【おかあさんに伝えて】
黒い茨のようなものが地面や床、建物に絡みつくように、一部の地区には避難警告が出され、無人となった家、店。
そんな、混乱に紛れ悪事を働く強盗──
カイナはそんな男を地面にうつ伏せにねじ伏せ、その右腕を背中に捻りあげる。
「お姉ちゃん──大丈夫?」
キズナ──最近はカイナの手伝いをしている。
一応、真解ユズルの探偵事務所をそのまま引き継いでいる。
「あぁ、キズナ──そっちも無茶するな」
「うん、わかってるけど──お姉ちゃん、この空──」
「まったく本当にどうなってるんだ──本当なら今頃、私はミリスと一緒にアニメを見て、一緒に昼寝してる時間だったのにね」
強盗の腕を捻りその背に馬乗りになりながら、カイナはそんな紫色の空を見上げる。
「──なんだ、あれ」
そんな空を見つめカイナは言い、キズナと険しい表情で見つめる先。
黒い──流れ星のようなものが──あたり周辺に落ちていく。
ドガンッとその黒い流れ星のような一つがそんな二人の割と近い場所に落ちる。
「お姉ちゃん──」
「キズナ──逃げろ」
地面に落下した人の大きさくらいある黒い球体。
液体のようにその形を変えると化け物のような形になる。
「うぁーーーーっ」
別な場所、その混乱に紛れ、複数居た強盗の一人がその場から逃れようとするが──その化け物に捕まり、その腕にぐしゃりと捻り潰される。
「──その銃弾があなたに引導するっ」
キズナは、拳銃を取り出し──銃口を化け物へと向ける。
─────
トウカの通っている学園──
「ナギサとか、あの謎の転入生とか──何処行ったの、アゲハ?」
「私が知る訳ないじゃん」
毒島アゲハはそうクラスメイトに振られ当然のようにそう答える。
「おい──流れ星っ」
窓で紫色の空を眺め続けていた男子生徒がそんな空を指さし叫んでいる。
「すげぇ、なんだ──色が黒いし、めっちゃ振ってきてるぞ」
「世界が終わりだって──ネットで騒ぎになってるぜ?」
クラスがそう──まだ何処か他人事のようにただの祭りごとのように騒ぎ立てている。
ガシャンッ──
その降り注ぐ黒い球体の一つがクラスの窓を割り中に入り込む。
「な、なんだ──」
「なに──」
能力者として、他の者よりはその事態を受け入れられていたアゲハだったが──
その球体が化け物の形へと変わっていく。
ただ事ではないその事態に周囲が悲鳴を上げ化け物と距離を取る。
化け物が口を開くと──口の中が黒く光り──黒い炎のようなものを吐き出す。
「私は拒絶する──」
そう、アゲハはただ戸惑っていると──
「莉絶先生?」
駆け付けた莉絶カナがその一撃を能力で拒絶する。
「カナ先生から離れろーーーっ」
ドッジボールのボールが化け物にぶつかる。
「タマゴリラ──?」
タマゴリラこと球豪アキラがさらにその場に救済に入る。
だが、そんなたった一つの災害、アゲハのクラスへ現れた化け物一匹に混乱する学園、そんな学園の校庭や──さらに別のクラスにもその流れ星のように降る黒い球体が衝突するように着地すると、次々と学園内から悲鳴が響き渡る。
世界が壊れる──
誰かがそう言った。
そして──その言葉は実現され始める。
─────
「なんだよ──コレ」
そんなナギサの言葉、ナギサの目線。
リエンの施設、この部屋の一つと思われる投影の機械が──そんな外の様子を壁に映し出している。
降り注ぐ黒い流れ星──そこから混沌が産まれる。
世界はそれに覆いつくされるというように──
「貴様らが世界に持ち込んだ汚れだ──セカイを壊すのはお前たち人間自身だ──」
「どの目線からほざいてんだよ、あんたはっ」
ナギサはそんなクウドに世界の様子に恐れる事無く言葉を返す。
「恐れを知らない子供に、その勇敢と無知ゆえの無謀というものを教えてやろうと思ったが──世界に必要のない人間には不要だったかもな」
「だから、意味がわかんないのはてめぇーだよ、そもそもあんたの理論で世界に意味のあるものは逆になんだよ、誰かの幸福にも私の不幸にもそこに意味はある──それをあんたの意味の無い意味で邪魔すんなっての」
「だから、言っている──この映像の出来事は俺のせいではない、一つは肥えたブタ共の汚れた感情、そしてもう一つはそんな被害者ぶった者の無責任な憎悪の感情、それらがセカイは魔力として変換し、世界を創る──、そう、白竜、黒竜、そして──結代トウカ、お前の父親が邪魔さえしていなければ、とっくにセカイはこうなっていた」
「そして──同時に白竜と黒竜にその役目を放棄させ、請け負った責任を処理しきれなくなった──結代トウカ、お前の父親の責任だ」
「──黙れよ、人間に意味の無いって言ってるあんたが人間を悪く言ってんじゃねぇよ」
「結代トウカ、お前の父親が人間?本当にそう思っているのか?」
「──父さんの産まれなんてのは詳しく知らないけど、俺はあの人とかあさんの子供だ、それに、父さんが人間じゃねってなら、あんたは父さんの存在の意味を“認める”って事でいんだよな」
「甘っちょろい、あの男のガキにしては随分と屁理屈の多いモノだな、だが──俺がそれを認めた所でセカイにはなんの意味がない」
「クウド、僕やトウカ、そして父君様を余り舐めないでほしいものだね」
ミリスがそうクウドを見る。
「今のお前に何ができる──愚かな人間どものおかげでこの混沌はてめぇの手に負える範疇を超えている」
「にしし、僕はそれは恐ろしい白竜だよ──クウド、僕はこの短期間で君の手に入れた混沌以上の記憶を手に入れたよ」
「──白竜といっても、世界の事を何一つ理解していない子供だな、それが意味が無い事を教えてやる」
「トウカ──おかあさんが僕の部屋を作ってくれた時の事、覚えているかい?」
「──ミリス?」
「──トウカから僕の部屋だって言われる前にもちろん、お母さんは僕にそれを告げて作ってくれたよ」
ミリスは当時の事を思い返す様に嬉しそうに俺に語る。
「でもね──実際に僕の部屋を用意してもらって、そのドアにお母さんが“Millis”と僕の名前をドアにかけてくれた時は、正直感情の処理が追い付かなかったんだよ──だからトウカに頼った」
「あぁ、あそこはお前の部屋だ、あの時からこれからもずっとなっ」
「可愛いカーテン、大きなベッド──僕ね、とても、とても嬉しかったんだよ──ねぇ、トウカ──おかあさんにそう“伝えて”くれるかい?」
「ミリス、やめろ──なに考えてる、そういうのはお前が自分でそう言うんだ、やめろっ」
ミリスは俺を寂しそうに笑顔で見つめた後──
目を瞑り、大きく息を吸い込む。




