされるようにクウドの姿が消える。
青く澄んだ空──
たった──一日の出来事のはずなのに、すごく、すごく──懐かしく感じる。
そんな世界を創った、白と黒の小竜はそんな青空を高く高く昇っていく。
そして──、一度──白竜はこちらへ振り返り──
何かをささやいた気がしたんだ。
あの時──聞こえなかった──4文字の言葉を──
「俺は──学校を卒業したら旅に出る」
「ん、どうした、トウカ──急に中二病みたいなこと言い出して」
不思議そうに俺を見る、ナギサ。
「──探すんだ、そして、あの四文字を俺が書き換える」
この物語は──白竜によって守られた──
だから、俺は新しい旅を始めよう──




