【その拒絶を、正せ】
吹き飛ばされた女性がゆっくりと起き上がりこちらを光の無い瞳で俺たちを黙って睨み続ける。
昼間──いくら人口の少ない町──人気の少ない歩道、能力者以外には能力は見えていないとはいっても──この光景は異常だろう。
「嫌い──嫌い──大っ嫌いだ──」
─────
「──先生?最近、あなたのクラス、一部の生徒の横暴が目立つんじゃないですか、困るんですよ、いつまでも新人教師気分──私たちがどれだけ、あなたのクラスの親御様からクレームの電話を受けていると思いますか?」
「はぁ──すいません」
───
「ねぇ、──さん、最近あなた──さんに接する行動、余りよくないんじゃない?」
「はぁ──なに、説教?まぢうざいんだけどッ」
───
「おいっ、──先生ってのはどいつだッ!」
「はいっ!?わたしです」
「うちの娘にとんだ言いがかりつけてくれたらしいなっ」
「いや……その私は──私はただ、──さんが間違った事をしてたから正そうと──」
「はぁ?あんた、きちんと見たのか?自分の目で見てそう判断して注意したのか?あぁっどうなんだって聞いてんだよッ」
「やめてくださいっ大きな声──」
他の先生に助けを求めるように視線を送る。
「………」
目が合うと──自然と周りは目線を反らされた。
────
「どうすれって言うんだ──どうすれば正解だった──」
「嫌い──嫌い──何が大人だ──どうして子供だけが守られる──」
「拒絶する──拒絶するッ!拒絶するーッ!!」
言葉の数、三つの黒い火の球。
「トウカくん──もう一度ッ」
黒い触手が伸びる──悪夢。
女性の手足に触手が絡みつく。
「くっ」
母親から半端に習った護身術──
繰り出された黒い火の球を右と左の翡翠色の拳で叩き落す。
そして──再び委員長──ユイが俺を瞳に映すと──
再びシュウをイメージするが──
「なっ──」
黒い影が具現する寸前で消滅する。
「トウカくん、馬鹿ですか?それは先ほど拒絶された──一撃を加えたからと何度も使えないことくらい理解できなかったのですか?」
「んなこと言われたって、恐怖──悪夢の対象なんてほぼ、精神的なもので思考できるものでもないだろ」
「嫌い──嫌い──拒絶する──お前ら全員を拒絶するっ!!」
身体の三分の一くらいありそうな巨大な黒の火の球。
さすがに拳で防ぐなど──。
「苦戦しているんじゃないのか──結代トウカ」
低めの渋い声──後ろから余裕で足元まで伸びた白いロングコートのポケットに手を突っ込みながら言っている様子が目に浮かぶ。
「右手を構えろ──そのお前の結界を正せ──それがお前のあるべき能力だッ」
後ろの男がそう言うと──俺が手を伸ばした先に封じられた透明な結界が発動し──透明な板が巨大な黒の火の球を拒絶する。
「結代トウカ──渡した名刺はどうした?ピンチの時はてめぇなら、今なら本来の倍額で請けてやると言っただろ」
「まさか──その人が言っていた──」
ユイが現れた男を見る。
「ふん──どちらが正しいか少し見物させてもらったが──」
「嫌い──嫌い──」
「なるほど──能力者が壊れるとこうなるんだな──」
「結代トウカ──てめぇの周りにはこんなやつらばかりだと言う事か?」
「それは──あなたも含めてでいいですか?」
「おいおい──結代トウカ──助けてもらった相手にそりゃ、ねーだろ?」
「最近のクソガキは、義理だの尊重という言葉をしらねーのか」
「そうされるには、それに相応しい立ち振る舞いと言葉遣いが必要かとおもいますが──」
「さすがは委員長──言葉だけは立派だな」
「さて──結代トウカ──俺が引導を渡してやるよっ」
カチャリと回転式拳銃の銃口が俺の後頭部に向けられる。
「ふざけていないで──あんたが尊敬できるような凄い人だと俺たちに想わせてほしいんですけど──」
「はっ──まぢで可愛げのないクソガキだ、まぁいい──結代トウカ、てめぇには聞きたいことがまだ、沢山あるからな」
回転式拳銃を前にかざしたまま、女性の方へと歩いていく。
「嫌い──嫌い──」
ダンッと銃弾が──女性の頬をかするように地面を撃ち抜く。
「魔力の銃弾?」
それが、本物の拳銃とどちらが危険かはわからないが──
少なくとも対能力者戦に置いては、そちらが有利だろう。
「次は当てるぞ──おんなぁっ」
そう女性も容赦しないと真解ユズルは不敵に笑う。
ダンッ──銃声が響く。
「拒絶するっ──」
「なん──だと──」
銃弾がくるりと回転すると──
咄嗟に顔を反らした真解ユズルの頬から少し血が流れ後方へと銃弾が消える。
「なるほど──面白い能力だ──だが、不正も俺が正すべき対象だ」
─────
守ってあげられなかった──守れなくなっていた──守れるものではなかった──
だから──壊れていったんだ。
私は逃げ出して──
「まったく──あれくらいの威嚇で──あなたもいい大人です、一人でなんとかしてくれないと」
──誰よりも真っ先に私の助けを求める目から目を背けたくせに──
──あの男の威嚇に怖気ついていたくせに──
「ぎゃははははっ──」
生徒が嫌がらせを受けている──
でも、今の壊れた私の瞳には映らない──
ごめんね──たぶんそれを言う資格も私にはなくて──
そして、すっかりとその子供と──その背後の大人に怯えるように──
私はただ──それに無関心に──そしてエスカレートする生徒の暴挙に時には私自身がそんな対象になった──
あーーー、憎い──許されるなら同じことをやり返したいのに──大人には許されない──どうして、どうして──子供に許され大人に許されない──だから──
─────
「嫌い──嫌い──大っ嫌いだッ!!」
「いいぜ──その調子だ、おんなっ」
回転式拳銃を構える。
「無駄──ぜんぶ、拒絶──拒絶する」
「嫌な事ぜんぶ、拒絶するなんて大人のすることじゃーーーねぇ」
「煩い、煩い、煩い──」
「正せ──何を悩んでいたかはしらねーけどな、お前はその拒絶を正せは良かったのさ──」
「なにが──嫌い──私に何ができた──我慢する以外に何が──」
「そこだ──我慢なんてしなければよかった──守る者、壊すもの──それはお前が社会なルールで不正したんだよ──それがお前の選択だ」
「それを拒絶するなんてことは不正だよな?」
「嫌い──黙れ──拒絶する」
「──だったら俺がその拒絶を破壊するッ」
ダンッ──銃弾が女教師に向かう──
「拒絶する──」
くるりと銃弾が180度回転する。
「正せ──この銃口が向くべき方向、それがその銃弾の向かうべき軌道 ──おんな、おまえの拒絶を俺が修正するッ」
時間が巻き戻る様に──銃弾が再び正しい方向へと戻る。
「あぁーーーーーーっ」
女性の左肩を銃弾が貫通する。
「あぁーーーーっ」
女性が地面へと転げまわる様にその激痛に──
「やめろっ」
「なんのつもりだ──結代トウカ?」
銃口を女性に向けたまま──その目の前の透明な板の結界の意図を問うように俺を見る。
「まさか──この期に及んで、情けをかけようって訳じゃねーよな?」
「後は──俺に任せてくれ」
「──何か知らねーが、てめぇに何かができるって言うのか?もしくだらない結果ならこの銃弾はてめぇにぶち込むぞ、クソガキ」
「そうしろよ──」
俺は拳に魔力を込めると、その女性の頬へと触れる。




